帝国軍侵攻!無能の偶然防衛戦
帝国軍の砲声が、城下に響き渡った。
「陛下、敵軍は三千。こちらの戦力は……千にも満たず」
「え、ええと……」
(どうする!?どうする!?どうするぅぅ!?)
家臣たちの期待の目。イルシアの鋭い視線。
ユウトはただ、机の上の紙の山に手を伸ばした。
(何か!何か役に立ちそうな資料!)
そのとき、ボロボロの巻物が指先に引っかかった。
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「陛下、それは……?」
「え、ええと……これは……」
ユウトは慌てて広げた。
それは、何世代も前の【地下水路の試作案】だった。
だが、そこに描かれた線は――偶然にも今の城下の地下水脈に酷似していたのだ。
イルシアが瞳を見開いた。
「……まさか……これほどの規模の地下防衛網を……既に……!」
(ち、違う!俺じゃない!これは偶然!!)
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「陛下、命を!ご命令を!」
「え、えっと……この水路を……えー……逆流させて……敵の砲陣地の地盤を……崩す……?」
兵たちは即座に動いた。
水路の入り口を閉じ、地下貯水槽に溜まった水を逆流させ、古の水脈を通して城の外に向け流し始めたのだ。
数十分後――
「敵の砲陣地が……沈下を始めています!」
「なんと……!」
「奇策王陛下、恐るべし……!」
(いやあああああああ!!偶然だって言ってるだろ!!!)
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帝国軍は大混乱に陥った。
泥沼化した砲陣地で動けず、やがて城兵の突撃で退却を始める。
城門の上で、ユウトはふらふらと立ち尽くしたまま、その光景を見ていた。
イルシアが隣に立ち、低く呟いた。
「……私の目が節穴だったようだ。あなたは……やはり……奇策の王だ」
「い、いや……その……」
「あなたに全てを賭ける。それがゼクス公国の答えです」
(ちょ、待って、やめろ……これ以上誤解しないでくれぇぇぇ!)
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帝国軍の砲声が止んだ夜。
城の天守最上階。
ユウトはぐったりと床に座り込んでいた。
(助かった……いや、俺何もしてない……
巻物を広げて、適当に喋っただけなのに……)
「……陛下」
扉が開き、イルシアが入ってきた。
その瞳は、昼間の戦場で見たものとは違っていた。
どこか、弱く、揺らいでいた。
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「……ありがとうございます」
「……え?」
イルシアはそっと膝をついた。
「私の国、ゼクス公国は、父が病に伏し、兄たちは跡目争いに明け暮れ……
同盟は、私の願いでした。陛下の力にすがらなければ、国は滅びます」
赤い瞳に光が宿る。
「あなたは――奇策の王。天の理をもってこの大地を護る人……私は、そう信じたい」
(やめてくれぇぇぇ……信じるな……俺、ただの無能なんだって……!!!)
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だが言えなかった。
イルシアのその表情は、かつてユウトが地球で見た、自分の母の泣き笑いと重なった。
(頼られるって……こんなに……重い……)
「そ、それは……そなたの国も、大切にしたいから……」
言いながら、自分で「うわー!」と心の中で叫んだ。
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