表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
98/188

16-1-1.注げば注ぐほど溢れ出ていく

妹もなかなかにヘビー級。



 おひさ⭐︎神じゃよ⭐︎(`ゝω・´)v


 早速次のイベントに移ろうとしてたんじゃが……ちょっと、急遽今からお休み回を挟もうと思ってな。


 君達も見たじゃろ?七崎のあの様子……

 なにやらひどく混乱してて……見ててなんかちょっと可哀想になってくるくらいの……


 だから、ここは一旦ストップじゃ。

 彼女自身が駄目になってしまってはどうしようもないからのぅ。


 いやしっかし、気づかなかったわい……

 計画は上手いこと進んでいるつもりでいたが……彼女の中で、目に見えない負担がかなり積もっていたようじゃのぅ。


 よその世界の住人である二人を、一刻も早く元の世界に帰らせてやりたいし……あまり長々時間をかけていられないのじゃが……


 だが、ああして思い悩む事で心を疲弊させてしまったら、それ以前に彼女自身が潰れてしまう。それも駄目だ。




 そう、だから……

 今からしばらく七崎には休んでもらって……その代わり他五人の話でも、と思ってな。


 ん?右手に持ってるのはなんだって?

 枕じゃよ。ワシお気に入りのな、テン◯ュールの低反発枕で……その情報いらない?あ、そう……(´·ω·`)


 彼女が休んでる間暇じゃし、ワシもしばらくお休みさせてもらおうと思ってのぅ。

 ただの人間観察なら部下でもできるし、今回は研修も兼ねて全部任せようと思って。


 なぁに、心配はいらん。真面目な良い奴じゃよ。

 真面目過ぎて言葉は硬いが、特に進行上問題はないはず。


 そんじゃ、ワシ寝るから⭐︎おやすみ〜⭐︎




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 早乙女 歩はたった今、学校から帰ってきたところだ。


「……ただいま」


 返事はなく、家の中はシーンとしている。

 パートの母親はまだ帰ってきていないようだ。


 そのまま慣れた足取りでスタスタと2階へ上がり、自室のドアを開けると……


「……うおっ?!」


 誰もいないはずの自分の部屋、ドアを開けたらそこにはなぜか妹がいた。


 部屋の入り口の方に鞄をほっぽり出して、セーラー服のまま部屋の真ん中のテーブルに突っ伏して座っている。


「は?なんでお前がいんだよ?!」

「いいじゃん、いても」


 くぐもった声でそう言う、妹こと早乙女 千紗。


「いや、ここ俺の部屋なんだけど!」


 兄にそう言われ、渋々といった感じで頭を上げると……その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。


「えっ、お前……」

「別れたの」

「は?」

「別れたの、彼氏と」


 その一言で全てを察し、彼は大きなため息をついた。




「またかよ……」

「……」

「重過ぎんだよ、お前」


 実はその言葉、発した本人にも言えることなのだが……気づいていないようだ。


 ある時そんな自分に自ら気づいて深く反省し、あれから表には出さないようにはしているらしいが……彼自身の精神にそれほど変わった気配はない。


 つまり……外に出さないというだけで、その内心は……




「だ、だ、だって!」

「今度は何したんだよ?鬼LIMEか?」

「違う!そんなんじゃないし!」

「じゃあなんだよ」

「LIMEの返事来ないから催促しただけ!」

「同じじゃねぇか」

「違うの!あれでも結構待ったんだから……!」

「どれくらい?」

「1分!」

「いや、それ……」


 何かを言いかけたが……すぐに思い直してやめた。


「それなのに逆ギレされて……しかも、別れ話になるなんておかしくない?!」

「別れた理由って……まさかそれ?」

「そう!酷くない?!」




 思い出すにつれてヒートアップしていく千紗。

 兄の返事待ったなしでどんどん話を進めていく。


「思い出したら腹立つ〜!なによもう!」


「他のSNSはちゃんと更新してるのに!どうして返事できないのよ!」


「学校から帰ってきてから、ずっと部屋でゲームしてたじゃない!夕飯とお風呂以外はず〜っと!」


「最初RPGやってたけど、そのうち飽きて新しいのダウンロードし出して!でも結局、そのダウンロード中に始めたソシャゲに夢中になって寝るまでやってた!」


「途中でバイト先から、明日のシフト代わってくれないかって電話が来て断ってたけど……それもせいぜいたったの数分!あとの時間は全部、ず〜っと遊んでたじゃん!」


「なのに、なんで返事しないのよ!ほんと、なんなの?!」




 当たり前のように話しているが……

 どうやらこの千紗という少女、『SNSの監視』と『部屋の見張り』というストーカーまがいの事を日常的にしているようだ。


 室内の、それもそんな詳細まで行動を観察してるとなると……何か手の込んだ細工というか、若干の犯罪臭がするが……今は一旦置いておく。




「お、落ち着けって……」

「落ち着けないよ、こんなの!」


 興奮する妹を宥める兄……しかし、問題発言に関してはお咎めなし。

 彼も彼で、それをなんとも思わないようだった。


「まぁ、気持ちは分かるけどさ……俺もたまにそういう時あるし」

「でしょ〜?!」

「見てる時に限って、返信がなかなか来ないんだよなぁ」


 狭い部屋に犯罪者予備軍が二人。


「でも、でもさ……」

「何?」

「結局振られたんだろ?」

「……」

「それってさ、ただ単に……」

「なによ」

「お前のこと、そこまで好きじゃないんじゃね?」

「……っ!」


 千紗の目が大きく見開かれ、そしてみるみる涙ぐんでいく。


「好きならすぐ連絡したくなるだろ、誰だって」

「……」

「でも、お前の場合……そもそもそんなに……」

「言わないで!もう知ってるから……っ!」


 精一杯虚勢を張った声が部屋に響き渡る。


 誰が聞いても分かるくらいの、まさに泣き出す数秒前のような、そんな限界の声。


「知ってるよ……知ってたよそんなの!」


「どうせ私なんか、暇つぶしの相手!都合が良いだけ!本気で好きな訳じゃない……!」


「どんどんどんどん好きになっていくのに!向こうはどんどん冷めて、離れてく!」


「好きになればなるほど、私の好きって気持ちが伝わらなくなってく!」


「そりゃさ!そりゃ、向こうは最初そんなに好きじゃないの、分かってる!毎回私から告白してるんだから!」


「私から押して押して、ようやく付き合うことになって……で、そこからさらにもっと好きになってほしくて頑張ってるのに!」


「私の行動全て、『好きだから』なのに!大好きだからそうしてるのに!」


「なのに……この気持ち、どうして分かってくれないの?!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ