新学期
注意して読んでください。
批判は受け付けません。
春は嫌いだ。
身の丈に沿って作られた、皺のひとつも見れない制服を自ら身に纏わせ、虚しい希望と勇気と共に、彼ら彼女らはここへやってくる。
少しめかしこんで辺りをちらちらと見渡す新入生を横目に、私は割り当てられたクラスへと淡々と向かい、席へとゆっくり座る。
窓の外から虚ろな目で見下すと、そこには人、人、人の群れ。全く知らない顔に続き、名前も既に忘れてしまったかつてのクラスメイトが、肩を組んで写真を撮っている。
なんて楽しそうなんだろうか。
見ているだけでイライラする反面、こんな歪みきった感情のままで、あの輪に決して自分は入れないのだと突きつけられる。否、自分で自分の首を絞めているのだ。
三年目の高校生活も、今となってはもう終わったようなものだ。
いや、最初から始まってすらいなかった。始める気も無かった。
自分はあんな風に笑う事が出来ない、肩を組むことだって躊躇してしまうし、何よりも、そんな関係を築きたいとすら思う事が無かった自分に、どうしろというのだろう。
孤独を選んだのも自分で、相手より自分を選んだのも自分で。
全て自分で蒔いた種なのに、彼らに嫌悪感を感じてしまう。
醜い心だ。
だけど今になってはそれすらも心地良いと思うようになっていった。
1人が良いのではない。独りが良いのだ。
誰にも干渉されない、干渉させない。
天国みたいだ。
下界でどんちゃん騒ぎを起こし、こちらの気を惹こうとしても、今の自分には無害不必要なもの。
神の感情というのは、まさにこの事なのだろうと、私は舞い上がる。馬鹿な話だ。
けれど、こんな事誰も考えたことが無いだろうと、したり顔で呟くとその言葉が唯一無二の自分に圧倒的な力をもたらす特異力なのだと考え、笑った。
優越感に浸っている。
私は独り、誰もいない教室の中で笑いを堪えるのに必死だった。
他の人間とは違う考え方、誰よりも超越している頭脳、感情、思考能力。
もう一度窓の外を見た時、キラキラと輝くような笑顔を見せていた彼らは、いつしか、
ただ人間が底辺を這いずり回る羽が千切れた蝿の様にしか見えなかった。
「ちわーっす」
物思いに耽っていると、ドアが勢いよく開け放たれる。相手はまさか誰かいたるとは思わず驚いた表情を浮かべ、こちらを一瞬目を向けるが、すぐにそこには何もなかったかのように振る舞い、友人を大きな声で呼んだ。
私は机に頬杖をついていた腕から顔をゆっくり離し、鞄から本を取りだした。
自分にとってはその行動は見せしめのようなものだったが、相手はそんな事気づくわけも無く、自分の席であろう場所に腰を下すと、後から群がってきた友人と会話をし始める。
その数分後、私はわざと音をたてる様にして閉じ、一つ溜息をついて本ごと教室を出る。
煩くて小説を読む気にもなれないとアピールして聞き耳を立てると、やはり先程の私の行動に気を逆なでされた女が、私の悪口を始める。
その瞬間、私は胸の奥底から込み上げてくる高揚感を抑えきれず、クラスを少し離れた場所で膝から崩れ落ち、肩を震わせ、笑う。
何とも汚らしい笑い方だが、この笑い方もまるで相手を蔑み煽っている様だと気が付くと、好きにならざるをえなかった。
笑いすぎて口端から涎が垂れる。それを啜って、手の甲で拭う。
「最後の年、頑張っていこう」
楽しい高校生活にするために。
やっぱこいつ頭おかしい。