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その差、一回り以上  作者: あさぎ
プ◯キュアじゃないよ
9/173

2-5-1.幼なじみレッド(早乙女 歩)

 


 ふと目にゴミが入った気がして、ゆっくり瞬きをする。


「ん……」


 そして再び目を開けると……夕暮れで赤く染まる教室の中にいた。


(……?!)


 今度はまたさらに時間が進んで、帰りの時間になったようだ。

 周りはみんな帰りの支度をしてるし、中にはもう帰ってしまった生徒までいるくらい。


(えええ……もう帰り……?)


 見事に授業一コマも受けないで今日が終わってしまった。

 いいのか、これで。




 驚いてても仕方ないので、周囲に合わせ慌てて帰り支度を始めると……不意に声をかけられた。


「おい、七崎。帰るぞ」


 帰ろう?じゃない。帰るぞ、だ。

 いつもこう。拒否権なんてない。


「えっ、も、もう?!ま、待って待って!支度全然できてないよ〜!」


(もう!油断してる時に限って、早いんだから……!)


「なんか今日早くない?」

「早くねぇよ、全然。お前が遅いんだよ。今日なんて特に長々女子同士くっちゃべっててさ……待たされる方の身にもなって欲しいぜ、まったく」


 え?そうなの?

 色々カットされてて分からなかったけど、友達と長話してて遅くなったって設定なの、今?


「え、あ……ごめん」

「ほら、さっさと帰るぞ」

「うん、今行く。支度するからちょっと待ってて」

「待ってて?なんだよ、まだなんかあるのか?」

「いや、そうじゃなくて……」


 ……君、私の話聞いてる?


 支度の途中なんだよ、今。

 君みたいに荷物少なけりゃ、体一つサクッと移動できるけどね……女子は違うのよ、うん。


 あと、地味にトイレ行きたい。


「また、誰かさんに絆創膏渡しに行くのか?」


 わお。あのシーンばっちり見られてた。


「違う違う、あれはあれで終わり」

「ふ〜ん」


 ふ〜んとは言うものの、目は笑ってなくて。


「え、えっと!と、ともかく……すぐ行くから、そこで待ってて!」

「じゃあ、先下駄箱んとこ行ってる」

「え?ちょ、ちょっと……!待っ……!」


(えええ……またこれ……)


 この学校、会話の途中で離脱するの流行ってんの?

 ※違います




 言いたいだけ言ってスタスタと教室から出ていった、赤い髪の男子生徒。


 彼は早乙女(さおとめ) (あゆむ)

 私と同じクラスの生徒だ。


 活発そうな外ハネショートヘアが特徴の、このゲームのパッケージのセンターを飾るメインキャラ。

 主人公の幼なじみで、小・中・高と同じ学校だったという設定らしい。


 特に何か用事がない限り、いつも下校は必ず歩君と一緒なのだ。お互い家が近いってのもあるけど。

 それぞれ自分の自転車を押しながら、分かれ道が来るまでダラダラ歩いて帰るのが日課になっていた。


 毎度こうやって、半ば強制的に誘われて一緒に帰ってるって感じ。


(全然嫌いじゃないし、いいんだけど……いつもいつもああやって強引なんだよなぁ)


 タイミングだっていつも彼のペースなもんだから、毎回慌てて準備してる……




 まぁ、そこが魅力だったりするんだけどね!


 普通なら腹立ったりするんだろうけど……なにせ、顔が良いからな!


 はっきりした目鼻立ちに整った顔バランス!

 痩せ過ぎずゴリゴリ過ぎず、ほどほどに引き締まった体!

 そして、隣に立った時のこの良い感じの身長差……!


 さっすがメインキャラ!

 当たり前のようにイケメン要素バッチリ揃えてくる〜!フゥ〜!


 さっきみたいに露骨に嫉妬したり、ちょくちょく彼氏面してきたりとかして、ちょっとめんどくさ……じゃなかった、愛が重めだけど……そこもまた良し!


 我々女子の溺愛されたい願望を、しっかりバッチリ叶えてくれるのだ……!


 ……とかなんとか脳内で若干暴走しつつも、支度を済ませて教室を後にする。


(あ。ついでにトイレ寄ってこ……)







「……遅い」


 下駄箱へ向かうと、むすっとした顔の歩君が腕を組んで立っていた。


「ごめんごめん、ちょっとトイレ寄ってて」

「だと思った」


 流石幼なじみ、察しがよろしいようで。




 他愛もないお喋りしながら、彼の隣に並んでゆっくり歩く。


 ……といっても、喋るのはほぼ私なんだけど。


「……でさ〜、テレビでさ……」

「……」

「早乙女君?聞いてる?」


 急に黙り込んだ彼。

 静かな空間にチチチチ……と自転車の車輪の音が響く。


「……」

「……」


 心当たりないし、何か怒ってる訳じゃなさそうなんだけど……


「早乙女君?えっと……」

「……」

「な、何かあった?」

「……」

「……」


 無視かい!


 もういい、君が黙るなら私もだ!

 もうこうなったら、私も……昔買った君の薄い本の内容思い出してニマニマしながら、無言で隣を歩いてやろう。そうしてやろう。

 え?ああもちろん、R18だよ?


 と言っても、本人に対してなんの効果もないけどな!

 私がただのやばい奴になるだけだけどな!




「……なぁ」

「うぇっ?!」


 なんの前触れもなく唐突に口を開くもんだから、思わず変な声が出てしまった。


(ちょ、ちょっと待っ、待って……!)


 わ〜ん!よりによって今!

 ちょうど今えっちなシーンが始まったばっかりなのに〜!(妄想)


 ちょっと妄想(これ)一旦しまうから、ちょっと待って。

 今、ベッドのシーツ必死に握りしめてる君の映像を一旦脳にしまってるところだから……待って、あと数秒待って……


「どうかした?」

「あ、いや……なんでもない!ど、どど、どうぞ!」

「あのさ……」


(な、なんだなんだ?急にかしこまっちゃって……)


「お前さ、俺の事……どう思ってる?」

「へっ?!」




 おおっとぉ!この切り出し方は……!


 アレか?まさか、アレなのか?

 (こく)(はく)かい?タイミング早くない?


(いや、いやいやいや!まさか!流石にまだだよね、好感度カンストは……)


 焦る内心を誤魔化し、冷静を装う。


「え、何?急にどうしたの?」

「いや、なんとなく」


 う〜む。どうすっかな。

 彼は昔からの仲だと思ってんだろうけど……私にとっちゃまだまだ始まったばかり、ぶっちゃけ彼との記憶はまだ数日分しかない。


 かといって、そのまま伝える訳にはいかないし。蔑ろにしたらきっと機嫌損ねるだろうし。

 それに……この彼が『迷い人』である可能性がゼロじゃない以上、そんな適当には扱えないし。


(ここはなんて答えとくべきか……う〜ん)



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