車窓
どこか不機嫌そうな曇り空
道を行き交う車と人びと
今日という日常を映し出す
車窓という名の映画館
流れゆく映像は日々変わり
同じものは二度と見られない
今日も明日も止め処なく上映は続く
四角く切り取られたものは
その瞬間にみな映画の出演者となる
古ぼけた民家も
真新しいマンションも
傷だらけの自転車も
ぴかぴかのバイクも
ほんのひととき銀幕を彩る一部となる
草臥れたサラリーマンが遮断機の前で空を見上げ
その傍らで子どもたちが声を上げてはしゃぐ
なんでもないひとコマこそ
車窓には映えるのだ
きっと線路脇の道を歩くわたしも
わたしを追い抜いていく電車の車窓にて
名もなき映画のワンシーンとなるのだろう
それを意識するとき
わたしはほんのすこしだけ
背すじを伸ばして歩いてみる