15-1-2.エキサイティングな3D(枕)アクションゲーム
出たぁ!(cv大山のぶ代)
「は、は〜い……」
恐る恐る手を挙げてみる。
「なに、七崎さん?」
「枕投げとか……どうかな?」
「枕投げ?」
「ほら……みんな、体鈍ってるでしょ?だから、ちょっと運動すれば疲れて気持ち良く寝れるんじゃないかって……」
あ、喋ってたらなんか色々思い出してきたぞ!
最後にやったのは、あれは……今と同じくらい?高校生だったかな?
手加減とか無しの、めちゃくちゃでがむしゃらの戦い……!
布団の上をドスドス跳ね回って、ワーキャー言いながら暴れ回る、あれだよ……!
思い出したらやりたくなってきた!
こうやってせっかく現役に戻れたんだし!またやりたい!めっちゃやりたい……!
フゥ〜!始まる前から血が騒ぐぜっ!
(さぁ!さぁさぁリダ子!どうだいっ?!)
「え……」
えっ。
「……」
えっえっ……駄目?
「……いいじゃん!定番だけど、面白そう!」
今の間はなんだったの。
「賛せ〜い!」「私も〜!」
他の男子達は相変わらず無言だったけど、みんな頷いてくれた。
「まぁ、いいんじゃねぇの?」
歩君もオーケー……って、だから!視線!こっちじーっと見ないの!
「じゃ、そうと決まったら準備だ準備!みんな、まずはそれぞれ枕確保して!」
リダ子はテキパキと話を進めていく。
歩君の視線も彼女の話が始まると一瞬そっちを向くけど、また……
(こら!やめんかっ!)
キッと睨むも、彼はその視線をふわりと避けて……こっちが目を離した隙にまた見てくる。
(おいっ!)
「女子の分は、押し入れから予備のやつ出しちゃお。後で片付ければいいし」
(おい、ちょっと!視線、自重して!)
や〜だよ〜と言わんばかりの顔。
「どう?みんな持った?」
(その!視線を!やめなさいっ!)
水面下で勝手に始まった視線バトル。
「うん、あるね。オーケー」
(ちょっと、やめなさいってば!変に勘繰られちゃうでしょ〜が!)
「ルールは……知らない人、まさかいないよね?もしいたら私教えるけど……?」
全員沈黙。
「じゃあ、大丈……」
リダ子の視線はまずどこかをガン見する歩君へ。
そして、それを辿ってその先の私へ。
「七崎さん……は、大丈夫よね?言い出しっぺだしね?」
(ほら〜違う意味で変な疑惑生んだ〜!言わんこっちゃない!)
「ううん、知ってるからへーきだよ」
彼の方をキッと強めに睨んだけど、こうかはいまひとつのようだ……
「そう。ならみんな大丈夫ね?よし、じゃあ……始めるよ!」
リダ子、ユカ(モブ子)、友達、私の女子チーム。
眼鏡君1号2号3号、そして歩君の男子チーム。
4対4、それぞれポジションに着いて……ファイッ!
「ぅおらぁぁっ!」
「えいっ!」
開幕早々、ここでクイズです。
これはそれぞれ男子と女子の掛け声です。
このうち女子の声はどちらでしょう?
正解は……最初の掛け声の方でした!雄々しいね!
「っらあぁっ!」
「へぶっ!」
早速、眼鏡君1号アウトー!
こういう言い方しちゃうと、ついあの番組思い出しちゃう。デデーン♪
「ふっ!」
歩君、掛け声まで意識しなくていいのよ?
ここは戦場、いちいちイケメンムーブなんて気にしちゃ……
「スキありっ!」
「うわっ?!」
ちっ!外したか……!
「あっぶな!」
「そりゃ、本気だもん!カッコつけてっとやられるぞ〜!」
油断は禁物、狙われちゃうぞ〜?
「なら、本気でやらせてもらおうか!」
「望むところよ!」
「ふんっ!」
おおぅ、今度は剛速球。球ってか枕だけど。
「よっと!」
力一杯飛んできたのをギリギリでなんとか避けて、セーフ。
「なかなかやるな……!」
「早乙女君もね?」
「ぬぅんっ!」「そぉいっ!」「だりゃあっ!」
「えい!」「ふんっ!」「せいっ!」
他もそれぞれみんな全力奮闘中。
どっちの声が女子か……は言わずもがな。
これだけドッタンバッタン暴れてても先生来ないのは、やっぱりイベント効果?
「あ、ユカ!前、前!」
「ひゃあっ?!」
ユカ、アウトー。
ちょっとバランス崩してユカの足がふらっときたところを、死角から飛んできた枕がヒット。
う〜ん、うまい。敵ながらあっぱれ。
お、そんな事言ってたら……ちょうど私の目の前にいいカモが。
眼鏡君2号!君に決めた!
「どぉりゃっ!」
「ぶへっ!」
へい、いっちょ上がり〜!
枕切れを起こした相手に枕を叩き込む、この爽快感!
(ちょっと卑怯で申し訳ないけど、真剣勝負だからっ!)
それから一人減り、二人減り……
ふと気づいたら歩君と私以外全滅、一対一になっていた。
(ええっ?!私これでも弱い方なのに?!)
あ、そっか……夢中になってて忘れてた、やっぱりイベントなんだこれ。
そうでもなきゃ、こんな二人だけ最後に残るなんて変だもん。
「……」
「……」
お互いタイミングを狙って、睨めっこ。
枕片手に真剣な顔で見つめてくるっていう意味不明なシチュエーションにじわじわくるけど……ここで気を抜いて笑ったりしたら間違いなくやられる。
それだけは勘弁だ。
「……あっ!UFO!」
「そんな古典的な方法、誰が引っかかるかよ」
ちぇっ、駄目か。
「ねぇ、早乙女君知ってる?」
「知らんし、わざとらしいわ」
くそ〜。
「ふぁ〜あ……」
「おい、なに呑気に欠伸してんだよ」
「……」
「やべ、見てたら俺もなんだか……ふわぁ……」
「今だ!」
枕を相手の方にシュゥゥゥゥッ!
「っ、やべ!」
私のボー……じゃなかった、枕は彼の右脛のすぐ脇スレスレを通っていき……そして、
「そぉいっ!」
注意がそっちに逸れたところで追撃をお見舞いする。
(超⭐︎エキサイティン!ツ◯ダオリジナルから……)
はっ、いかんいかん!懐かしい幻聴が……!
某猫型ロボットの声がするところまで聞こえたらアウトだったけど、途中で止まれたので今日はセーフ。
……?セーフって何?(?)
「くっそ!」
当たった瞬間にチームの負けが確定した。
チーム戦で一番つらいポジションだ。
「あ〜くそっ……!」
悔しそうに歪むその表情がこれまたなんとも……う〜ん、セクスィ。
(そういや、薄い本でこの顔見たことあるなぁ……)
真面目に悔しがる男の目の前で、クソみたいなことを考えている女がここに。
「じゃあ、はいっ!しゅ〜りょ〜!うちら女子チームの勝ち〜!」
「やった〜!」「わ〜!」
(いえ〜い!)
「はいっ、しゅ〜りょ〜!さっさと寝る〜!」
喜ぶのも束の間、どこかから声がした。
(えっうそっ?!この声……!)
まさかと思って部屋の入り口の方を向くと、いつの間にかきっちり閉めたはずの襖が、人一人分開けられていて。
しかも、そこからシワシワの顔がひょこっと出てて……
(やば!あれ担任の先生じゃん!)
手元の懐中電灯にぼんやりと照らされる生首……ある意味ちょっとしたホラーだけど、みんなそれどころじゃなくて誰も突っ込まなかった。
一斉に静かになる枕投げ軍団。
お説教か?これお説教パターンなのか……?とそわそわしながら。
「えっ……え、いつからそこに?」
それから最初に口を開いたのはリダ子。
みんなが思ってた質問を、代表して聞いてくれた。
彼女の勇気に乾杯。
「最初から」
「えっ、みんな気づいてた?」
全員首を横に振った。もちろん私も。
「ずっとここで見てましたよ。一部始終を……」
うそ〜ん。気配も物音も全然なかったじゃん。
ステルス機能でもついてるのかな、このお爺ちゃん。
「ではみなさん。ちょうど満足したところですし、寝ましょうか」
「え、明日は?明日の自由行動は……?」
不安がるリダ子。
それもそのはず、明日の予定は……みんな大好き、自由行動が許されてる日。
だけど、何か違反行為があったら変更となりますって言われてたんだっけ。
「そうですね……」
ドキドキ。ドキドキドキ。
「本来なら罰として自由行動は中止、私と一緒に博物館見学となるところでしたが……」
でしたが?
「今のは、班のメンバーが仲良くなるためのコミュニケーションの一環であるとして……処罰の対象から除外します」
穏やかなのは声だけじゃなかった〜!
ありがと〜!大好き〜!(現金な奴)
「その代わり、今すぐ寝ること。いいですね?」
この場にいる全員分のは〜い!を一通り聞いて、先生はのそのそとパトロールに戻っていった。
(ああ、良かった……って、あれ?ホッとしたら眠気が……)
眠気に耐えきれず大きなあくびをすると、やがて全身にふわふわと意識が遠のいていく感覚が。
(あ……これあれだ、いつものやつだ……)
(次のイベントって自由行動かな?ちょっと楽しみかも……)




