【解】そもそも消えてなどいなかったらしい
「ごめん、待たせた。」
「大丈夫。今イベクエやってるから少しいい?」
「構わないよ。終わったら移動しようか。」
夕飯には少しだけ早い時間。自転車を走らせて到着した先には、スマホを凝視して必死にスワイプしている男。
元彼、もとい高橋とこうしてご飯に行くようになったのは何度目か。
◆◇◆
「なんだ、やっぱり知り合いだったんだねぇ。」
ハッハッーと豪快に笑うオジちゃんなんて気にならないくらいに暗闇の中の彼を見つめた。向こうもこちらを見たまま言葉が出ないようだったけど、
「久しぶり。」
そう言ってスマホ画面を見せてきた。それが彼の連絡先だと分かった私は戸惑いつつも登録。
そのタイミングで到着した自宅近くのコンビニで降りる私に「連絡待ってる」と告げた彼は、昔好きだった笑顔で手を振っていた。
◆◇◆
「高橋はもう本試験も合格して免許取れたんでしょ?」
「そう。卒業式前だったけど別にいいやって取った。岡田はまだなん?」
「私まだ誕生日来てないからそもそも受けらんないの。」
連絡先をもらったあの日からポツポツとやり取りをしているが、こうしてファミレスでご飯を一緒に食べているのがいまだに信じられない。しかもこれが初めてじゃないんだから余計に。
元カノとご飯行くことに何も感じていないのだろうか。
「にしても、3年ぶりなのにお前あんま変わんないのな。」
「それはアンタもでしょ。まさかまた会うとは思わなかった。」
お前のせいでだいぶ変わったと思うんですけど?とはツッコまなかった。分かりやすい変化にすら気付かないくらい、この男は私に興味が無かったんだろう。なんで付き合ってたのかも不思議なくらい。
「そういえば、ずっと気になってたことがあるんだけど。」
「んー?」
「あの時、なんで私はフラれたの?」
自ら古傷にナイフを刺すような真似だが、やっぱり気になるのだ。マフラーを燃やされてしまうほど、何か酷いことをしてしまったのかと。
「あー…。………なんでだろうね?」
「…は?」
「俺もよく分かんない。受験でイライラしてたんかも?」
持っていたスプーンがガチャリと落ちた。
分からないだと?
「いやおかしいでしょ。だってマフラー燃やしたんでしょ?それだけ私に何か不満あったんじゃないの?」
「いんや?岡田のこと嫌いって思ったことはないよ?」
「…はぁぁ!?」
なんだろう。聞く前よりモヤモヤした気持ちが大きくなった気がする。
私が散々傷付いて泣いてウジウジしてたのに、当の本人のこの言葉。引き摺ってたのが私だけなのは分かっていたけど、答えがないだなんて。
「…ずっと悩んで男避けてた自分が馬鹿だったわ。」
「えー?俺、なんかした?」
「したわアホ!」
一口あげるから機嫌直してと差し出されたケーキを問答無用で半分持ってった。多いとむくれているが知らん。
「そもそも、高橋は付き合ってるだなんて思ってなかったのよね、うん。そういうことだ。私が馬鹿だっただけだ。うん。」
「はぁ?それは無いし。俺から告ったじゃん。『付き合わない?』って。」
「そこから間違ってたんだよきっと。今思えばだいぶ軽い告白だったし。からかってただけでしょ。」
「だから違うってー。あれでも俺超真剣だったから。人生初の告白で人生初の彼女だったんだぞー?」
まるで説得力のない言葉を言われても信じられるか。この男が中学時代にとても女子に人気だったのはよく覚えている。だから私が初カノだったと言われても、とてもじゃないが信用できん。
「まぁ確かに俺は馬鹿だったけどさぁ。岡田のことが嫌いで別れたんじゃないのは本当だから。」
「あーはいはい。それを聞けて良かったでござる。」
「ござる?…もー、そんなに信じられないなら…。」
そこまで言って高橋は私の手をギュッと握ってくる。突然のことに拒否も出来ず、逃げ出すことも出来なくて慌てるしかない私に彼はニッコリと笑った。
「来月誕生日なんだよね?………楽しみにしてて?」
途切れたと思った縁は、まだまだ続いていくらしい。
友人として隣に立つのか、恋人として手を取り合うのか、どのような未来になるかは皆様のご想像にお任せします。