第4話 「森の中の異質な存在」
自室を出た先は、広間になっていて、円で囲うように兄弟達と母の部屋が並んでいる。
中心に石を綺麗に削ってできた円卓があり、石でできた椅子が取り囲んでいる。
白竜の住処は、壁や床など、基本は石でできている。
各部屋のドアは木でできており、それぞれの部屋に木の表札で誰の部屋かを示している。
僕の部屋は、家の丁度中心くらいにある。
様子を伺うように、向かって右側の方にある母の部屋の方を確認した。
目をつぶり、音に集中する。
母の寝息が扉越しに聞き取ることが出来た。
「寝てる」
そう小さく呟くと、次に、少し右の方へ行って、裏口の隣にあるプヨルの部屋を確認した。
プヨルの部屋のドアには、〈地下で作業しています〉という掛札がかかっていた。
今がチャンスと感じた僕は、音を立てずに、正面口から出て行った。
白竜の住処は、円状に川が敷いてあり、それぞれ、四方向に石の橋がかかっている。
中心近くに家があり、家の正面入り口から出て、左側に、水溜めの池があり、魔法アイテムで水が生成され、流れていくようになっている。
そして、その水が、囲む川に繋がっている。
敷地を歩き、橋を渡った。
橋を渡る途中で家の方を振り向いた。
ずっと暮らしてきた所を離れるとなると、やっぱり物寂しく感じる。
(もう、帰ってくることはないのかなぁ~……)
正直言うと、自分ひとりで外の世界に行くのも、不安でしょうがない。
けど、もう僕には残された道は他にない。だから、進むしかない。
自分のやりたい事を強く唱えた。
(旅に出て、沢山観光して、世の中の人と仲良くなりたい)
心の中でそう言い聞かせる事で、寂しさを紛らわす。
橋を渡り切り、山を下って行った。
森の中を低地に行くように進んでいく。
足場の悪い岩の段差を降り、途中流れている川付近を歩いて行った。
そんな風に、様々なロケーションをどんどん進んでいく。
茂みの中を進んでいると、ふと、異様な気配がした。
この辺りに生息している生き物の気配ではない。
自然の音や匂いとも異なる。
気になり気配のする方へ視線を向けた。
木に登り、少し視線を高くして眺めると、少し離れた所に人がいるのを植物の僅かな隙間から捉えた。
相手はまだ、こちらには気づいていないらしい。
人には会った事は一度も無いが、見たことはあるのですぐに人だと分かった。
(こんな所に人?
白竜の家の方に向かってる……多分僕を迎えに来た人だ)
見た目はここからじゃ、よく見えない。
(本当に来るんだ
いままで、家まで来た人なんていない……と思うけど……いや会ってないだけで、いたような気もする……)
そう黙考していると、姿が見えなくなった。
(いまあの人が家に行っても、僕がいないから、待ちぼうけを食う事になる。
そして、僕がいない事で、母やプヨルは戸惑うだろうし、恥をかくかもしれない。
白竜は、敬意もない失礼な奴だとあの人に思われるかもしれない。
そうしたら、白竜のメンツも丸つぶれになるんじゃないだろうか。
僕一人の行動が、他の皆に迷惑をかけるんじゃないだろうか)
熟考していると落ち着かない気持ちになった。
後ろめたくなって視線を落とした。
(ぼくはあの人とは会わないって決めたんだから、こんな気持ちになっちゃだめだ)
と自分に言い聞かせた。
そうすることで、下る方に歩み進めることが出来た。
けど、少し歩いたところで、迷いが再びセロンを襲った。
セロンは持ってきた一つの本をリュックから取り出した。
その本のタイトルは〈より良い関係は接し方が八割〉というものである。
その本のページを次々とめくっていき、あるページでめくるのを止めた。
そこには、以前学んで記憶に強く残っている内容が書かれていた。
====================
できるだけ人を待たせないようにしよう。それが、気遣いであり、話をスムーズに進める方法です。
====================
という一文である。
(今まで、ずっと人と仲良くなりたいから勉強してきたのに、一人目の人に対しての対応が迷惑をかける事になるなんて、いいのだろうか?
僕から優しさを取ったらいったい何が残るのだろうか)
悩んだ末に本を閉じた。
家出をしてきたのに、今更戻るのもおかしいと思い本をリュックの中にしまった。
再び歩き出だそうとした時、ふと声が聞こえて来た。
その声は、小さく風に溶けて消えてしまうようなものだった。
しかし、僕の心を動かすには十分だった。




