15-2-1.自由行動なんて無かったんや
2日目はやっぱり予定通り、朝から自由行動だったようだ。
好きなメンバーで、しかもどこ行って何してもいいっていう、それはもう素晴らしい日だった……
らしいんだけど、当然の如くカット。
解せぬ……!
周りの子の話からして、どうやら仲の良い女子だけでワイワイ楽しく遊んでたっぽいのに、全く記憶にないの悲し過ぎない?
修羅場よかこっちのがキツいかもしれない。気づいちゃったよ私。
なもんだから、結局私の一日はその日の夜から始まった。
始まったってか、もうほぼ終わってんじゃんという突っ込みはご遠慮ください。
それ本人が一番分かってるから……おのれ、イベント効果め……
昨日と同じ女子の顔ぶれで、また男子の部屋に遊びに行く事になっていて。
その移動中っていう、なんとも微妙なタイミングから始まった……
(抜き足、差し足、忍びあ〜し……)
で、今はつま先立ちで音立てないように廊下を歩いてる訳なんだけど……
(抜き足、差しあ、)
「誰かいるのか?!」
突然の大声にその場の全員の肩がびくぅ!と大きく震えた。
誰か、男の先生の鋭い声。
声の聞こえた方を見ると、ぼんやりとこちらに近づいてくる人影のようなものが……
見えるよ〜な、見えないよ〜な……
声が大き過ぎるおかげで距離感騙されそうになったけど、どうやら本人はめちゃくちゃ遠いみたいだった。
むしろこっちが『誰かいるのか?!』だよ。
周りの三人を見ても、やっぱりみんな無言。
一人くらい『あっ、◯◯先生だ!』ってなってもいいものを、まだ誰も答えが出ない……そのくらい遠かった。
むしろよく見えたな、あの人。
でも、足が速いのかかなりのスピードで近づいてきていて……
こうやって考えている間にも緑色のジャージが段々とはっきりしてきていた。
声の感じからして多分、体育の先生。
体育祭の時に慌てて保健室に駆け込んできた、まさにあの声だ。
(げげげ、最悪ぅ……)
他の先生ならまだ良かった。
むしろこれがまた担任のお爺ちゃん先生だったら、余裕で逃げ切れる自信があった。
でも、今日の相手は現役バリバリで毎日校庭を走り回ってる人……
無視オブ無理、やばみの極み。
それからの流れは早かった。
早かったというか、早くせざるを得なかったんだけど。
「やば、どうしよ……!」とユカ。
「と、とりあえずどっか隠れてやり過ごす……?」これは私。
そして、ほんの少しだけ全員黙り込んで……
「そうね、ここは一旦誰かの部屋に匿ってもらった方がよさそう」とリダ子が方針を決め、
「くっそ〜、今日はここまでか〜!トランプしたかったのに……!」と、最後に友達が悔しいみんなの気持ちを代弁してくれたところで……角刈り頭がだいぶくっきりはっきりと見えてきた。
「おい、そこ!いるんだろ!」
(うわ、声でか……)
ほんとは今日も遊びたかったけど……一番危険な先生に見つかった以上、今日はさっさと撤収した方が良さそうだ。
こうやってうろうろしてるのがバレた以上、しばらく警戒してそうだし。
一旦このピンチをやり過ごしたら、大人しく部屋に戻ろう。
多分他の子も似たような事を考えてるはず。
四人で顔を見合わせて合図し……
(うん!それじゃ、また後で!)
そして、それぞれ散り散りになって別々の部屋の方に忍び足ダッシュ!
爪先立ちで軽やかに跳ねるように、草原を掛けるチーターのように……!
え?大根足でチーター名乗るな?
うっさい!!!お黙り!!!
(どこにしようなんて迷ってる暇はない……ええい、ここっ!)
適当に近くの部屋の襖を勢いよく開け、体を押し込むようにして駆け込む。
(そりゃっ!)
ダイナミック不法侵入である。
プライバシーもへったくれもないけど、ここゲームの中だし⭐︎まぁいけるっしょ⭐︎
部屋に顔を突っ込むと、そこはシーンと静かだった。
(え?)
部屋の中は物音ひとつなく静かで、しかも電気が消されていて真っ暗。
(え、うそ?!もしかしてこれ、みんな寝てる……?!)
しまった!と思ったけど、外にはあの先生。
多分今もっとすぐ近くまで来てるはず……もう引き返せない。
でも、ついさっきまで人影がぼんやり動いてるの見えたし……多分みんなまだ起きてるよね?
暗くて誰の部屋だか全然分かんないし、本気で寝てるところを邪魔しちゃったのかもしれないけど……
でも今はそんなの気にしてられない、とにかく隠れないと……!
(ご、ごめんなさ〜い!ちょっとお邪魔しま〜す……!)
そう心の中で呟いて残りの体を部屋に引き込むと、なぜか襖がひとりでにススス……と閉まっていった。
(……お?)
閉まっていくのと同時に、すぐ側に何者かの気配。
何だろうと思ってそっちを向くと……
「……唯!」
誰かの腕が目の前にするすると伸びてきて、スマホのライトをパッとつけたかと思ったら……あのふにゃっとした笑顔が現れた。
寝る前だからか、今日は珍しく真っ黄色の髪がそのまま全部下ろされていて……なんだかまた違う雰囲気。
「逃げてきたの?」
私にだけギリギリ聞こえるくらいの小声で、そう囁く。
「そうなんだよ〜、なんか体育の先生が見回りしててさ……」
「お疲れ様。じゃあしばらくここにいなよ」
「え、ほんと?」
「警戒してしばらくこの辺ウロウロしてるだろうし、落ち着くまでいなよ」
「ありがとう……!」
流石察しの良い男……!話が早い……!
「いや、むしろ……いてほしいな」
「へ?」
「このまま……その、帰ってほしくないなって」
(ほわぁ……!)
まるで吐息で喋っているかのような淡い声。
霞のような、掴もうとしたらふわっと霧散しそうな、そんな声。
そんな艶っぽい音色で奏でられた、ほんのり甘い言葉達に……心臓が勝手に盛り上がっていく。
(……っ!)
でも、
『はいっ、しゅ〜りょ〜!』
空中にフッと担任の顔が出てきて、甘〜いムードは強制終了。
すぐ側の襖が昨日の生首を思い出させてくれたのだった……
(ぐぬぬ、良いところだったのに……!)
「あ」
待てよ。この場合、私……
「ん?」
「そういや私、どこに隠れよう……」
布団は一人一つしかないっぽいし。
他のみんなはそこに隠れるとして、私は……
「あ、そっか!押し入れ!」
「し〜っ」
やば、でかい声出しちゃった。
「先生、まだそこにいるから……」
「う、うん……」
しっとり目のウィスパーボイスにまたちょっとドキッとしたところに……
「……ね?ふふっ」
意味深な笑みが追撃してくる。
もちろん毎度のことながら、これも分かっててやってるんだろうけど。
分かっちゃいるけど……でも、それでもカァーっと顔が熱くなっていくのが分かる。
「……」
「ん?どうしたの?」
きっと今、真っ赤な顔がライトに照らされて……彼にははっきり見えてしまっている。
「な、なんでも……ない」
「そう?」
いつもいつもやられっぱなしで、毎回毎回悔しい思いをして……
「そっかぁ。な〜んだ……ドキドキしてたの、俺だけか〜」
(……!)
でも、やっぱり今回も惨敗。
「……」
「……」
なんとなく気まずくなって、反射的に彼から視線を外す。
(ほんと、タチ悪いよなぁ)
そして、そのついでに辺りを見回すと……
布団の上であぐらかいて缶ジュースを飲むモブ男子が二人と……その奥に一つ、人一人分もっこりと盛り上がった布団の塊が見えた。
「あ、あれは……」
誰だろう?と言う前に、眠そうな顔をした青い髪の青年が首だけもそもそっと出てきて。
「わ、また生首!」
「生首?」
「ううん、気にしないで唯。こっちの話だから……」
「?」
なんなの?今回は生首イベントデーなの?
「え、俺……生首……?」
あ、ショック受けてる。ごめん、いっちー。
まぁ、とにかく……
どうやらそこは彼といっちー、そして他のモブ男子が二人の四人部屋のようだ。
(この二人、また一緒なんだ……)
よく被るなぁ。この優等生と不良の凸凹コンビ。
これわざと?わざとなの?




