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GREEN FOREST  作者: Aju
43/52

43 達成すべき目標

 どうするべきなのか?


 火炎放射器の扱い方について再訓練が始まった時、古渡(ふるわたり)吾朗(ごろう)は足元が揺らぐような大きな不安に襲われた。


 ゼロイープス。

 国防省幹部上がりの佐藤新総理の方針が示された——と通達があったのが2日前だ。


「一気に作戦を推し進める。まずは次の新月までの9日間に基地から半径30㎞圏内のイープス菌を全て駆除する。」

 鷺原(さぎはら)隊長は全隊員を前にそう訓示した。

 全隊員といっても、ここ朝奈駐屯地にはすでに千人を切る人数しか残っていない。

 あとは無断欠勤のまま出てこなくなった者か、基地内で感染が発覚して隔離病棟に隔離された()()ばかりだ。

 出てこなくなった者も、逃げたのか感染したのか、定かではない。


 いずれにせよ部隊運用にも支障が出ていたが、幸いにもC国もR国も領空侵犯や領海侵犯をしてくるようなことはなかった。

 おそらくは彼の国も日本と同様の有り様なのだろう。


 そんな中で、最高指揮官である首相の命令が下った。


 イープス菌を残らず駆除せよ。

 植物の侵略から国を守れ。


「拒否します。」

 隊員の1人が決死の目をしてそう言った。


「命令拒否は許されん。自衛隊員であることを自覚しろ。」


「自分の両親は感染者です。この‥‥この命令は、親を殺せということじゃありませんか!」


「再度言う。自衛隊員であることを自覚せよ。」

 その隊員の目を見て、一呼吸おいてから鷺原隊長は有無を言わせぬ声で言った。

「これは最高指揮官の戦地派遣命令だ。我々に拒否権はない。」


「明らかな違法命令には従う義務はないはずです。」


「何の法律違反がある?」


「人権を定めた憲法に抵触します。患者にも人権があります!」


「敵の人権を考慮しないからと、攻撃命令を拒否するというのか?」


「患者は敵ではありません!」


「イープスは敵だ。我々は敵の侵略からこの国を守らねばならん。そのためにのみ自衛隊は存在する。命令された達成すべき目標は、ゼロイープスだ。」


「そ‥‥‥」

 その隊員は言葉を失った。


「本来ならば懲役刑の範囲だが、今は国家存亡の危機。非常事態だ。きさまを懲戒解雇する。支給された装備一切を置いて、今すぐここから出てゆけ。」

 それはマスクも防護服も脱げということだ。

 部隊全体が静かにざわついた。


 命令を拒否するなら、イープスとして()()する。——ということだ。


「あ‥‥はっ! あはははははは‥‥!」

 その隊員はマスクをむしり取り、防護服を破るようにしてその場に脱ぎ捨てた。

「育ててくれた親もろとも、俺も焼き殺すがいい!」


 隊員の中に動揺が走る。

 次の瞬間‥‥


 パン!


 乾いた音がして、その隊員の頭から血が噴き出した。

 そのまま、仰向けにゆっくりと倒れる。

 鷺原隊長が、やや憐れむような眼差しで拳銃を構えていた。その銃口から、ふわりと硝煙がたちのぼってゆく。

 まだ心臓は動いているのだろう。倒れた隊員の頭の穴から、とくり、とくり、と鼓動に合わせるように血が湧き出て地面を染めていった。


 部隊全体が凍りつく。


「気持ちはわかる。」

 鷺原隊長は気の毒そうな表情で、そうつぶやいた。

「後で丁寧に葬ってやれ。」


 それから隊長は表情と声を改めた。

「2時間後に出動する。装備を確認しておけ。」


 鷺原隊長は昨日、感染した隊員を閉じ込めてあった隔離棟を焼き払った。

 まだ意識がある者には麻酔を打たせ、その後、自らの手で火をつけたのである。

 昨日までの仲間と部下を‥‥。

 普段は温厚で部下思いの鷺原隊長が——だ。


 非情の覚悟——と言うしかない。


 命令に従う以外の選択肢はないわけか‥‥。

 吾朗は心のどこかを固く閉ざしたまま、そう思った。

 非常事態なんだ‥‥。


 両親とも従兄弟とも連絡がつかなくなって1週間以上経つ。

 NET通信の不具合だけならいいけど‥‥。おそらくは‥‥‥。

 小学校の頃、憧れていたあの女の子は‥‥今どこでどうしているだろう? 感染していないだろうか?


 できるなら‥‥

 部隊として直接出会いたくはない‥‥。



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― 新着の感想 ―
キタァァァァァ!(引き続き狂喜乱舞) でも、軍人って命令あれば親を殺すぐらいの覚悟でなるもんじゃいないのか。 敵前逃亡は銃殺刑は鉄板だから、妥当な処分かなと。(価値観がすでにひどい) 恐怖や不安とい…
う~ん、泣きながら患者たち焼き払ったくらい?で、イープスを絶やすことは出来ますか? 植物は動物以前から地球上に存在した、古参の生命体。 強かですぜ、おそらく。
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