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GREEN FOREST  作者: Aju
15/37

15 対策

 全世界的なイープスの感染爆発が起こってから1週間が経った。


「久しぶりに会いたいんだけど。」

 瑠奈がビデオ通話で言ってきた。

「外は胞子が飛んでるかもしれないだろ?」


「お父さんが車で送ってくれるって言うし、少しはどこか行かないと煮詰まっちゃうし‥‥。」

 たしかに、この1週間は家に閉じこもったまま、人とのコミュニケーションは家族以外オンラインだけになっている。

 瑠奈の家は家族仲はいいが、それでも限界を感じているのかもしれない。

「俺がそっち行くよ。母さんに送ってもらって。んで、着いたらお風呂貸して。」


 啓介の父親は検査会社に勤めている。

 そのため、この時期にも、というよりこういう時期だからこそ会社を休むわけにはいかなかった。

 それは家族の中に多少の変化をもたらしているから、瑠奈よりはメンタル的にはラクかもしれない。


 しかし、同時にそれは啓介の家にリスクももたらしている。

 外のどこで胞子を付けてきているかわからないからだ。


 父親は車で帰ってくると、まず庭の散水用のホースで全身をずぶ濡れにする。作業着も何も濡れたままで家に上がり、浴室へ直行してシャワーを浴びる。

 濡れた服は洗濯機に放り込んで、そのまま洗濯をする。それから乾燥機で熱をかけて乾燥させる。


 須々木原先生のブログから割り出した、最も胞子の感染リスクを減らす方法として啓介が考え出した。

 別に啓介に発想力があるというわけでもない。

 父親の職業上、家族への感染リスクを最小限にするという必要から、家族で話し合っているうちに出来上がったアイデアだ。


 濡れれば胞子は発芽モードに入る。そこに高熱を加えてしまえば胞子は死ぬだろう、という須々木原先生の予測に基づいた対策だ。

 髪の毛や皮膚に付いたものは、体内に侵入される前に洗い流してしまおうというのだ。


 今のところ、これで父親も家族も感染はしていない。

 ただ、この方法が有効なのか、それともたまたま胞子をくっつけてきていないだけなのかはわからない。


 啓介が瑠奈の家の方に行くと言ったのは、家族がオンラインだけで仕事をしている瑠奈の家に比べて、啓介の家の方が胞子が持ち込まれている可能性が高いと思ったからだ。


「そうまでするんなら、いいよ‥‥。」

 啓介が手順を説明すると、瑠奈は困った顔をしてそう言った。

「ずぶ濡れで玄関入ってくるってのも‥‥親に言いづらい。」


 結局このデート話はたち消えになった。


「家族だけで、ずっと家に閉じこもってるってのも‥‥キツいものあるね。」

 瑠奈が小さくため息をつく。


「うちはオヤジが仕事に出てるから、まだ‥‥な。」

「啓介のお父さん、まだ通勤してるんだ?」

「うちはほら、検査会社に勤めてるから。現場に行くのマストだから。」

「それで、さっきみたいな手順踏んでるんだね。危機管理感覚、違うなぁ。」


 危機管理感覚、というより母親が「出勤しないでくれ」って泣いて止めたから、家族で話し合った結果出てきた方法なのだが——。


「マスクしてゴーグルして帽子もかぶってるから、パッと見、不審者だよ。」

 そう言って啓介は笑う。


「なるべくオンラインデート増やして、啓介。」

 瑠奈はそんな言い方をした。

 デートなんていう言葉があらためて瑠奈から出てくると、啓介は胸の奥が疼くような感覚になる。

 こんな状況、だからかもしれない。


「もう少しの辛抱だよ。もう少ししたら、対策やら、イープスに関するもうちょっと詳しい情報も出てくると思う。」


 もっともそんな啓介の言葉も、ただの希望的観測でしかないのだが‥‥。


 高校の授業はオンラインのまま。休講になる科目も4科目に増えていた。

 不要不急の外出を控えるように、政府は繰り返しアナウンスしている。


 増加速度は鈍っているとはいえ、患者は増え続けているらしかった。

 正確な数字は出てこない。データが取れないのだろう。

 これといった治療法もまだ見つからない。


「これ、レタスやわ。」

 NET上には、ほっぺたの緑色の芽を摘み取って口に入れる動画が拡散していた。

『自給自足ww』


「情報リテラシー‥‥つってもな‥‥」

 啓介はスマホを眺めながら、ぽつりとつぶやく。


 現場の医師の話として、「病院としての受け入れはもう限界」という声がテレビで紹介されていた。

 その動画ですら、取材クルーではなく医師が自撮りしたものだ。

 ニュースキャスターは映っておらず、AI による自動音声でニュースは伝えられていた。


 社会は明らかに機能不全に陥っている。




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