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小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第1章3節 全ての始まり

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第39話 「あっちむいてほい」

辺りで一番高い山で、天辺(てっぺん)は台地になっている。周りは小川(おがわ)に囲まれている。中央には岩を削ってできた白竜が住める住居がある。セロンは家に戻って来た。敷地内には兄弟の姿は見当たらなかった。あっくんはツエトに連れられ、青空会議室で待たされた。


 五日しか経ってないのになんだか(なつ)かしく感じた。セロンは家の正面玄関を通り、居間に入った。中央のテーブルを囲む石椅子(いす)の一つに母のディアンが座っていた。(りん)としてすらっとした姿だ。母はセロンに気づくとすぐさま()って()きしめてくる。


「セロン、心配したではないか」


 ()んだ声で温かみがあった。しかし、セロンには()に落ちない態度だった。


「ただいま。勝手に出て行ってごめん……」


 自分の行動が心配を(まね)いたので、セロンは取り()えず謝った。


「いいんだ、セロンの気持ちも分かる。それよりもあの男に何かされなかったか?」


 母はセロンを離して訊いた。


「あっくんはいい人だよ。助けてくれた時もあったし、料理も作ってくたから」


「本当か? 不満なことはなかったか?」


 ハッキリといい人だって答えたのにどうして二度も問いただしてくるのかと釈然(しゃくぜん)としなかったが、考えてみた。あっくんに対して少し気になったのは対応が冷たい時があった事だ。母は何か言わないと離してくれそうにないので、その対応を柔らかい含みを持たせて伝えた。


 セロンの話を聞いた母は仰々(ぎょうぎょう)しく驚き、「それは(つら)かったな」とまるで長年苦労してきた功労者(こうろうしゃ)のように(ねぎら)った。


 やっと解放されたセロンは自室に戻り、忘れ物は無いかと確認した。寝具を忘れ、あっくんに借りたので枕とブランケットはリュックに詰め込んだ。もうパンパンで何も入りそうにない。母もただあっくんと会っておきたいだけで、これからまた山の外に出てはいけないなんて注意はされないと思うので、今度こそこの家には戻って来ないだろうと思った。セロンは他に忘れものは無いか念入りに考えた。ふと、まだ地下に一度も行っていないのを思い出して最後に行きたい衝動(しょうどう)()られた。


 セロンは荷物を自室を出た横壁に立てかけて、地下への階段の方に忍び足で歩いた。



               *



 生垣(いけがき)に囲まれた、天井の無い空間。一画に木の横板(よこいた)があり、木製の台と机と椅子。簡易的だが、整備されているように感じ取れた。トウシはセロンから名前を聞いたが、色褪(いろあ)せた兄弟ツエトに連れられて白竜の住処(すみか)にやって来た。とても応接間(おうせつま)とは言えない場所に待たされている。


 どのくらい待たされるのかと座りかけたところ、再びツエトに声をかけられた。


「来い、お(ばば)と面会だ」


 ぶっきらぼうな態度は一切(いっさい)もてなす気がないと分かる。トウシも期待はしていないが、歓迎されてないと自然と身構(みがま)えてしまう。どんな奴なのかと頭で予想を立てながら、荷物を持ち歩いて囲いを出た。


 中央には大きな岩を削った施設があり、周辺に畑や池、物干し棒などがあった。中央の入り口の横に看板が立ち、門の前に白竜が立っていた。トウシと同じくらいか、少し背が高く後ろ脚で立って腕組をしている。やはり、一般的なフォルムの白竜はいないのだろうかと首を傾げた。ツエトは顎をしゃくって(うなが)してくる。トウシはため息をついて従った。


 ずっと凝視されながら、お婆と呼ばれている竜の元まで来た。ツエトは何処(どこ)かに行ってしまった。手早く済ませてしまいたいと思い、言葉を切り出した。


「青葉トウシだ。【OC】の命で白竜セロンを導く任務を遂行することになっている」


「知っている。我は白竜の母、ディアンだ」


 威厳ある低い女性の声だった。


「お前は本当にあいつが寄越(よこ)した(みちび)き手なのか、あいつがまともな奴を選んだのか確かめさせてもらう」


「確かめる? どうやって?」


「あっちむいてほいだ」


 トウシは言葉を疑った。そんな遊びで何を確かめるのかと疑問に思った。


「一回やればわかる。あいつが寄越した者なら私に勝てるはずだ」


「どっちが指し手だ?」


 まだ釈然(しゃくぜん)としてないが、話に乗った。


「我が指す側だ。我の掛け声と同時にお前が首を四方のいずれかに向けろ。理解したか?」


「承知した」


 意図は分からないが、ゲームに勝てば済むのなら構わないと思った。


「一つ言っておくが、まともに勝負しても我には勝てぬぞ。心得ておけ」


 その忠告でトウシは何を確認しようとしているのか理解した。それを確かめたいなら仕方ない、やるしかないと心を決めた。左手を強めに(にぎ)り込む。


「用意はいいか? ならいくぞ、あっち向いて…」


「ほいっ」の掛け声が出ると同時にトウシは右を向く動作をしたがそれに合わせるようにディアンの指が右に向く。やはり人の動きに合わせるのは取るに足らないようだった。一般人なら何度挑(いど)もうが負ける。反射神経も動体視力も圧倒的差がある。


「ほいっ」


 掛け声と同時にディアンは右を差した。しかし、トウシは左を向いていた。一瞬の間にディアンを(あざむ)いたのである。勝負に勝ったトウシは何食わぬ顔で先の言葉を待った。


「……いいだろう。認めてやる」


 ジロジロと()(まわ)すように見てくるが、トウシは手短に済んで胸を撫で下ろした。


「ただし、もしセロンに何かあったらお前に明日はないからな」


「承知している」


それから、(いく)ばくかディアンから指示を受けた。大方、言われずとも承知している内容だ。トウシにも目的があり、この任務を引き受けている。


「最後に一つ頼みを聞いてもらおう」


 ディアンが毅然とした態度で言った。


「なんだ?」


「右腕を貸せ」


 トウシは言われるがままに右腕を前に出した。突然、(またた)く間に手を掴まれ、手首に何かをつけられた。唖然として、右手につけられたものを確かめる。〈セロンの勇気に従います〉と書かれた白色のブレスレットだった。


「なんだ、これ!」


「おまえ、先ほど立ち寄った街でセロンの相談を無下(むげ)にしたそうじゃないか」


「はっ? 何のことだ?」


 ディアンが首を伸ばして顔を近づけ、睨みを利かせてくる。


「この腕輪はセロンの意志を無駄(むだ)にしたと分かったら起動して、お前を粉々にする」


「なんだと?」


 トウシはブレスレットを外そうとした。


「無理に外そうとしても、起動するからな。心得ておけよ」


「おい、それは……」


「セロンのやりたいように協力してやるのだ。いいな? あの子の答えを尊重(そんちょう)しろ」


 トウシは怒りと(あき)れで目眩(めまい)がした。どいつもこいつも自分勝手で人に強要(きょうよう)してくる。少しは(いた)わる者や案じる者はいなのかと心の底で(なげ)いた。


 ディアンは(きびす)を返し、ご機嫌で尻尾を揺らしながら住居の中に消えていく。トウシは尻尾を()んづけてやりたいと(いきどお)りを覚えた。







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