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5-1

 気温が四十度を超えることもあった夏も、だんだんと終わりに近づいてきた。

 肌にまとわりつくようなジメジメした空気はまだ少し残ってはいるけれど、かなりマシになってきている。

 それにほんの気持ち程度だけど、日が沈むのも早くなってきた。


「ふぅ……これでいいかな」


 どんなに季節が変わろうが、僕のやることは変わらない。

 起きたら朝食の準備。そのときの食材や、前日の夕食のメニューによって、内容は異なる。準備が終わったら僕の生活の基盤となっている一階から、二階で寝ている先生に向かって大声で呼んで起こす。

 眠そうな顔で降りてくる先生と、一緒に朝食を食べたら、先生はまた部屋に戻るので、僕は片付けをしたり、部屋の掃除をする。


 たまには気分転換として、外へ買い物に行ったりするけど、だいたいは家の中、もしくは家のすぐ前で体を動かす程度だ。

 最近は他にやれることがなくて、幾分か退屈になってきている。


「ポチ」

「どうされました?」


 今日は槍が降るんじゃないかってぐらい珍しいことに、僕に起こされなくても自分で起きてきた。

 寝癖のついたボサボサの頭でソファーに座り込む。


「姉貴からの連絡が来た」

「ああ、以前、山でお会いしたお姉さんですね。何かあったのですか?」


 キッチンで目玉焼きを作りながら、味噌汁の準備をする手は止めずに聞く。

 焦がさないように、そして味噌がしっかり溶けるように気を配る。色々なアルバイトをしてきたおかげで、マルチタスクを同時進行できるようになっているみたいだ。


「ああ。妖怪見つけたって」

「ひっ……よ、妖怪を。よ、よかったですね、見つけられて。お姉さんが回収したんですよね?」


 思わず変な声が出て、体がビクっとなった。

 そもそも僕が先生の家に居候しているのは、妖怪を回収するのに適しているからである。いちいち『妖怪』という言葉に過剰反応していれば、僕のメンタルが持たなくなってしまうのはわかっている。だけど、いつもびっくりしてしまうから、そろそろ気を強くもっていたい。


「いや、回収はしてない」

「ぎゃっ! 何でです? 見つけたときに回収しておかないとなんじゃ……」


 先生の家族はみんなそれぞれ妖怪回収をしているのではないのか。

 早く全部回収してもらって、僕に平穏をもたらしてほしい。


「どうやら、あそこの山にいたのが、俺の本の中の妖怪らしい」

「ぎゃあああああ!」


 僕は先生に背を向け叫んだ。

 そうともなれば、確実に僕らはまた、あの山にいくことになるじゃないか。

 山にいる妖怪っていうだけで、なんだか余計に怖いし。


「ポチー、焦げるぞー。俺、黒いおかずは嫌だ」

「ぎゃあああああ! 待って、待って!」


 火にかけたままの目玉焼きを焦がすところだった。味噌汁もぐつぐつと音を立てている。

 どちらも火を消して、慌ててお皿に移し替える。


「それ、僕もまた行く……んですよね?」

「たりめぇだ。ポチがいねえと、出てこなそうだしな」

「ひょぇぇぇ……怖いぃぃ……まずは気持ちを作らないと。深呼吸、深呼吸。ふぅ……」


 確かに僕が行ったら、妖怪は何故か現れる。

 近くの店へ向かう、ただのお使いであったとしてもだ。

 またしても、妖怪に会うことになるのはやっぱり怖い。ちょっと気持ちを落ち着かせて、準備しないと――


「ということだから、早速行くぞ」

「えっ!? 今からです?」

「今からだ」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


 僕の悲鳴は家中に響き渡った。



 ----



 またしても人が少ない単線の電車に揺られて向かった田舎。今回は時間が合わなくてバスは無かったから、タクシーを呼んで山のふもとへと向かった。


 電車に揺られているときも思ったけど、やっぱり誰もいない静かな地域。

 幽谷響やまびこを探しに来たときは真夏だったから、暑すぎたけど、今はかなりマシだ。

 太陽は出ているけど、暑すぎることはない。風もそよそよ吹いているし、暑くも寒くもないベストな気温だ。


 今回はバスじゃないから、バス停と山までの距離を歩かずに済んだために体力は十分残った状態で、山を登ることになる。

 ただ、体力はあっても、僕の足は震えていた。

 なぜなら、この山に伝わる話を聞いてしまったから――。




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