16-1-1.注げば注ぐほど溢れ出ていく
妹もなかなかにヘビー級。
おひさ⭐︎神じゃよ⭐︎(`ゝω・´)v
早速次のイベントに移ろうとしてたんじゃが……ちょっと、急遽今からお休み回を挟もうと思ってな。
君達も見たじゃろ?七崎のあの様子……
なにやらひどく混乱してて……見ててなんかちょっと可哀想になってくるくらいの……
だから、ここは一旦ストップじゃ。
彼女自身が駄目になってしまってはどうしようもないからのぅ。
いやしっかし、気づかなかったわい……
計画は上手いこと進んでいるつもりでいたが……彼女の中で、目に見えない負担がかなり積もっていたようじゃのぅ。
よその世界の住人である二人を、一刻も早く元の世界に帰らせてやりたいし……あまり長々時間をかけていられないのじゃが……
だが、ああして思い悩む事で心を疲弊させてしまったら、それ以前に彼女自身が潰れてしまう。それも駄目だ。
そう、だから……
今からしばらく七崎には休んでもらって……その代わり他五人の話でも、と思ってな。
ん?右手に持ってるのはなんだって?
枕じゃよ。ワシお気に入りのな、テン◯ュールの低反発枕で……その情報いらない?あ、そう……(´·ω·`)
彼女が休んでる間暇じゃし、ワシもしばらくお休みさせてもらおうと思ってのぅ。
ただの人間観察なら部下でもできるし、今回は研修も兼ねて全部任せようと思って。
なぁに、心配はいらん。真面目な良い奴じゃよ。
真面目過ぎて言葉は硬いが、特に進行上問題はないはず。
そんじゃ、ワシ寝るから⭐︎おやすみ〜⭐︎
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
早乙女 歩はたった今、学校から帰ってきたところだ。
「……ただいま」
返事はなく、家の中はシーンとしている。
パートの母親はまだ帰ってきていないようだ。
そのまま慣れた足取りでスタスタと2階へ上がり、自室のドアを開けると……
「……うおっ?!」
誰もいないはずの自分の部屋、ドアを開けたらそこにはなぜか妹がいた。
部屋の入り口の方に鞄をほっぽり出して、セーラー服のまま部屋の真ん中のテーブルに突っ伏して座っている。
「は?なんでお前がいんだよ?!」
「いいじゃん、いても」
くぐもった声でそう言う、妹こと早乙女 千紗。
「いや、ここ俺の部屋なんだけど!」
兄にそう言われ、渋々といった感じで頭を上げると……その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「えっ、お前……」
「別れたの」
「は?」
「別れたの、彼氏と」
その一言で全てを察し、彼は大きなため息をついた。
「またかよ……」
「……」
「重過ぎんだよ、お前」
実はその言葉、発した本人にも言えることなのだが……気づいていないようだ。
ある時そんな自分に自ら気づいて深く反省し、あれから表には出さないようにはしているらしいが……彼自身の精神にそれほど変わった気配はない。
つまり……外に出さないというだけで、その内心は……
「だ、だ、だって!」
「今度は何したんだよ?鬼LIMEか?」
「違う!そんなんじゃないし!」
「じゃあなんだよ」
「LIMEの返事来ないから催促しただけ!」
「同じじゃねぇか」
「違うの!あれでも結構待ったんだから……!」
「どれくらい?」
「1分!」
「いや、それ……」
何かを言いかけたが……すぐに思い直してやめた。
「それなのに逆ギレされて……しかも、別れ話になるなんておかしくない?!」
「別れた理由って……まさかそれ?」
「そう!酷くない?!」
思い出すにつれてヒートアップしていく千紗。
兄の返事待ったなしでどんどん話を進めていく。
「思い出したら腹立つ〜!なによもう!」
「他のSNSはちゃんと更新してるのに!どうして返事できないのよ!」
「学校から帰ってきてから、ずっと部屋でゲームしてたじゃない!夕飯とお風呂以外はず〜っと!」
「最初RPGやってたけど、そのうち飽きて新しいのダウンロードし出して!でも結局、そのダウンロード中に始めたソシャゲに夢中になって寝るまでやってた!」
「途中でバイト先から、明日のシフト代わってくれないかって電話が来て断ってたけど……それもせいぜいたったの数分!あとの時間は全部、ず〜っと遊んでたじゃん!」
「なのに、なんで返事しないのよ!ほんと、なんなの?!」
当たり前のように話しているが……
どうやらこの千紗という少女、『SNSの監視』と『部屋の見張り』というストーカーまがいの事を日常的にしているようだ。
室内の、それもそんな詳細まで行動を観察してるとなると……何か手の込んだ細工というか、若干の犯罪臭がするが……今は一旦置いておく。
「お、落ち着けって……」
「落ち着けないよ、こんなの!」
興奮する妹を宥める兄……しかし、問題発言に関してはお咎めなし。
彼も彼で、それをなんとも思わないようだった。
「まぁ、気持ちは分かるけどさ……俺もたまにそういう時あるし」
「でしょ〜?!」
「見てる時に限って、返信がなかなか来ないんだよなぁ」
狭い部屋に犯罪者予備軍が二人。
「でも、でもさ……」
「何?」
「結局振られたんだろ?」
「……」
「それってさ、ただ単に……」
「なによ」
「お前のこと、そこまで好きじゃないんじゃね?」
「……っ!」
千紗の目が大きく見開かれ、そしてみるみる涙ぐんでいく。
「好きならすぐ連絡したくなるだろ、誰だって」
「……」
「でも、お前の場合……そもそもそんなに……」
「言わないで!もう知ってるから……っ!」
精一杯虚勢を張った声が部屋に響き渡る。
誰が聞いても分かるくらいの、まさに泣き出す数秒前のような、そんな限界の声。
「知ってるよ……知ってたよそんなの!」
「どうせ私なんか、暇つぶしの相手!都合が良いだけ!本気で好きな訳じゃない……!」
「どんどんどんどん好きになっていくのに!向こうはどんどん冷めて、離れてく!」
「好きになればなるほど、私の好きって気持ちが伝わらなくなってく!」
「そりゃさ!そりゃ、向こうは最初そんなに好きじゃないの、分かってる!毎回私から告白してるんだから!」
「私から押して押して、ようやく付き合うことになって……で、そこからさらにもっと好きになってほしくて頑張ってるのに!」
「私の行動全て、『好きだから』なのに!大好きだからそうしてるのに!」
「なのに……この気持ち、どうして分かってくれないの?!」




