第18話 「思い当たる一つの答え」
朝になった。セロンは、起き上がり、朝食を食べ、外出する準備をした。
昨日川で拾った【友情の証】は、もう既に乾いていた。カレンさんに持って行ってあげようと思い、持って行く事にした。
もう一つの黒ずんだ首飾りは、あっくんにどうにか綺麗にならないか聞いてみる事にした。
「なんだ、その汚いものは?」
あっくんはごみを見るような目で僕の持っているネックレスを見る。
「川で拾ったの。どうにか綺麗にできない?」
「まさか身につける気か?」
「いや、これが何か知りたいんだよ」
彼は、それをできるだけ触れないように人差し指の腹で持つと、気が進まなそうにしながらも、何とかすると言ってくれた。
セロンは、いつも通り、お金が入った巾着と、【友情の証】を首から下げて街に行く事にした。
泣いても笑っても今日で終わり。色々と情報集められるのは今日が最後。明日には街を出る事になっている。
まずは、カレンさんが昨日教えてくれた、【ユートピア】の手がかりについて見に行こうと思う。焚火辺りで八時にやり取りがあるはずだ。
一直線に歩いていき、焚火通りの焚火辺りに着いた。僕は、その近くで昨日店に来ていた男性が来るのを待つことにした。
少し待つと、ひょろひょろとした男性が焚火辺りまで歩いてきて、立ち尽くすように誰かを待ち始めた。右手首には【赤い紐】を巻いてる。挙動は小刻みに揺れていた。
さらに数分待つと、今度は、その男性に近づくように、ねずみ色の衣服を纏い、茶色の帽子をかぶった、薄笑いを浮かべる男性がやって来た。
セロンはバレないように少し離れて、その二人のやり取りを観察することにした。
「貴方が、【ユートピア】に行きたい御方ですね」
「はい」
男性がかすれた声で返事をする。
「見た所、【赤い紐】を身に着けているみたいなので、【ユートピア】に行くには金貨百枚の支払いしてもらわなければなりません」
帽子の男は、淡々と説明する。セロンは、そんな大金払えるわけがないよと思いながら聞いた。
「えーと、そんな……」
「大丈夫です。分かっていますよ。とても払えるような金額ではないですものね。なので、特別にあなたは今回無償で案内してあげましょう」
胡散臭い案内役の男性は、身振り手振りをつけて、華奢な男性に饒舌に語る。
金貨百枚がいきなり無料とは、叩き売りにも程がある。
「それに【ユートピア】には、明日出発するので、私が馬車まで案内いたします」
そういうと案内役の者は、男性を連れて、中央の橋がある方へ歩いて行った。
僕は、少し距離を置いて、その二人を追う事にした。
後を追っていると、彼らは上位地区の塀沿いにある一つの住居で止まり、建物内に入って行った。建物の前には馬車もあった。縦長の木製車室があり、それを馬が引く形になってる。馬は、見た所魔獣ではないと感じた。
次に建物の中の様子を覗こうと思ったが、建物には窓が無かった。それなら、馬車の車室内を見てみようと考えるが、こちらも窓が無かった。
どうにか、中を見れないかと、車室の閂と鍵で閉められた扉をいじってみる。
少し力をかけた所、ミシミシと音を立てた後に、バキッと木が割れた音が辺りに響いてしまった。
(まずい)
建物内から誰か出てくる足音がする。
僕は慌てて物陰に隠れる。しかめ面のガタイの良い男性が、扉から出て来て、何事かと周りを見渡している。だが、馬車のドアのひび割れした異変に気付いてないようで、そのまま建物内に帰って行った。
流石に悪い人達に見つかっても自分一人では対処もできないし、争いも気が進まないので、これ以上、馬車に近寄るのはやめる事にした。
そうこうしているうちに、建物から先程の【赤い紐】を巻いた華奢の男性と案内役が出て来て、華奢の男性は導かれるように馬車に乗った。案内役は扉を少し開けづらそうにしていた。
セロンは案内役が開けた扉の隙間から、車室の中が見えないかと顔を伸ばしたが、よく見えなかった。
消えた少年の妹は、あの車室の中にいるのだろうか、それとも別の場所にいるのだろうか。はたまた、建物の中に閉じ込められているのか。セロンは考えられる可能性を列挙して思いを巡らせた。
もしまだ殺されていなければ、何処かにいるはずである。しかし、現状では、何処にいるのかまだわからなかった。
次に僕は、建物の中から聞こえてくる会話に集中することにした。
中では複数人の男が会話をしているのが聞き取れた。
中は分厚い壁に覆われているのか、音が反響して、ぼやけている。しかし、僕の耳ならまだ十分内容を聞き取れる。
「近頃、部隊や兵士がやけに騒がしくなってきているな」
「てことは今回を最後にして、ずらかるっていうことでっさ」
「もう用意は進んでいるんだろうな?」
「もちろんです」
「明日、能無しを始末して、出るぞ。当たりは、あの方が持ち帰るだろうから、放置でいい。お前ら、わかったか? 最後に派手に血祭と行こうや」
「イェー!」
なんやら、物騒な話をしている。
さらに、会話の聞こうと、耳を澄ましていたが、有益な情報を得る事が出来なかったので、切り上げる事にした。
建物前にある馬車には、恐らく騙された者達が入っていると思われる。そして、馬車が出発すると、恐らく処刑場である【ユートピア】へ連れていかれる事になる。しかし、明日出発すると案内役が話していたので、まだ時間はあると信じたい。何より今は、他に確認したい事がある。そう思い、セロンはその場所を後にした。
闇組織の根城を後にしたセロンは、気になる情報を掴むために、貧民区にやって来た。
辺りは、布を張って作った住居だらけである。
確認しておきたい事は、過去に難民から闇組織に入った者の詳細である。
難民であり、貧民区から闇組織に入ったのなら、誰か人物像を知っている者がいるかもしれない。そう思いセロンは、ある程度、長く住んでいそうな貧民区の住民に尋ねる事にした。
しばらく貧民区を走り回り、聞いてみた。
しかし、その人物を知る者は誰もいなかった。そもそも闇組織の存在を知っていたら、【ユートピア】に行こうとする者はいないかと、今更ながら思った。
(それじゃあ、残るはあの人に訊いてみるしかない)
そう考えて、貧民区を出ようとした。
「おっ、そのネックレス、君もつけているのか?」
住居内にいる胡散臭そうなおじさんに突然、声をかけられた。
「君も?」
セロンは、立ち止まり、おじさんに訊く。
「それと同じ六角形のネックレスを首から下げてる女が昨日来てね」
セロンは、その女の人がカレンさんの事だと察した。哀しい事だが、【友情の証】は誰も買わないと言っていたから、他に持っている人は彼女しかいないと思ったからである。
「その女性は、貧民区に何しに来たの?」
「それを知りたいならお金をよこしな」
おじさんは、手の平を突き出して、お金を要求してくる。僕は、銅貨を一枚渡した。
「そのネックレスと同じような物を知らないかって俺に訊いてきたよ」
おじさんは僕が首から下げる【友情の証】を指して言った。
「【友情の証】を探してる? どうして?」
僕は、不思議に思い聞き返した。すると、おじさんは、再びお金を要求する仕草をした。
僕は、銅貨を一枚おじさんに渡した。
「さあねぇ、けど、その女なら、毎月五回くらいは貧民区に探しに来てた気がするね」
「毎月五回くらい? 定期的に来てるってこと?」
おじさんは、ニコッとしながらお金を要求してくる。
僕は、銅貨を五枚ほど渡して言った。
「その女性について知ってる事全部教えて」
「その女についてか? あと分かってるのは……かなり前からずっと探し続けているって言う事と、あと『なんでしまっちゃったんだろうな』ってブツブツ独り言呟いてたような気がするな」
「独り言……そうなんだ」
「後は、もう知らねぇな」
「わかった。教えてくれてありがとう、おじさん」
おじさんにお礼を言って、僕は貧民街を抜ける方へ歩いて行った。
(どうして【友情の証】をずっと探してるんだろう? 店に沢山置いてあるのに)
僕はカレンさんの行動を訝しげに感じなら、最後に訊いときたい人の元へ歩みを進めた。
僕は、市場、焚火通り、上位地区の方とその人を探した。しかし、見つからなかったので、住居区も探してみる事にした。
住居区歩きながら、覚えたその人の匂いを探る。しばらく歩いていると、角地の住居からその人の匂いを嗅ぎ取れたので訪問することにした。
布を垂れ下げただけの入り口だったので、外から聞いてみる。
「すみません? お爺さんいらっしゃいますか?」
少しすると中から、お爺さんが出て来た。
「ほ~、わしの住む場所を当てよったのか? 流石、白き竜じゃな」
お爺さんは関心するように言った。
「お爺さん、一つ聞き忘れていたんだけど、村人を全員殺したっていう闇組織の人って、どういう身なりの人かってわかる?」
「はて、どんな外見だったかの~……たしか、女の子だったような……」
「女の子⁉ 本当に女の子だったの?」
お爺さんに迫るように前のめりになる。
「如何せん、十年程前じゃったからな、記憶があいまいでな~」
お爺さんは、遠くの空を見ながら答える。
セロンは、お爺さんがやけに詳しい情報を言うので、ずっと疑問に思っていた事をここで投げる事にした。
「お爺さんって、悪い組織の人なの?」
「……なぜそう思うのじゃ?」
お爺さんは、図星を突かれたように訊いてくる。
「お爺さんぐらい知ってる人、他に居なかったから。もしかしたら、全て知っていて、僕には問題を出題するみたいに、濁して伝えてるのかなって」
セロンはお爺さんを真っすぐな目で見つめた。
「…………」
セロンの視線に根負けしたお爺さんは、一息つく。
「……本当の事を言うとな、組織を壊滅させようとしたのじゃ」
「壊滅?」
「ああ、時間をかけて組織を丸裸にし、壊滅させようとした。けど、失敗に終わってしまっての~。わしの力では組織を壊滅させるなんて無理な話だったということじゃ」
お爺さんは、無念そうに頭を抱えた。
「そうだったんだ……」
「だからの、白い竜の御方や、敵を討ってくれんか?」
お爺さんはお願いをするように僕を見つめる。
「……うん、わかった。僕が悪い奴らを捕まえるから、任せておいて。あと僕の名前はセロンだよ。覚えておいてね」
「うむ、覚えておこう」
お爺さんに手を振って別れを告げると、セロンは、拠点の方に向かって歩き出した。
セロンは、移動しながら、新たに得た情報と以前から持っている情報の関連性を確認する。
難民から闇組織に入り、村人を皆殺しにした人は女の子だとお爺さんは語っていた。そして、十年ほど前の出来事と話していた。
貧民区に住んでいたおじさんは、女性がずっと【友情の証】を探し続けていると言っていた。
カレンさんは、店で売っている【友情の証】には意味がないと話していた。
橋での独り言とおじさんが言っていた独り言。
そして、僕が山にいた時の友達について話した後の態度の豹変具合。
(あの時は、どうして態度を豹変させたんだろう?)
カレンさんが訊いてきた言葉を思い出す。
──『君は、復讐したいと思う?』
──『君は、復讐で無実の人を殺したりするのはどう思う?』
彼女は僕に突然、そう訊いてきた。過去の友達の話をした後に。
(そう、僕が友達を失った話をした後に……………………そういう事なのかな)
セロンは、思い当たる一つの答えを導き出した。
もしそうだとしたら、僕がカレンさんにしてあげられる事は、決まった。
僕はカレンさんの店のある方へ歩みを進める事にした。




