6-2
夕方になって、外に干していた洗濯物を取り込もうと外に出た。
僕と先生だけの洗濯物。数は少なく、色合いも暗いものばかりだ。でも、どれも使用感が気に入ったものである。
それをいつもの通りに干していたのだ。
「な、にこれ……」
タオルやらTシャツやら、全てが半分に切られている。物干しざおに洗濯バサミで止めていたから、上の方はそのまま竿にくっついたまま。
残り半分がバッサリ切られて、残骸が地面に落ちているじゃないか。
「なんで……?」
半分に切られた衣類。これじゃあ、また着ることはできない。
僕の服の値段はたかが数百円の安物だけど、先生のものは高いかもしれない。それをこんなにするなんて……。
自然にこうなるわけがない。誰かが切ったのだ。
でも、見た目は廃墟同然の家に、わざわざ誰かがやってくるだろうか。ましてや干してあったのは男物の服ばかり。下着もあるけど、何一つ盗まれた様子はない。
物好きの犯行……というわけでもなさそうだ。
「とりあえずは全部取り込まないとだけど、さぁ……」
そのままにしておくわけにもいかない。それでは何も解決しない。
とりあえずは落ちている残骸と共に、全てを取り込んだ。
家の中に持ち帰って、まじまじと切られた衣類を確認する。
「また新しい服買わないと。にしても、これを先生に報告すべき、だよなぁ……」
切り刻まれた服を並べる。
先生に言うべき内容ではあるけれど、今朝方に互いにイライラしてしまっているので、顔を合わせたくない。
「……うぎゃぁっ! いでっ!」
悩んでいると、もぞもぞと洗濯物が動いた。まるで何かがその中にいるかのように。
びっくりして、壁まで猛スピードで逃げたら、戸棚に頭をぶつけた。
「あ、あっ……」
確実に何かがいる。うねうねと動くそれが、何なのか……僕には予想がついた。
「フシュー……」
妖怪だ。
カニのようなハサミを二つ。嘴のようにとがった口を持ち、エビのように節のある体……頭に髪の毛も生えており、うねうねと動く姿はまるで蛇のよう。
いろいろな生き物が混ざった生き物を、妖怪と呼ばずに何と呼ぶ。
じゃきっと音を立ててハサミを開閉して、妖怪は僕を見る。
「逃げっ……」
立ち上がろうとしたけど、腰が抜けた。立とうとしても立てない。
何度も立とうとしたけど、床に戻された。
立てよ、僕。
山姥の時だって、怖かっただろう?
あの時はちゃんと動けたんだ。逃げようとしたんだ。
なのに今、なんで動けないんだよ。
「フシュ―ッ……」
「ひぃっ……」
足元まで妖怪が来る。
そして鋭いハサミによって、僕のズボンの裾がわずかに切られた。