15-1-1.メインイベントは夜から始まる
修学旅行は夜になってからが本番。
ふと目覚めたら、見知らぬ部屋にいた。
和室で、真ん中に四角いテーブルと座布団がいくつか置いてあって、テレビも棚もあって。
でも、ごちゃごちゃとしたものがないというか……生活臭のようなものが一切ない空間。
少なくともここが人が住んでいる家ではないのは、雰囲気で分かった。
(……って事は、なんかのお店?)
「七崎さん!ほら早く!」
「へ?!」
な、なんだなんだ?なんだかめちゃめちゃ急かされてるな……?
「何ぼーっとしてんの、早く早く!先生来ちゃうよ!」
この声、聞き覚えがある……名前は分かんないけど、多分同じクラスの女子の誰か。
「『先生来ちゃう』?」
「も〜とぼけないでよ!隣の部屋に遊びに行くって話したじゃん、さっき!」
先生来ちゃう、隣の部屋に遊びに行く……そしてこの見知らぬ和室……
(あっ!もしかしてこれ……修学旅行?)
きっとそうだ。この感じ、そうだ。
落ち着いて周りを見てみると……
主人公の友達って設定のいつも一緒にいる子と、さっきのリーダーっぽい雰囲気のモブの子、そしてまたもう一人モブ子の……四人で一部屋らしかった。
(なるほどなるほど……そっか修学旅行かぁ)
そういや、このくらいの時期のイベントだったっけ。
確か、どこか観光地行って二泊三日するっていうシナリオだったような……
場所については特にどこだか明言はしてないけど、一応モチーフは京都なんだとか。
確か、背景スチルにも金閣寺っぽい建物が描かれてた気もする。
「何ぼーっとしてんの!ほら早くっ!」
「え?ああ、ごめんごめん!今行く!」
当たり前のようにスパーン!と隣の部屋の襖をぶち開け、ドカドカ乗り込んでいく女子三人……とワンテンポ遅れて着いてく私。
「おじゃま〜!」「うわ、部屋汚っ!」「しくった!お菓子買ってくりゃよかった〜!」
「え、え〜っと……おじゃましま〜す……」
「うおわっ?!」「な、何?!」「わあっ?!」「えっ?!」
なんと、そこは男子の部屋だった。
しかもその驚きようからして、どうやらアポ無し突撃だったらしい。すごい勇気。
「え、何よ!同じ班のメンバーじゃない、来ちゃ悪い?!」
いや、普通に悪いと思う。うん。
「いや……いいけど」
(や、優しい……!)
いきなり押しかけられて、これである。良い子や……
うちのクラスは、結構みんなこんな感じなのよね。
気の強い女子と控えめな男子というはっきりした構成で……全然違うタイプ同士、なんだかんだうまくバランスを取れているらしい。
ちなみに、女子の短髪率と男子の眼鏡率が高い。性格も見たまんままさにそんな感じ。
まぁ、どっちも我が強いと崩壊しちゃうもんね。
良い組み合わせって事なのかも。
で、話を戻すと……この雰囲気から推測するに、どうやら私含めて男四女四の八人で一つの班になっているらしい。
「……で?何しに来たの?」
お、聞き覚えのあるちょっとカッコつけた声。
振り向くまでもなく、これだけでもう分かった。
(うげ、歩君じゃん!)
先生が来てないか外を確認するフリをして、リダ子(今勝手に命名)の背中に慌てて隠れる。
あだ名センスゼロなのは許して……
『リ』ーダー『モ』ブだからリモ子にするか迷ってたのよ……
「何って……今日は見学ばっかで全然疲れてないから、眠くなるまで遊んでようと思って」
「へぇ……だって、どうする?」
歩君が他の男子に話を振ると、全員が無言で頷いた。
ほんとに大人しいのね、ここのクラスのは。
(あ、歩君以外全員眼鏡だ……)
「賛成ってことね……じゃあみんな、何がいい?」
「あ、」
(あ!)
げげ、目が合った!や、やべ〜!
何がいい?の声と同時に女子側に体ごと振り向いたせいで、歩君の視界にバッチリ入ってしまった。
やばい。バレたぞ、私の存在。
「ん?どうかした、早乙女君?」
「いや……なんでもない」
だけど、目の前の子との会話を止めてまで、無理矢理こっちに来ようとはしなかった。
相手は異性だし周りに何人かいる前だし、一応そういうの気にしてるんだろうか。
(とりあえずセーフ……!)
「一応私、トランプ持ってきたけど……他の案ある人〜?」
歩君の視線が刺さる刺さる。
(ちょっと!前向きなさいってば!)
リダ子達と会話しつつも、意識は完全にこっちに釘付けらしかった。
「はい、は〜い!」
はい円楽さん早かった。
……ってこれ、挙手制なのね?
「はい、ユカどうぞ!」
モブ女子の名前は『ユカ』っていうらしい。へ〜。
「王様ゲーム、どう?」
「あっ、それ私もやりた〜い!」「私も〜!」
女子二人もノリノリだ。
他の男子達はと見回すと……変わらず無言のままだけど、異議はなさそうな感じ。
「じゃ、じゃあ……私も〜……」
じゃあ……私もそんなに嫌じゃないし、みんなに合わせて賛成で。
右に倣えの精神。ザ・日本人。
賛成多数、これで決まったかと思いきや……
「え〜、くじどうすんだよ?」
あまり乗り気じゃ無い人が一人。
「そんなの適当でいいじゃん」とリダ子が言うも、渋い表情。
「割り箸なんてねぇぞ、ここ」
「それなら私メモ用紙持ってるからいいよ、赤ペンだってあるし」
「後でゴミになるじゃん」
彼も彼でなかなか食い下がる。
「え、そこ?それを言うなら、割り箸だって結局捨てるじゃない」
「だけど……もっと他にあんだろ?トランプとか」
やたらと屁理屈つけて嫌がるから、その場のみんなの頭上にはてなマークついちゃってる……
(あ〜……)
他の人達には申し訳ないけど、その理由はなんとなく分かってしまった。
多分……いや、この場合は絶対……私の事だ。
王様ゲームといえば……定番は告白ネタとキスネタ。
普通に遊ぶ分には面白いけど、今の歩君としてはどっちも絶対に避けたいシチュエーションのはず。
モブ同士なら全然いいんだけど……問題はそれに私が絡んだ時。
どちらかの番号に当てはまった時に、『何番が何番に告白して!』だとか、『何番が何番にキスしま〜す!』なんて言われちゃ……どっかの誰かさんが憤死してしまう……
(ここは止めといた方が良さそうね……)