第24話 「悪行の全容と誘導の謎」
カレンさんは、見定めるような視線をセロンに向けて訊く。
「ねぇ、治安維持部隊に通報したの?」
その言葉には重みが感じられた。セロンがいつ切り出そうかと考えていた事でもあった。
(やっぱり……)
セロンは、その発言でようやく彼女の意図に確信が持てた。
彼女の行動は、これまで色々と不可解な事が多かった。過去の噂もそう。彼女の言動は何かと引っかかる事が多かった。だから、セロンは彼女の家まで来て、話を訊こうとしたのである。彼女の真意は何なのかを確かめるために。
セロンが治安維持部隊の通報も遅らせたのもこのためだった。
「……うん、知らせたよ」
控えめに答えた。
カレンさんは表情を変えない。
「というか、カレンさん。わざと僕が通報するように誘導してたよね?」
一つ目に気になった振る舞いについて問い詰めた。
「……私達の悪行の事、どこまで分かってるの?」
彼女は質問に答えない代わりに問い返してくる。
質問を逸らされた理由はどうしてかわからなかったが、セロンは彼女の質問に答えることにした。
「えっと、僕が知った情報から答えると、この悪行は、【呼び込み役】と【判別役】、【案内役】、【始末役】に分かれていると思うんだよね」
彼女は続けるように促した。
「【呼び込み役】は、会った限りでは、市場の辺りで男性の人が一人いた。そして、貧民区の方におじさんが一人いたよ。どちらも【ユートピア】についての魅力を話してた。何でもあって夢のような場所だって語っていたよ。詳しく聞きたいって言ったら、【砕けた星と剣のマーク】の店に行けばいいよって、教えてくれたから探してみるとカレンさんの店だった。【呼び込み役】は、興味がありそうな人に声を掛けてカレンさんの店に行くように促す役ってことでしょ。この街での生活に苦しい何も知らない人は、釣られてしまうんじゃないかな。」
「そうね。続けて」
彼女は肯定する。
彼女の態度はまるで、セロンがどこまで分かっているのかをテストしているようだった。
「【判別役】はカレンさんだよね」
セロンはきっぱりと言った。
「そうよ」
彼女は素直に肯定する。
「【砕けた星と剣のマーク】を探して訪れた人を、店のカウンターの奥の部屋に連れて行って、何かしら判定して、適性ありなら【青い紐】を腕に巻いてもらい、適性なしなら【赤い紐】を腕に巻いてもらう。僕は、この店から出てくる人が【赤い紐】を右腕に巻いてるのを見たよ。入る前はなにもつけてなかったのに。それに、【青い紐】を腕に巻いている人も街中で見た。だから、そう判別してるんじゃないかな」
セロンは淡々と彼女に説明する。
「大体合ってるわ」
彼女は頷いて答えた。そして続けるように促す。
「判別が終わったら、カレンさんが教えてくれたことだけど、【案内役】が【赤い紐】と【青い紐】を目印にその人の元にやって来る。僕が、カレンさんに言われて、朝八時に見に行った時は、【赤い紐】を巻いた男性に、【案内役】の人が接触していた。【赤い紐】の人にはお金を要求していたから、適性なしは【赤い紐】だという事だよね」
「うん、そうね」
彼女は相槌を打つ。
「【案内役】は、悪者達の隠れ家に【赤い紐】を巻いた人を招いて、出てきた後は、建物前にある馬車に乗せていた。多分、その後は、馬車で何処かに連れて行かれて、【始末役】に殺されるんでしょ? 恐ろしい事だけど、【ユートピア】に行った人が音沙汰ないのは、もうこの世に存在しないからだよね……以上ここまでかな、僕が知っている悪行の流れは」
セロンは、彼女の反応を待った。
「……殆ど君が説明した通りで合ってるわ。しっかりと調べてるのね」
彼女は感心したように答える。
そう褒められて嬉しさが込み上げてきたが、しかし、セロンにはまだ納得いっていない事があった。
「分からない事もあるんだよ。例えば、【青い紐】の人の行方は、同じように馬車に乗せられているのか、違う場所に行くのかもよくわかってないし、適性があるとかないとかというのもよくわからないんだ。それに、【赤い紐】の人に払えないくらい大金を要求するのも何でだろうって思ったよ。結局、無償で連れていくって【案内役】の人は話していたし。一体何の目的で、こんな惨い事やってるの?」
セロンは顎に手を当てて、考える素振りをしながら訊いた。
「教えてあげるわ」
カレンさんは、身を乗り出して、テーブルに肘をつく。目は鋭くセロンを捉えている。
「【青い紐】をつけた者は、街の中の別の収容所に入れられてるのよ。『【ユートピア】に行くための準備をするからここで待っていて欲しい』とでも言ってね」
彼女の口調は冷たかった。
セロンはハッとして
「それじゃあ、少年の妹はそこにいる可能性が……」
と口に出した。
それでも彼女は、僕の発言を無視して続ける。
「適性というのは、魔法適正を見てるのよ。適性があれば、魔法を使えるし、なければ使えない。判別して、適性のある人に【青い紐】をつけさせて、適性がない人には【赤い紐】をつけさせる。そうやって分けてるのよ」
「魔法適正を見てたんだ……」
セロンはカレンさんの店の奥に側耳を立てて聞いた事を思い出した。
(あの時は、チャポンって水のような音がしたけど、僕があっくんに魔法適正を判定してもらった時とは違うような……)
セロンは、首を傾げて、うーんっと唸り考える。
彼女はためらう事無く続ける。
「正直なところ言うと、この悪行の目的は、適性のある人を見つける事であって、適性のない人なんてどうでもいいのよ。だから適性ない人は、生かしておくのも色々と面倒くさいのもあって、始末してしまう。お金を持っているなら、その前に貰っておく。ただそれだけなのよ、大金を要求するのは。持っていたら儲けもん、持っていなくても始末するだけだっていう事」
彼女の表情は、顔色一つ変えず、まるで店の商品説明をするかのようだった。
「……それだけの為に人を殺しちゃうの? そんなのあんまりだよ……」
「君には分からないかもしれないけど、人っていうのは、平気でそういう事が出来る生き物なのよ」
彼女は助言する様に返す。
セロンは哀しい気持ちになり、俯いた。けどまだ、肝心な事を聞いてない。
少ししてから、彼女を見上げて、口を開いた。
「色々と教えてくれてありがとう……けど……結局どうして僕に通報する様に誘導したのかわからないよ」
彼女は、視線を逸らした。
セロンは念を押すように彼女が、自分に通報する様にした過去を説明した。
「カレンさんが【ユートピア】について教えてくれるって言った後、役所に行って、治安維持部隊の事を教えてくれたよね。僕その時、当惑しちゃったよ、いきなり部隊の説明されて。【ユートピア】に何が関係あるんだろうって。だから、その後によく考えてみたんだけど、やっぱり、悪い事しているのに敵の事を紹介するのって、通報されたいとしか思えなかったよ。その後の、悪行の手がかりを教えてくれた事もそうだし……どうして急に誘導してくれたの?」
彼女は、目線を逸らして黙りこくっている。
「言えない事情があるの? 直接話してくれないのも事情があるから?」
そう訊くと、彼女の表情に陰りができ、うっすらとため息をついた後、重たい口を開けた。
「……終わらせたかった」
彼女は一言息を漏らすように吐き出した。
「そんな急に?」
セロンは聞く。
「自分がどうなるべきかわかったのよ」
彼女は、テーブルに語り掛けるように視線を落として答える。
「……どうしてこんな惨いこと始めたの?」
セロンは重たい空気が彼女の周りを漂っているようだったので、気を遣うように優しい口調で訊いた。
彼女は、思い詰めるような顔をして、やっと重たく口を開いた。
「……私はこの街の近くにある平地の村出身だったの」
カレンさんは、この街にくる前の悲惨な過去を話し始めた。




