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5-2


 駅でタクシーに乗り込み、運転手に行き先を伝えたら、ものすごく青ざめた顔でこう話してくれた。


「――あの山で、多くの人が行方不明になっているんですよ。子供から大人まで、年齢性別に関係なく、ね。


 行方不明者が出る前までは登山を楽しむお客さんが多くて、私も色々な人を山まで乗せていきましたよ。当時は旅館や飲食店、土産物店が並んで賑わっていましたが、行方不明者が多くなるにつれてどんどんお店はなくなりました。


 そうですね、最初にいなくなったのは十年ほど前、幼い子供……歳は六歳の小さくて可愛らしい子でした。

 家族旅行でこちらに来ていたのですが、一瞬だけ目を離した際にその子だけいなくなってしまいましてね。


 家族も警察も、それに他のお客さんも総出でその子供を捜しましたよ。

 中にはインターネットで行方不明になっていることを知った有志の方も、わざわざこっちまで来てくれて、何時間もかけて探してくれたりもしました。


 ……ですが、それだけの人が探したにも関わらず、手がかり一つないまま、捜査は打ち切りになりました。


 その後、毎年といっていいほど行方不明者が現れるのです。そのたびに捜索をしていますが、何も、誰も見つからず。

 これ以上、行方不明者を出さないために警察も立ち入り禁止のテープを張っていましたが……。


 行ったら帰れなくなる心霊スポットだ、なんてインターネットじゃ話題になっているらしいですが、あそこはそんな生半可な場所ではないですよ。

 幽霊なんて信じてはいません。だけど、幽霊以上にもっと悪い生き物が住んでいると思っています、私は。


 そんな場所に行こうとするなんて、おたくは変わっていますね――……」


 タクシーの中、そんな話を聞いて青ざめた僕の隣で、先生は黙って外を見ていた。



 ----



「はいっっっ! 先生! 帰りましょう! こんなところに、ずっといてなんかいられません! 僕らも神隠しに遭っちゃいます! さあ、帰りますよ!」


 登山口前で立つ先生の腕を引っ張る。

 ひょろひょろしている先生なのに、こういう時はびくともしない。


「んなこと言ってられるかよ。神様なんかいてたまるか。いるのは妖怪だって言ってるだろ!」

「そうだろうとは思いますけど! でも、神隠しの可能性もきっとありますって! 山に入ったら帰れなくなる!」

「この前は普通に帰っただろうが、馬鹿。それにクソ姉貴も普通に帰ってきてる」

「そうかもしれないですけど!」


 やだやだ、行きたくない。

 タクシー運転手の話を聞いたおかげで、この前よりも何だか、山が一層と不気味に見えてきた。


「ほれ、行くぞポチ。じゃないとここに置いてくぞ。ここに妖怪が出るかもしれねぇけどよ」

「ひいいいい! 嫌だぁぁぁ!」

「一人でここにいて、神隠しに遭っても知らねぇぞ」

「嫌ですっ! 待ってくださいよ、先生っ!」


 一人にされるのも嫌だ。

 僕はどんどん山の中へと入っていく先生に着いていくしかなかった。

 夏のあの時より、木の葉に色が付き始めている。秋らしくなったな、なんていう感想をもっても、それをじっと見ていられるほどの余裕はない。

 先生から離れたら、僕か、もしくは先生が神隠しに遭ってしまうかもしれないから。

 怖すぎて、僕はいつの間にか先生の服の裾を掴みながら歩いていた。


「ど、ど、どこまで……」

「知らねえ。歩いてりゃ、出てくるだろ?」


 先生は怖くないのだろうか。

 迷うことない足取りで進む先生は、頼もしいけどどこか怖い。

 僕が先生の服を掴んでいても、嫌がるそぶりは見せずにスタスタ進んで行く。


 しばらくそのまま歩き進めた。

 風が吹くと、葉が揺れて音を立てる。その音がまるで何かがいるのではないかという恐怖を増させる。

 会話がないとその音が聞こえて怖い。だから僕は少しでも気を紛らわせるために


「あのっ……ちなみに、どんな妖怪が……」

「あー、言ってなかったな。クソ姉貴からの連絡に書いてあったのは――山姥やまんばだ」


 僕の目の前は真っ白になった。


「黙ってんじゃねぇ、ポチ。置いてくぞ」

「はっ! 嫌です! それは勘弁してくださいっ!」


 山道を歩き続ける。そしてたどり着いた開けた場所。立ち入り禁止を意味する「KEEP OUT」の文字が書かれたテープが地面に落ちている。

 このテープが張られていた意味を知った今、この先に進むのはすごく怖い。


「ポチ。ここでステイ」

「ステイ……待ってください! 僕はここで待機ですか!?」

「そう」


 じゃ……って本当に僕を置いていく気じゃないか。

 嘘でしょ、先生。


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