1 双葉
それは思考していた。
極めてゆっくりではあるけれど、極めて深いところで。
= = = = =
「これ、どう思う?」
樹神瑠奈がスマホの画像を双葉啓介に見せてきた。
2人で映画を観た後、モールのカフェで感想など言い合いながらお茶をしている時だった。
啓介と瑠奈は小・中・高と同級生だった。
中学の頃あたりから、なんとなく一緒に行動することが多くなり、いつからということもなく彼氏・彼女の関係になって、同じ高校に進学して今に至っている。
啓介としては、ときめくほどの恋をしたという記憶もないのだが、なんとなくウマが合うというのだろうか。
今日もまあ、デートといえばデートだった。
「何、それ?」
啓介がスマホをのぞき込む。
「渡辺くんの腕だって。」
「?」
腕の真ん中あたりに緑色の豆みたいなものが付いている。
「何付けてんの?」
「双葉らしいよ。あ、啓介の名字じゃなくて。」
瑠奈が画像を拡大して見せた。
たしかに、小さな2つの葉っぱの付け根から茎のようなものが腕の皮膚に伸びている。
「フェイクだろ。画像の出どころはどこよ?」
「純恋。」
宮迫純恋か——と啓介はその顔を思い浮かべた。
たしかに、フェイク画像とか作って悪戯するようなタイプの子じゃない。
「拡散はしないでっていう条件付きで送ってきた。こっちは‥‥」
と画像をスライドさせる。
肘が映った。
よく見ると、そこにも何か緑色のかさぶたのようなものが付いている。
「苔だって。」
「はあ?」
「渡辺くん、休んでるじゃない?」
「うん。」
先週の水曜から渡辺は休んでいた。病気だという話だ。
「この画像亨から送られてきたんだって。」
峯岸亨は3組の生徒で、純恋の彼氏だ。
「入院してるって。2人とも——。」
「2人ともって、峯岸も?」
「うん。純恋の話じゃ、同じ病気らしい。」
「同じって‥‥。じゃあ、峯岸も腕になんか生えてんのか?」
「そうらしい。やっぱり水曜から休んでるんだって。で、純恋からこの画像送ってきて、どう思うか聞かれた。わたしが植物に詳しいからって。でもさ‥‥」
瑠奈が困った顔をする。
「わたしだって、腕に植物が生えるなんて聞いたことないよ。」
「そう返事したの?」
「してない。どう返事していいか、わからないもん。どうしたらいいと思う?」
「峯岸の冗談なんじゃねーの? 純恋はたしかにこういうフェイクを悪戯で作るようなタイプじゃないけどさ。」
「う〜ん。まあ、普段の峯岸くんならやるかもしれないけど‥‥。でも。自分が入院してるのに、純恋を心配させるようなことする?」
そう言われればそうだな‥‥と啓介も思う。
渡辺とはふざけ合ってるところを見かけたりはするけど、そこまで非常識でぶっ飛んだ冗談をやるようなやつには見えない。
「月曜日、純恋と会って詳しく聞いたら? 表情見ながらの方がいいだろ?」
瑠奈は『月曜日、もう少し詳しく聞かせて』と返信を打ち込んだ。