第32話 「無理難題な追加任務」
部屋の中は、備え付けの棚が奥にあり、真ん中にちゃぶ台が置かれていた。床にはくたびれた絨毯が敷かれ、壁は穴が開いた布や薄い錆びた鉄板で覆われている。それ以外には何もなかった。閑散としていて、どこか冷たい風が吹き込んでくる。セロンは、寂しくて胸が空っぽになった。
カレンが出口から治安維持部隊の男の人に連れられて出ていく途中だ。セロンは、ただただ、その様子を部屋で寂しく眺めているだけだった。
静かに見送っているとカレンが出口を通る時、側面に飛び出ているささくれに引っかかって何かが床に落ちた。よく見るとセロンが渡した【友情の証】だった。レイナさんが作った【友情の証】とは反対のポケットに入れていたらしい。セロンは歩いて拾い、部屋の前の通りを歩く後ろ姿に呼びかけた。
「落ちたよ、【友情の証】……カレンさんが作った方の……」
カレンは足を止めて一瞬黙った。しかし、首を横に向けて冷たく告げた。
「もう私には必要ないわ。あげる」
一言だけだった。後は何も言わず、スタスタと無言で歩いて行く。とうとう部隊の男に連れられたカレンの姿は、通りの角で見えなくなった。セロンは、拾った証を見て、伝えておきたい話を思い出した。それはセロンがカレンの家にお邪魔した理由であり、セロンが彼女にしてあげられる役目だった。
セロンはカレンを追いかけるように、住居区内の通りの曲がり角を曲がった。少し先で歩いているカレンの後ろ姿が見えた。
「カレンさん、待って! 一つだけ許して欲しいことがあるんだ」
セロンが大声でカレンを呼び止めた。周りの住居から野次馬がざわざわと話し声を漏らしながら、連れられている様子をのぞき込むように見ていた。再びカレンは立ち止まった。それに合わせて部隊の人は待ってくれているようだった。
セロンは大きな風呂敷を前に持って来て、ありったけの思いを込め、カレンに伝えた。
「カレンさんから買った【友情の証】は僕が旅路で出会う人々に渡してもいい? 僕、レイナさんの考え、凄くいいと思ったんだ。やってみたいと思ったんだ」
カレンは少しの間、無言で佇んでいた。セロンは返事を待っていると、首を横に向けて、かすかに聞こえるような小声で言った。
「……ありがとう」
セロンはそれが肯定だと受け取った。それからカレンと部隊の者は、スタスタと歩いて入り組んだ住居群の角を曲がり、見えなくなった。周りの人々は、二人が居なくなると興味を無くし、続々と家の中に姿を消した。セロンはカレンが落とした【友情の証】に再び目線を落とした。
カレンはレイナとの約束を形だけでも守りたかったから一緒に行くと言った。セロンの質問にそうだと答えた。けどセロンには、彼女が微かに嘘をついているように感じた。セロンと他の街について談笑した時、カレンは心から話題に胸を躍らせている様だった。無邪気な童心のセロンと同じ感情に思えた。カレンもきっと、本心では旅を思う存分楽しみたいと思っていたに違いない。セロンは、そんな気がした。
そして旅に行けるセロンは、恵まれている方なんだとその時実感した。もしカレンと一緒に旅に行けたら一体どれほど楽しい旅になるのだろうかとセロンは物思いに耽り、寂しさ混じりで歩みを進めて行った。
少し歩き、住居区内にある二階建ての薄い鉄板拠点に帰って来た。二階の踊り場まで来ると、ダイアル式の鍵がドアに取り付けられているのが見える。まだ、あっくんは帰って来ていないらしい。セロンは十分程階段に腰を掛けて待ってみた。しかし、あっくんは帰って来なかった。それなら匂いを辿って探しに行こうと考え、錆びた穴だらけの階段を駆け下りて行った。
住居区内の入り組んだ通りで匂いを嗅いだ。そよ風に乗って微かにあっくんの匂いが流れてくる。その匂いを辿り、セロンは歩みを進めて行った。
セロンは果実の甘い香りや焼き物の香ばしい香りに惑わされながら、この街のメインストリートである焚火通りまでやって来た。以前来た時よりも賑わいがある。鎧を着た治安維持部隊が通りの真ん中で仮設テントを立て、街の住民たちに配給と炊き出しを行っていた。群がっているのは、貧民区の住民達が多く、ちらほらとそれ以外の人々も見て取れた。周辺には既に芋と汁物を貰って、立ち食いする者や座って食べている者がいた。セロンはこんな配給が出来るのなら、なんで今までやらなかったのだろうと訝しげに思いながら、その場を後にした。
焚火通りの焚火を通り過ぎていき、街の中央の木橋を渡り、少し見栄えを意識した建物群の上位地区まで歩いて来た。歩いてる途中では、鎧を着た治安維持部隊だと思われる人と多くすれ違った。街中はやはり以前よりずっとざわざわしているようだった。
匂いを辿り真っすぐ歩いていくと、役所の前、水汲み場がある広場にまたまた仮設テントが建てられていた。そして役所の脇辺りであっくんが治安維持部隊の一人と一緒にいるのを発見した。セロンが通報したガタイのいい重厚な鎧を纏った部隊の人と一緒にいる。セロンが近くに寄ると会話が聞こえて来た。
「あまりにもこの街、放置しすぎじゃないか?」
あっくんの深みのある声が聞こえてくる。
「それは出来るだけ外部の者が介入しない方針になってたからだ」
精悍な隊員が低く重たい声で答えた。
セロンはお取込み中だと分かり、今、声をかけるのは良くないと考えた。ただし、会話の内容は気になるので建物の陰に隠れて盗み聞きしようとした。
そしてセロンがこっそりと役所の後ろに回り込もうとしたところ、あっくんに気づかれてしまった。
「おい、セロン何処に行く気だ?」
びくっとして、あっくんの方に振り向いて口籠る。
「えーっと……」
「丁度いい、お前もこっちに来て一緒に聞いてくれ」
あっくんはセロンがはっきりと答える前に手招きをした。
セロンがゆっくりと近寄って、精悍な隊員を見上げ、まじまじと見ると、やはりこの街には不釣り合いな重厚な鎧と体つきであると感じた。そして、腰に収まってるダガーはあまりにも似合わない組み合わせでへんてこりんだと思った。
「会ったのは二回目かな? 丁度この広場と君が通報しに来てくれた時だと思うが」
精悍な隊員は、伺うように丁寧に聞いてきた。
「うん、そうだね。えーっと……」
セロンは隊員の名前を知らなかったので、なんて呼べばいいか戸惑った。それを察した精悍な隊員は、自己紹介をした。
「私は、治安維持部隊隊長のフィルズ・アスターだ。よろしく」
「僕は、白竜のセロン。よろしくフィルズさん」
セロンは、愛想よく挨拶をした。
傍でやり取りを聞いていたあっくんは、話の流れを戻そうとフィルズに訊いた。
「それで、今度は街に積極的に介入しようとしているのか?」
「ああ、そうだな。これから、街政を再編することになる。お前が言ったように我々が街を主体的に統治する」
「住民の暮らしは悲惨だぞ」
「それも改善する予定だ」
フィルズは重く厳かに答えた。
「それで? 本題はなんだ?」
あっくんが切り出した。セロンは空気が少し引き締まったような気がした。
「まさか、事後報告だけしに来たわけじゃないだろ?」
あっくんは、鋭い視線をフィルズに向けた。フィルズは、周りに人がいないかをチラチラと確認した後、話し始めた。
「【OC】から追加の任務だ」
声のトーンを落とし、少し潜めてフィルズが答えた。
「急にか? 今は面倒な任務に……」
フィルズがあっくんの声を遮った。
「最重要任務だ。現行の任務と並行して遂行するようにとお達しだ」
それを聞いたあっくんは、眉を顰めた。セロンは夢中で聞き入っている。
「お前も聞いた事がある話だ」
フィルズはそう答えると、チラリと周りを見回した。
「それに今回の悪事の裏にもその俗称の竜が関わっている可能性がある」
あっくんがその言葉に反応した。
「闇組織の捕らえた女が白状した」
その言葉に、今度はセロンが反応した。きっとカレンのことだと思った。
「誰か裏で糸を引いている者はいるか問いただしたところ、嘘か本当かザルスという男から支援をして貰っていたと吐いた」
セロンはあっくんが静かに息を吐き出すのを聞いた。
「【無形の竜ザルス】、訊いた事があるだろう? 誰も実体を知らない。本当に実在するのかすらも疑わしい程、正体を掴めない存在だ」
セロンはちんぷんかんぷんだった。
「いずれにせよ、この対象はこれからお前にやってもらう任務に関わる」
再びフィルズは念入りに周りを確認している。これでもかと後ろや物陰まで覗き見てから再び切り出した。
「本題を言うぞ」
声が一層重たくなった。
「お前にやってもらいたい追加の任務が二つある」
「二つもか?」
「ああそうだ」
あっくんは納得のいっていない表情で聞いている。セロンは、緊張して唾を飲み込んだ。
「一つ目は、竜の名を持つ殺戮者三人の始末だ。それぞれの俗称は、【麗焔の竜イクセント】、【轟嵐の竜ゲイル】、【無形の竜ザルス】だ」
あっくんは煩わしそうな顔をした。
「二つ目は、世界を滅ぼす危険因子三つを排除することだ。それぞれの通称はない」
フィルズはさらりと言い切った。
「待て、どうしてそいつらを俺が始末しなきゃいけないんだ?」
「こいつらは、こちら側では手に負えない化け物どもだからだ」
「俺にも手に負えないと思うのだが……」
「お前以外にはいない。任務を引き受ける者もいない。それに、これは何と言っても【OC】の決断だ」
【OC】と言われるとあっくんは、強く反論することが出来ないらしい。言葉につまっている。だが、すぐに食って掛かった。思わずあっくんの声は大きくなっていた。
「情報が少なすぎる! 第一何処にいるのすらも分からないなんてどうしろって言うんだ? それに俺の任務は……」
しかし、言葉を遮るようにフィルズが告げる。
「【OC】は、お前の現行の任務遂行中に探さずとも障害として立ち塞がると考えている」
「だとしたら……なんで…………」
あっくんは何か言いたそうだった。
「……了解した」
あっくんはまだ腑に落ちて無さそうだった。なかなか大変な事になって来たとセロンはそわそわした。
「安心しろ。後処理が出来るように俺はできるだけ、お前を追って行く」
それでも渋い表情をするあっくん。釣られるようにセロンも難しい表情をした。フィルズは、あっくんの気持ちなどお構いなしに、肩を叩いて話を終えて去ろうとする。
「頼んだぞ」
二人は棒立ちになって、フィルズの後を見送った。あっくんは、視線を前に戻してため息をつき、疲れたような仕草で呟いた。
「まったく、【OC】はいったい何を考えてるんだ? 手伝おうとする奴もいないのか?」
「あっくん、大丈夫?」
セロンは気遣うように訊いた。
「どうだろうな? 世界を滅ぼせるような奴を始末しろだなんて俺一人が抱えてもいいことか?」
あっくんは訴えるように訊いてきた。セロンはまごついた。
「……そうだね、ぼくが手伝うよ」
セロンが誤魔化すように笑顔をつくり励ました。
「やっぱり、軽いよな……」
何故かセロンはムッとした。
「なに? 僕が無責任だっていうの?」
「どいつもこいつもだよ」
とあっくんが答えた。
その後、二人は拠点に帰った。薄い鉄板の建物の二階の部屋にキシキシと鈍い金属音を立てながら階段を上っていく。セロンは、訊くタイミングが無くて聞けなかったことを訊いてみた。
「馬車に乗せられてた人達、それにあの男の子は無事に助けられたの?」
【ユートピア】に連れて行かれた者達がどうなったのか気になったのだ。あっくんは、二階の扉の前でダイアル式施錠を外しながら答える。
「ああ、一人重症の被害者がいるが、命に別状はない。みんな無事だ」
「よかった」
セロンはホッとした。それから部屋に入り、あっくんから事の一部始終を教えてもらった。騙されて集められた人々を竜が皆殺しにする仕組みだったと聞いて、やるせない気持ちになった。少年の妹は、街の中の小屋に閉じ込められていたが心身共に問題ないと聞いて、安堵したが、すぐに疑問が浮かび上がってくる。
「いったい、その悪い人達は閉じ込めてどうするつもりだったの?」
木製テーブル前の椅子に座ってコーヒーを飲み、一服をしているあっくんを見上げて訊いた。
「フィルズから聞いた話では、街にある小屋は一時的に閉じ込めておくに過ぎない仮牢だそうだ。そこから別の施設に送られて、そこで……処理をされる」
「処理?」
セロンは、怪訝な表情をした。
「さーな、捕らえられた連中は詳しくは知らされてなかったそうだ。小屋からの移送も別の者が行っていたみたいだからな。いずれにしても、ろくな運命をたどらないのは確かだな」
あっくんはさらりと言った。
「そうなんだ……」
セロンは苦々しく呟いた。もやもやは残るものの、少年の妹が手遅れにならずに済んで良かったと思った。きっともう既に少年と再会を果たしていて、喜びに満ち溢れているのだろうと想像した。
少し休んだ後、街を出る支度をした。角や壁の隙間からしか光が入らず、薄暗くなっている部屋の中、忘れ物が無いかセロンは床を見渡していた。自分の体程あるリュックを背負い、その上に乗るように、友情の証がありったけ入った風呂敷が固定されている。巾着袋は、リュックの中にしまっている。
あっくんもあれだけテーブルに散らかしていた機器類も大きなサバイバルバックに詰め込んでいて、部屋の中は来た時と同じ、閑散とした状態に落ち着いていた。セロンは、ここに来たのがかなり昔のように感じた。それ程、この街では色々な体験をし、学んだのだった。
「置き忘れは無いな?」
あっくんは、入口の扉を開きながら、傍にいるセロンに訊いた。まだ陽が空の上の方にあり、ドアから差し込む陽の光はぽかぽかと暖かかった。
「うん、全て確認したよ」
セロンは頷き答えた。
街を出る時は、行先に近い理由から役所のある上位地区の方から行くことになった。歩いて、中央の木橋を渡り、再び役所の前を通った時、仮設テントの中がチラリと見えた。ベットに横たわっている人がいるようだった。
「あのテントの中には、誰がいるの?」
セロンが隣を歩いているあっくんに訊いた。
「体調や気分の悪い住民だ。治安維持部隊が保護して治療している。一人だけ重傷者も運ばれて来てるな」
「それって?」
「倉庫で竜に噛まれた被害者だ」
「……少し覗いてみてもいい?」
「なんだ? 見世物じゃないぞ」
「お見舞いだよ」
そう言うと深緑のテントにテクテクと尻尾を揺らしながら歩いて行った。入り口の布をひらりと静かに捲って中に入った。薄暗くなっている中にベットが横に並んで何台も置かれていた。その上に眠っている人や横になっている人がいる。治安維持部隊の人はいなかった。そして奥の方にベットに座って俯いているお爺さんを見かけた。驚いたことに悪党について色々と教えてくれたちょび髭お爺さんだった。
セロンは、そのお爺さんの近くまで行って、声をかけた。
「こんにちは。えっと……お爺さん」
セロンは名前が分からなかった。お爺さんは顔を上げてセロンの方を見て微かにニッコリとした。体調は悪そうである。
「白い竜の……セロンくん……じゃったかな……昨日以来じゃな……」
「体調悪いの?」
「……ちょっとはしゃぎすぎてしまっての…………酒に入り浸ってしまったのじゃ」
「……それじゃあ、お大事にね」
セロンはお別れの最後にもう少し話そうかと思ったが、体調が優れないならやめておこうと思った。歩いてその場から離れようとする。
「これで冥土に良い土産話ができたの。感謝じゃ」
お爺さんが消え入りそうな声で呟いたので、セロンは驚いて振り向いた。お爺さんは笑っていた。
「白い竜はやはり、変革をもたらす者じゃ」
お爺さんはそう独り言のように呟いていたので、セロンは「ぼくは何にもしてないよ」と答えようとしたが、そっとしておこうと思いとどまった。その代わりに、軽く挨拶をした。
「またいつか……」
会いに来れるかどうかわからなかったが、そう呟き返して離れた。
セロンは背伸びをして辺りを見回し、一人だけ包帯ぐるぐる巻きでベットで横たわっている者を発見した。あっくんが言っていた重症患者だと悟った。
傍まで行って荷物を置き、ベットをよじ登って様子を確認すると、ぐるぐる巻きになった頭に顔だけが覗いていた。顔はほぼ隠れているので誰だかよくわからなくなっていたが、この人はセロンが会ったことのある人だと匂いでわかった。カレンさんの店に訪れて【ユートピア】に行こうとしていた、やせ細った男の人だ。静かに寝息を立てて深い眠りについている。
セロンはこの人が逃げるつもりが無く竜に殺されようとしていたとあっくんが言っていたのを思い出した。死ぬつもりで【ユートピア】に行って、死に損なったのだろうか? ふと奥側のベット脇に何か置いてあるのが見えた。
「あれは……」
男の人がカレンに渡した錆びの丸いブローチだと分かった。きっと、死んでいない持ち主には、カレンが貰った装飾品は返されたのだろうと推測した。セロンは、お見舞いの言葉を言おうとした。同じ竜族にやられたという事実のお詫びも含まれている。しかし、男の人の事情がよく分からなかったので何て言えばいいか言葉につまった。それから、少し考えて小声で言った。
「慰めになるか分からないけど、これからは、少しはましな街になるだろうから、めげずに生きてください。それといい竜もいるよ。悪い竜は出来るだけ僕がやつけるから」
聞こえてはいないだろうが、セロンなりのお見舞いだった。他の竜の被害にあった者達にも向けたつもりだった。セロンはベットから下りて、荷物を背負いなおし、入口の布を捲って外に出た。あっくんがすぐ脇に立っていた。
「終わったか?」
「うん」
二人はその場を後にした。水汲み場を横切り、門の入り口が近くなってきた頃、今更だがセロンはこの街を去る前に色々と目に焼き付けておこうと思い、あっちこち周りを見回した。
布と薄い鉄板の建物、通りの脇にある露店、行きかう異種族の住民達、そしてひっそりと隙間に植えられている植物……植物……大きな花? セロンは思わず立ち止まった。そういえば、あまり気にしていなかったけどあの大きな花は何なのだろうか? セロンは通りの脇に並ぶ店の僅かな隙間に生えている人の背程ある大きな薄青色の花をじっと観察した。今思えば、街の至る所に生えていた気がした。街のシンボルかなにかなのだろうか?
街の思わぬ謎に首を傾げていると、ふとその近くの建物の屋根にこの街には似つかわしくない、黒く滑らかな丸みを帯びた物体がひっそりとのぞかせているのが目に入った。セロンは好奇心をそそられたと同時に街を散策しきれてない事実にがっかりした。そして次の街ではもっと思う存分観光しようと心に決めた。
「どうした、ぐずぐずしている暇はないぞ」
あっくんが大股三歩分ほど前で、呆れたような顔をしている。
「うん、ごめん」
セロンは足早に歩き出した。
門の入り口まで来た。とうとう、この街ともおさらばになる。名残惜しさと共に、門の櫓の方を見上げると、守衛がうとうとと舟をこいでいた。セロンはご苦労様と心で呟いて、視線を門の外に移したところ、張り裂けそうな程大きな叫び声が後ろから聞こえた。
「お~い、ちょっと待ってくれ!」
聞き覚えのある声だった。思わずセロンは振り向いた。
走って近づいて来るのは、散々(さんざん)セロンがお節介を焼いた少年だった。




