3 何の病気?
お昼に送った瑠奈のメッセージに、純恋からの返信はなかった。
「どうしたんだろう?」
瑠奈は迷っている。
「検査中とかだったら、電話したらまずいよね?」
「2時間も検査中かな? とりあえず、行ってみない?」
啓介の提案で、病院までお見舞いに行くことにした。
「渡辺と峯岸の分もお見舞い買っていこう。2人の様子もわかると思うし。」
しかし。
受付で純恋が即日入院になったことだけはわかったが、家族以外の面会は断られた。
今はいろいろ感染症が流行しているので——ということだった。
「ふう‥‥」
ロビーのベンチに腰を下ろして、瑠奈がため息をついた。
「初めに電話で確認してから来ればよかった‥‥。」
「無駄足になっちゃったね。お見舞いのお菓子も。」
啓介も苦笑いする。
「んー。でもこれは活かそう。」
「?」
「帰りに純恋ン家、寄ってみる。お見舞いの品をお母さんに託すついでに、様子が聞ければ。」
純恋の親は2人とも働いているが、瑠奈の話では母親の方は6時半頃までには帰ってるということだった。
「だいぶ時間あるね。」
「お茶でもして時間つぶそうか。」
病院に隣接する大学構内のカフェの隅っこに陣取って、瑠奈はあの画像をスマホに表示した。
苦笑いした純恋の顔。それをめいっぱい拡大する。
純恋の頬、口の少し横あたりに若緑色の髭みたいなものが生えている。拡大した状態で見ると、それは間違いなく何かの葉っぱだった。
「なんだろ、これ?」
「これだけじゃわかんないね。」
瑠奈は画像を渡辺の腕だというものに変える。
「こっちは少し育ってるから、ある程度わかるよ。双葉はアルファルファの芽に似てるし、苔の方はホソウリゴケのように見える。どこにでもよくある苔だよ。」
瑠奈の同定に合わせて、啓介はスマホで『アルファルファ』と『ホソウリゴケ』を検索した。
画像はたしかに似ている。
「人体に生えるようなものじゃないよね?」
「当たり前でしょ。どういう病気だろう?」
もちろん、検索してもそんな病気は出てこない。
そんなふうに見えるいくつかのケースは過去にもあったらしいが、鼻腔に吸い込んだ種が発芽したとか、肺まで吸い込んだ種が発芽したとかいうもので、皮膚に直接根を張ったということではないらしい。
もし‥‥。
この画像がフェイクでないとしたら、森脇高校の1年生3人はとんでもない奇病にかかったということになる。
何が原因で?
4時頃、『入院することになった』という純恋からの連絡がきた。
純恋のメッセージはそれだけだった。相変わらず状況はよくわからない。
夕方6時頃まで時間をつぶしてから、啓介と瑠奈は純恋の家に向かった。
純恋の家は戸建てだ。
小さな庭と駐車スペースがあり、玄関ドアとの間に立てられた小さな壁にポストとインターホンが付いている。
駐車スペースに車はなく、家の明かりも点いていなかった。
インターホンを押しても返事はない。
「だよなー。」
と言って、啓介がインターホンの付いた小さな壁にもたれかかった。
「バカだ、わたしたち‥‥。考えてみたら、入院初日なんだもん。親、付き添ってるよね。」
「だよねー。」
啓介が力の抜けた笑いをもらす。
「もう、お菓子2人で分けて食べちゃう?」
瑠奈が、かけっこで負けた小学生みたいな顔をして言った。
「うん。そうしよう。」