第41話 「母への決意表明」
白竜の住居の居間は、円形の空間に円形のテーブルが中央にある。その周りに石を削って造られた椅子が並び、外側の石壁に取り囲むように白竜一人一人の部屋が存在する。その並ぶ部屋の中で、入口から正面に突き当たる位置に母の部屋がある。セロンは、母の部屋のドア前に立って軽くノックをする。短い返事が帰って来たので、扉を開けて部屋に入る。部屋に入ると母はベットで眠たそうに体を起こしていた。
「セロン、こっちにおいで」
母のディアンはあくびをしながら手招きをした。セロンは尻尾を揺らして、とことこと傍まで行った。
「寝不足なの?」
「少しだけだ。それより、あの男と旅に行く前にお前の意志を確認しておきたい」
「僕の意志?」
「そうだ。お前は山の外で何をしたい? 旅をして何を求める? 教えてくれ」
丁寧で重さを帯びた声だった。セロンの心はもう既に決まっていた。
「僕は初めて街に行って色々知ったんだ。想像していたのとまったく違ったよ。全然分からない事だらけだった。あんなに人々が過酷な生活をしてるなんて思わなかったんだよ。だからもっと知らなきゃいけないと思ったんだ」
「知ってどうする?」
「前に僕が優しい竜が出てくる絵本を描いてもらいたいって言ったの覚えてる?」
「うむ、覚えている」
「今も変わらないよ。僕は人に優しい竜の絵本を描いてもらいたい。その為に、この世界をしっかりと知りたいし、困っている人が居たら助けたいんだ」
「これからもっと残酷で、救いようのない世界を見る事になってもか?」
「うん、僕は苦しんでいる人を救えるような竜になりたい。世界一優しい竜になりたいんだ」
セロンは決意の眼差しを母に向ける。
「そうか……なら、頑張ってみなさい」
「うん」
会話が途切れて、沈黙が流れた。セロンは視線を斜めに向けて、訊くべきか躊躇したが、訊く意欲が上回った。
「僕はいらない子? 不出来で必要のない子なの?」
母は目をパチクリと瞬きした。
「何を言っている? セロンは我の大切な息子だ。この旅だってセロンの為に考えたんだ。思いっきり外の世界を楽しんでおいで」
母は満面の温かい笑みでセロンの頭を撫でた。セロンは少し大袈裟な動作のように思えたが、気持ちは落ち着いていた。それから、セロンは母に別れを告げて住居の外に出た。敷地内の端にある二つのお墓の前に向かった。お墓の前に立ち墓石を見つめる。一つは小さめの丸くつるつるした青い石。フィルターリ族の友達ミリアの墓だ。もう一つは真っ白な細長い石で、ルミアお兄さんの墓である。それぞれ、前に花が供えられている。少し寂しい気持ちになった。
「それじゃあ、行ってくるね。ミリア、ルミアお兄さん」
土で眠っている二人に別れを告げ、セロンは敷地正面の出入り口を目指した。石橋の手前にはあっくんがもう既に待っていた。傍までいくと目を細めて訊いてきた。
「セロン。お前、荷物はどうしたんだ?」
呆れがこもった声である。
「あっ、忘れてた。取りに行って来るよ」
セロンは慌てて、住処に戻って行った。後ろでため息が聞こえたような気がした。




