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小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第1章2節 ただ一人生き残った難民

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第22話 「あっくんの心を変えるセロンの執念」

少年に助け来た経緯を説明した。

時間は昨日の正午過ぎに戻る。


 拠点の薄暗い室内の中、ライトをつけて、開閉式電子端末の電源を落とし、テーブルにあったコーヒーの残りを飲み干した。


あっくんこと青葉とうしは、これからの任務の計画と下調べ、この街での目標の確保が完了した所だった。


もうこの街にいる必要性はない。なので、今すぐにでも出発したいところだが、セロンに明日に発つと言ってしまったので、いきなり予定を変更するのも悪い気がした。


何にも用がないのなら、予定を変更するのだが、セロンは街の住民を助けたいと躍起になっている。それを無下にする程、冷徹ではない。時間は沢山あるわけではないが……。


「さて、あいつが今何しているのか様子を見てくるか」

 テーブルに散乱していた、機器、道具類をバックにあらかた片付けながら、独り言を呟いた。


 その時、セロンから渡された小汚いネックレスが目に入ったので、持って行く事にした。一応、最大限まで汚れは落としたが、染み付いた黒ずみは落ちず、色褪せはどうにもならなかった。


 トウシは、他に持って行くものが無いか確認した後、拠点の部屋を出た。


これから、街の何処かにいるセロンを探す事になるのだが、幸いにも居場所は、すぐにわかる。なぜなら、この街に来た時に、渡した救難信号機に位置特定機能がついており、それを確認すればいいからである。確認は、常に携帯している小型端末機ですることが出来る。


 トウシは、小型端末機を上着のポケットから取り出し、セロンの位置を確認した。

 すると、信号が川を渡った先にあるのが特定できたので、歩いて向かう事にした。



 歩いて、橋を渡った先までやってきた。

 

再び端末機を取り出し、信号の位置を確認しながら歩いていると、怪しくコソコソとしている小さな白い竜を発見した。セロンである。


 セロンは、じっと物陰に隠れて、一つの粗末な住居を監視しているようである。家の前には馬車もあった。


トウシは、セロンの背後から感知されないように音を立てずに近づいた。視覚外から近づいたら、白竜は気づくのかという好奇心と能力を試しているのである。


 ゆっくりとだが、すぐ背後まで見つからずに近づく事が出来た。三歩程の距離まで近寄っているのに、まだトウシに気づいていない様子である。背後の警戒が緩くないかと、トウシは、少し心配になった。


 あと一歩の所まで近づいて来た。まだセロンは後ろを振り向かない。こうなったら声を掛けるだけである。


「おい、何やってる?」

 後ろから声をかけた。セロンは、少し肩をびくっとさせたが、そこまで大きな反応はしなかった。一応、背後にいるトウシは認知していたのかもしれない。


 セロンは振り向き、驚きの表情を見せる。

「あっくん、後ろから突然どうしたの びっくりしたでしょ」

 セロンには、少し抗議の色が窺えた。気づいているのやら気づいていないのやら。


「お前が、面倒ごとに首を突っ込んでるから、様子を見に来たんだ」

 毅然とした態度で説明した。


「もうやる事は終わったの?」

「あらかた片付いた。もう後は、荷物をまとめて出発するだけだぞ」

「もう街を出ちゃうの?」

 セロンは、眉をひそめて訊く。


「お前が話していた厄介事が終わってないだろ? 出発は明日に変更はない」

「よかった。それなら、僕を手伝ってくれるの?」

 セロンは、期待するような目を向けて訊いてくる。


「内容によるな。どこまで把握できてるんだ?」

「えっとね、いま僕が把握している事はね……」

 セロンが説明しかけた所、誰かがこちらに近づいて来る足音がした。

 セロンを連れて、急いでその場を離れて、身を隠した。


「ここら辺で話声がしたような……」

 ガタイが良く、メイスを持った男が先程まで、トウシとセロンがいた所でキョロキョロとしている。少し間抜けそうな面である。


「気のせいか?」

 そう呟くと、元居た建物に戻って行った。


 ひとまずは事なきを得た。セロンもホッとしているみたいだった。

 恐らく、そのゴロツキはセロンが監視していた建物から出て来たことから、話していた悪党連中なのだろうと察した。


 事なきを得たと事で、再び、現在の情報をセロンから詳しく話を訊こうと思ったが、ここで話をするのは、敵に聞かれる危険性がある事から、落ち着けないと考えた。

 なので、トウシは、手ごろの場所を探した。


 すると、川を挟んだ先にガラクタ置き場と化している住居を見つけた。

セロンにも訊いて、「いいよ」と言うので、そこに向かう事にした。



橋を渡り、廃墟のようになっている住居の前まで来た。

中に誰も住んでいないことを確認すると、外側に山積みに置かれたガラクタの山から屋根に登った。登った先の屋根は、錆びついた軽い金属でできており、上に乗るとギシギシと音を立てた。


 少し対象の建物からは遠いが、ここなら、建物から死角を作れるし、話し声も届く事はない。監視するには丁度いい場所である。


「それで、どういう状況なんだ?」

 改まって、セロンから経緯を訊いた。


 セロンは今まで得た情報を簡潔に説明した。



 ザッというと、友達のカレンとは自分なりに落としどころを見つけたらしい。それで、明日の朝に話をする約束をしているそうだ。


少年の方は、イマイチ上手くいっていないようだ。

目的は、その妹を助け出す事なのだが、妹の居場所が全くわかっていないので、手探り状態だそうだ。街の中に手掛かりがないので、後は、悪党連中の動きを探るしかないと考えているらしい。

妹の居場所が分からない以上、迂闊に動くとはできないから、簡単に手は出せないと。


そして、少年も【ユートピア】に行こうとしているそうだ。他の【ユートピア】に行こうとしている者が、無償で馬車に乗っていたから、もう既に乗っていてもおかしくないと言う。


そして馬車の中には、他にも騙された人達が複数人、乗っているのが気配で分かったらしい。


【ユートピア】と呼ばれる場所は、人殺しが行われていて、馬車がそこに着く前に乗っている者達を開放するか、悪党達を全員倒すかしなければ、助ける方法はないそうだ。



「それにしてもな……そんなこと全部一人でやるつもりだったのか?」

 いくら何でも全て上手く事が運ぶとは思えない。


「だから、あっくんに助けを求めたでしょ?」

 セロンが即座に答える。


「もし俺が手伝わなかったらどうするんだ?」

 試すように訊く。


「僕ができる限りの事をするよ。もちろん、最後は戦うよ」

 セロンの表情からは覚悟が伝わる。


「他は分かるが、その少年の妹の居場所については、見張っていても、分からない可能性が高いんじゃないか?」

 遠慮なくセロンの考えの非合理的な部分を訊いた。


「悪い奴らが何処に何人いるかもわからないから、こうして見張るしかないんだよ。下手に刺激したら皆の命が危険だよ……彼の妹の匂いが分かればもう少し楽なんだけど……」

 セロンは、勢いが段々衰えるように元気をなくした。


「匂いで辿れるのか? だとしたら、その少年が住んでいる家とかで、妹の匂いがついてる物を見つけられれば、すぐにわかるんじゃないか?」

 そう訊くとセロンは無言で固まった。


「少年の家はわからないのか? それともそこまでの匂いは追えないのか?」

 返事がないので、続けて訊いてみた。


「……ほ、ほ、ほら、勝手に家に侵入するのは良くないでしょ……」

 セロンは取り乱しながら、口ごもるように答えた。


「調べる気は無かったんだな」

 セロンの図星をついた。


(見苦しい言い訳のようにも聞こえたが……まあいいか)

 今となってはもう遅いかと思い追求するのは止めた。


 しかしトウシは、セロンがどうしてこんな回りくどいことをしてまで、その少年を助けようとするのか疑問に思った。


 仮に助けるにしても、ある程度大雑把で、確実性を求めないなら、治安維持部隊に早く通報した方が圧倒的に楽である。以前ならまだしも、今なら、いつでも通報できるような体制は整っているのだから。 


「……わからないな、どうしてそこまでする? たかが、少し話した程度の赤の他人だろ? それにその少年は、助言も話も聞かないんだろ? 助ける義理もないだろ? なんならお前と種族も全く違うじゃないか?」

 理解に苦しむという態度で訊いた。


「……それは僕が助けたいと思ったからだよ。ほら、僕が助ければ、優しい竜だっているんだって分かってもらえるでしょ。自分のためでもあるんだよ。絶対に助けたいけど……」

 セロンはトウシの目を真っすぐ見て答えた。


「治安維持部隊には通報したのか?」

「いやまだしてないよ。明日にしようかなって考えていて……」

 セロンは目線をそらして、言葉に詰まっていた。


「そうか……だが、最終的な後処理は部隊にやってもらわないとならないぞ……」

「……部隊って僕の言う事取り合ってくれるのかな」

 セロンは、疑うような目で質問をしてくる。


「安心しろ、お前の言う事は聞いてくれる」

 断言するように言い切った。


「……ほんとう?」

 セロンは不思議そうな顔をして返事した。


「本当だ」

 トウシは念を押すようにオウム返しをした。 



 話が終わると、セロンは再び、ジーっと建物の方を監視し始めた。

しかし、どれだけ時間が経っても、連中が動く気配はなかった。

セロンは川を挟んだ遠めの距離でも、建物の中の声を聞く事が出来るらしく、聞き耳を立てていたが、雑談やガヤガヤした雑音しか聞こえて来なかったそうだ。


トウシは、付き添っているだけで、そこまで真剣には見ず、寝転がったりしながら休んでいた。



さらに数時間が経った。日が傾いてきている。


セロンはまだ、黙って集中し、建物の方を見張っていた。トウシも付き添っていたが、ここで一度拠点に帰る事にした。


「俺は、一度拠点に戻るぞ」

 ゆっくりと立ち上がって、セロンに向かって言った。


「わかった」

 セロンは建物の方に目を光らせていて、こちらの方には顔を向けなかった。


 ふと、セロンから渡された黒いネックレスのことを思い出す。上着のポケットから、その物を取り出し、セロンの目の前に垂らした。

「あ、それ、汚れてたやつ? 綺麗にしてくれたの? やっぱり【友情の証】! ん? ちょっと違う?」

 セロンは、反応したかと思うと訝しげな表情をした。


「元はもっと綺麗だったんだろうが、このくらいが限界だ」

「いや、十分すぎるほど綺麗になったよ。あっくん、ありがとう」

 セロンは、嬉しそうにそのネックレスを受け取ると、自分の巾着カバンの中に突っ込んだ。


トウシは、屋根を降りるようにその場を離れた。


「ほどほどにしろよ」

 去り際にそう伝えると、セロンは軽く頷いた。




 数時間後、日が沈み辺りは完全に暗くなっていた。

 兵士が夜の街の警備するために、見回っている。トウシは、セロンが監視している建物まで戻って来た。


 セロンは、あくびをして眠たそうにしていたが、目を半開きにしながら、連中の建物を見張っていた。



「もう限界じゃないのか? 連中はもう寝てるだろう。明日の朝になっても状況が変わってない可能性の方が高くないか?」

 セロンに言い聞かせるように訊いた。


「もう少し待って」

セロンは意地っ張りに答えた。


(諦めの悪いというか、こだわりが強いというか、頑固な部分があるんだな)

とセロンの後ろ姿を見ながら思った。


セロンの横に胡坐をかくように座り、一緒になって連中の建物を見た。流石に暗すぎて、トウシの裸眼では良く見えない。なので、拠点から持ってきた暗視双眼鏡を通して眺めてみる事に。


しかし、建物から誰かが出てくる気配は一切ない。


 ふと、横に目線を向けるとセロンが目をつぶって寝落ちしてしまっていた。


(やはり、白竜は夜が弱いのかもしれないな)

と内心思った。


仕方ないから、俺が引き継いで見張りをしようかと決断し、建物を楽な態勢で双眼鏡を使用し、眺めていた。



 日が昇り、朝がやって来た。とうとう連中は一晩ずっと動かなかった。

 

トウシは屋根の上でのんきに朝ご飯を作った。

一度帰った時に一式を持って来ていたのである。コンパクト型のガスバーナーと、手のひらサイズのスキレットを使い、ベーコンと卵を焼いていた。少し熱を通したコッペパンも既に用意している。


 こんな所で、大胆に調理をするのは、嗅覚的にも視覚的にも目立つ行為である。現に、もくもくと薄く白い煙が辺りを充満している。香ばしい匂いも放っている。


けれど、トウシは特に慌てない。なぜなら、こんなあからさまな事をしても、気づく事すらないんだろうなと敵を侮っているからである。そのくらい、トウシが観察してた限りでは、警戒が甘い。自分達が捕まるはずはないと高を括っているようだ。


それに、気づかれたとしても、トウシにとっては、結果は変わらなかった。ではどうしてただ時間がかかるだけの事をしてるのかと言うと、セロンの意図を汲んで、その考えを尊重したという事と、ただ単にどのような悪行をしているのか興味があり、見届けてみようというだけだった。


 トウシが、調理をしていると、匂いに釣られたのか、セロンがハッと目を覚ました。素早く状態を起こして、連中の建物の方を確認している。


「しまった、眠ってしまった……」

 セロンは頭を抱えて、ぽつりと言葉を漏らした。


「安心しろ、一切連中は動いてないぞ」

 ステンレス製の皿に作った朝ご飯を盛りつけながら、セロンに言った。


「あっくん、ずっと見張っててくれたの?」

 セロンは驚きと感謝の念を表情に出していた。


「威勢を張っていたお前が寝てしまうからな。仕方なく引き継いだんだよ」

 セロンに、盛りつけた皿の一つを渡し、疲れたように答えた。


「ありがとう」

 セロンは、皿を受け取り、食欲をそそる匂いに、おっとりとしながら、喜びを露にした。


 食べ終えて、片付けていると、連中が動き出した。一人、また一人と建物から出て来て、馬車を点検するなり、荷物を整えるなりしている。

 

「どうやらこれから動くみたいだな」

 建物付近の様子を上から見下ろしながら呟いた。セロンも一緒になって目を光らせていた。


「馬車が動いたら、追いかけないと」

 セロンが小声で言った。


「今日の朝にもう一つ約束があるって言っていなかったか?」

 友達と待ち合わせしてるとセロンから聞いていたので、訊いた。


「そうだった、行かないと。どうしよう……」

 セロンは困り顔をしている。


 トウシは、ゆっくりと立ち上がり、セロンに向かって言う。

「こっちの事は俺に任せろ」

「いいの?」

「ああ、お前の執念に負けたよ」

「あっくん、ありがとう」

 セロンが感激の表情で感謝を述べる。


「ただし、結果の保証はできないからな」

 トウシはセロンの期待の感情にくぎを刺すように付け加えた。


「うん、それでもいいよ」

 それでも満足そうにセロンは、穏やかに答えた。




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