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第1話 熱い思い

「課長、大丈夫ですよ。それは禿の人がどうやっても禿散らかしてしまうように仕方がない事なんですよ!」


 何言ってんだこいつ…


「わかりませんか?禿は常に無常にも去って行く細き人生を何とか押し留めようと日夜努力しているんです。ですがそんな努力も虚しく儚く去って行く…」


「どうしようも無いじゃないですか…」


 彼女は目頭に光る物をハンカチで抑えて熱弁している。

 彼女は会社で私の補佐をしている娘でつい最近入社したばかりの初々しい新入社員なんだが…


「言いたい事は何となく…わかる」


 今日は彼女と一緒にお得意様へ挨拶に行ったのだがその帰りに飲み物を買い休憩をしていたところうっかり購入したアイスカフェオレを落としてしまったのだ。

 アイスカフェオレは蓋が外れ盛大にぶちまけられた。


「わかって頂けたんですね!」


 そう言うと彼女は自分のアイスカフェオレを一気に半分飲み私に差し出した。


 ええ?飲み掛け?

 と言うかこれ間接キスとか…


 彼女の名は本城美上ほんじょうみかみ

 部下ではあるが容姿が整っており細身で女性にしては背は高め、スラッとした足でモデルと言ってもおかしくない程だ。

 更に有名大学を優秀な成績で卒業、何でうちの会社なんかに入って来たのかと思う程で入社当時は話題になったくらいだ。

 そんな彼女の飲み掛けアイスカフェオレを飲んだストローそのまま渡されるとは…


 こ、これは素直に貰っても良いのだろうか…


「どーぞ!」


 何とも無邪気な笑顔でアイスカフェオレを差し出す彼女に思わず受け取ってしまった。


 私が飲むのをじっと待っている。

 仕方がなく彼女が咥えたストローに口を付け吸った。


「ウマ!」


 思わず声が出た。


「でしょう〜ここのアイスカフェオレは絶品なんですよ!課長さっき客先でずっと話してたから喉カラカラでしょ?」


 美人顔だがまだアドケサが残る顔で満面の笑みを浮かべている。

 思わず見惚れてしまった。

 なぜこんな容姿も学歴も完璧で気の付く彼女が良くも悪くも普通のベンチャー企業に来たのか。

 謎ではあるが大体はわかっている…


 彼女は禿が好きなのだ!


 しかしただ禿が好きなのではなくイケメンな禿が堪らないらしい。

 彼女に言わせると禿のイケメンは希少だそうだ。

 かく言う私は《《まだ》》禿では無い。

 というのも私の親父は禿だったしお爺さんも禿、親父やお爺さんの兄弟まで全て禿!

 冠婚葬祭で集まろうものならツルツルピカピカと一族揃って禿散らかす事になる。

 幸い私はまだ禿てはいないがこの禿族の中では時間の問題だろう。

 最近抜け毛も多くなり目に見えて薄くなって来ている。

 そんな私の髪事情に気がついているのか時々私の頭をじっと見ている時がある。

 しかも頬を赤く染めて…

 禿好きな彼女がそんな目で私の頭をうっとり見るのだそう言い事なのだろう。

 自身がイケメンかどうかは自信はないが悪い方では無いと思っている…


 彼女の禿好きについては以前聞いた事があった。


「本城君てさ…頭の薄い人が好きだよね?」


 彼女は驚いた顔でこちらを見た。


「ど、どうしてそれを!」


「なんか禿の人を見る目が違うって言うか、あ、でも同じ禿の人でも対応が違う時があるな…」


「仕方がないですねそこまでお分かりであれば特別に教えて差し上げます」


「お、おう…」


「禿には2種類あるんです」


「…… ふむ?」


「イケメン禿かそれ以外です」


 極端だな?


「イケメン禿はあれかな?イケメンだけど禿げちゃってる人かな?」


「そうです課長!さすが理解が早いですね!」


 聞いた私も私だがそれしか無いだろう…


「それ以外というのは?」


「ただの禿ですね」


 興味の失せた顔で言い放つ。


「いや、もっと種類あるだろう?太った禿とか痩せたハゲ、マッチョな禿とか?」


 彼女はドヤ顔をして言う。


「課長、禿に体は関係ないでしょう?」


 え、そうなのか?


「それじゃあ顔も関係ないんじゃ?」


「課長、禿は何処にありますか?」


 今私は人生で一番どうでもいい質問をされている気がする…


「頭…かな」


「そうです、そして頭で一番目立つのは普通の人は顔です!」


「ふむ?」


「ですが禿の人は顔は2番目でまず間違いなく禿を一番に見られます!」


「つまり禿の存在が顔の存在と同等以上という事です」


 彼女は真剣に話す。


「禿と顔は密接な関係にありそこにイケメンかそうでないかは非常に重要な事なんですよ!」


 何か知らんがそんな気がしてきた。


「つまり本城君はイケメンが好きと?」


 彼女はキッとこちら見て言った。


「禿のイケメンです!」


「じゃあ普通のイケメンは?」


 彼女はふうっとため息を吐いた。


「普通のイケメンはそこらにゴロゴロ居るじゃないですか?しかも大半はロクでもない人です」


 ※彼女の主観です。


「いやいや、良いイケメンも居ると思うぞ?」


「いえ、奴らは人生に勝ったつもりで心の何処かで自分以外を見下しているんです」


 ※彼女の思い込みです。


「じゃあ禿イケメンは?」


「彼らも最初から禿だった訳ではなく最初は普通のイケメンだったんです」


 最初から禿な人はほとんどいないからな…


「しかしある時から薄くなって行く自分に気付きそれを何とか食い止めようと最大限の努力をしますがその努力も虚しく毎日抜ける毛を数える日々…」


「向けられる視線も今までの羨望の眼差しから同情、困惑の眼差しに。整った顔にスカスカになって行く頭のギャップ…何で自分がこんな目にと思いながら過ごす日々。」


「イケメンであるが故に普通の人以上に注目を浴び続け見た目で寄って来ていた人とそうでない人が居る事に気がつくんです」


 熱いな… 今年の新入社員は。禿に対してだけど…


「そして見た目で判断しない人を見抜き、自分もそんな人に誠意を尽くそうと改心するわけです!」


「つまり!禿イケメンは人を見る目がありこちらが誠意を持って接すればちゃんと誠意を持って返してくれる人達なんですよ!」


 ※彼女の独断と偏見による見識です。


 なんだかとんでもない事を言ってようだが言われてみればそうかもしれないと思う自分がいる。

 こうして彼女、本城三上の禿イケメンへの思いを知る事になったのだ。

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