9-2
「せんせーい! ご飯できましたよ!」
「うーい」
朝日が差し込むリビングから、先生を呼べば、低い声が返って来る。
「こら、チビ。お前たちの分は別皿に取り分けてあるから、つまみ食い禁止だ!」
テーブルに並べたホットケーキを食べようとしたチビを叱ると、ぴょんとはねてテーブル下へ逃げていく。
「あ、河童と天狗のご飯……チビたちで運んでくれる?」
『はーい』
窮奇三兄弟は家の中、濡れた体の河童と大きな翼を持つ天狗は外で暮らしている。
まるでペットのような扱いだけど、同じ時間にご飯と食べている。
「ふわあ……」
「おはようございます、先生」
寝癖のついた頭で降りてきた先生。
すっかり体調もよくなっているから、顔色もよさそうだ。
寝ぼけた頭だったみたいだけど、並んだホットケーキを見て急に目が輝きはじめる。
「うっしゃ、いただきー」
「どうぞ。甘くしたかったら、メープルシロップ多めに用意してますので」
「さすが、ポチ!」
バクバクと食べる先生。結構な量を用意したけど、次々にお腹に収めていく姿を見ていると、準備したかいがあるというものだ。
「あ、そうだ。ポチ、姉貴からの連絡来てた。また妖怪見つけたとかなんとか」
「え!? まだいるんですか?」
てっきり預かっている画図百鬼夜行で終わりかと思っていた。この本は僕が先生と出会う前に、先生が先に何匹かの妖怪を回収していたらしく、もう全てのペジが埋まっているから。
「何言ってんだ。それは前篇陰だ。画図百鬼夜行は全部で三部構成になっているから、あと二冊あるぞ」
「ひぃぃぃぃぃ!」
妖怪がまだまだいる。しかも全部で三冊あるだって?
少しは妖怪に慣れてきたけど、まだまだ平穏は訪れないじゃないか。
「さらに言えば、あいつは続編の今昔画図続百鬼、今昔百鬼拾遺を書いてる。それぞれ三部構成だ。それの妖怪もあちこち飛びまわってるぞ」
無理。
僕の口から魂が抜け出そう。
「おい、ポチ。だらけてんじゃねぇぞ。これから回収に行くんだから」
「僕は置いて行ってください……」
「作者が行かなくてどうするんだよ。お前がいなきゃ見つかれねえんだから」
食べようとしていた僕の分のホットケーキに、先生の手が伸びてくる。
できることならそれを防衛したいけど、ちょっとハードワークになる気がして防ぐ力がでない。
「妖怪がお前を待ってるぞ」
「それはなんだか違う気がしますー……」
拝啓
どうしてそんなに妖怪を記録したのでしょうか。
妖怪が僕を襲ってきたり、人の心を動かしたり……色々なことがありました。
でもそのおかげで、僕はとても賑やかな生活を送っています。
妖怪を残してくれてありがとうございました。 敬具
了
これにて幕引きです。
読んでいただきありがとうございました!