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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
88/166

14-4ー2.大変だ!いっちーは中枢部をやられた!

ほあぁぁぁぁぁ!!!(CV 玄田哲章)


※わざとw多用してます。苦手な方はご注意ください。

 


「七崎、大丈夫か?」


 はぐれたことに彼が気づいたのは、そのだいぶ後だった。

 なんならもう、後数分で出口ってところ。


 途中でわざわざ振り向いたり、こっちの様子伺ったりしないのがなんとも初々しい。


 男子ってこう、目的に向かってストレートに進みがちじゃない?

 まぁ、もちろんそうじゃない人だってたくさんいるんだろうけど。


 ひたすら目的地に向かって、脇目も振らず最短ルートを真っ直ぐ進む……相手そっちのけで。

 初めての恋愛失敗あるあるだと思うんですけど、どうでしょう?特に男子。




「へーきへーき。そんなに背高いんだもん、流石に見失わないよ」

「そうかもしれないけど、でも……」

「慣れてるから大丈夫だって。ほら、だって私いつも(つう)き……」

「そんな慣れるほど混んだ所行かないだろ?通学だって自転車なんだし」


 あっぶな!通勤って言いそうになったよ今!


 いっちーが被せるようにツッコミ入れてくれたおかげで誤魔化せたけど!危ねぇ!


(自己暗示かけ直さなきゃ……ワタシハジョシコーセー……)




「だから……七崎」


 なんだい、急に改まって。


「あの、さ……」


 おお、相変わらずまつ毛長〜い。毎度のことながらついつい見ちゃう。


「は、はぐれないように……その……手、繋いでもいいか?」


(お!)


 ここでまさかの進展が。

 今ので秋水より一歩リードだ、彼はまだ隣にいるだけで繋いだことないから。


「うん」


 頬を染めながら恥ずかしそうに目を逸らすのも、なんともまぁ……絵になる。

 むしろこの美術館の最高の展示品は彼なのかもしれない。


 おずおずと、やや遠慮気味にゆっくり伸びてきた彼の手を握……うわ熱っ!


(ぶふぉっ!笑っちゃ可哀想だけど、でもこれ……ぶふっ!)


 赤面見た後の、この灼熱ハンドである。


 癖強っ。今までずっと地味だったから、挽回しにきたの?ってくらい今日は個性出してくる。


(いや、まぁ……気を許してくれたってことなのかもしれないけど)




「……」

「……」



 そして無言に。うん、知ってた!


 ちなみに今、骨ばった指でガシッと力一杯握られてて、地味に結構痛いんだけど……そこもまたご愛嬌ってことで。

 でも彼なりに気を遣って、さっきまでより歩くスピード落としてくれてるみたいで、ちょっと嬉しかったり。


(くぅ〜っ!初々しいぜっ!)


 慣れてないからこその、なんかズレてる感がなんともたまらない……







 そうやって手を繋いでいても、はぐれないってだけですごい人混みなのは変わらず。


 私の視界はずっと目の前の人の背中か頭。先なんて見えたもんじゃない。

 だから、道案内はいっちーにお任せすることにして、私はひたすら彼の進む方向に合わせて歩いていた。




「これで感想書けとか、ほんと無理なんだけど」


 人混みのざわつきの中、誰かの話し声が不意に耳に入ってきた。


 誰だろう?……といって見回しても、私の視界は目の前を歩くおじさんの背中しかないんだけども。


「な〜。感想文書けとか、くっそだりぃ」


 さっきの声にまた別の声が答える。


 高めで軽い声色からして若い男性……中学、いや高校生くらい?


「ほんとほんと。ちょっと寝てたってだけなのに、いちいちうるせぇんだよ」

「眠くなるほど授業がつまんないのがわりぃんだよ」


 ふ〜ん、なるほど……誰だか知らないけど、自己紹介ありがとう。

 つまり、授業中に寝ててペナルティ食らったのね君達?


(美術館の感想ってことは、寝てたのは美術の授業だなこりゃ)


「……あ、ってかさ〜聞いた?アイツの事」

「あ、あ〜。知ってる知ってるwまじウケんだけどw」


 む、こんなところで悪口大会か?悪口イクナイ!


「筋肉痛で学校休みとか……アホ過ぎでしょw」


 前言撤回。それはうん、アホだわ。間違いなくアホの子。

 誰だか知らないけど……擁護できないわ、ごめん。


「最近なんか、放課後にやってるらしいよ」

「え、何?ビリーズ◯ートキャンプ?」

「ちげぇよw」


(なっつ!)


 その単語、聞くの超久しぶり!なっつかし!

 噂じゃ、数年前に令和版も出てるらしいね!ビリーおじさんが元気そうで何より!


「あれでしょ!あの……」

「ワン、モア、」


「「セッ!」」(セッ!)


 心の中で便乗。分かる、超分かる。


「んっふwウケるw」




「七崎!危な……へぶっ!」


 いきなり繋いでいた手を強い力で引っ張られたもんだから、体のバランス崩して思わずいっちーにタックルをかます私。いっちーごめん。


「え、な……んぶふっ?!」


 で、そのまま何?って聞こうとして『な』と『に』の間の口の形のまま……今度はふっと突然視界が真っ暗に。


 どうやらそのままの勢いで倒れ込んでいって、いっちーの胸元にダイブしてしまったらしい。

 あっ、お巡りさん違います。これは不可抗力です。


(ちょっ、なになになに?!突然何……?!)




 何事かと思った次の瞬間、


「ビクトリー!!!」


(おわっ?!)


 元気な声と共に、肩のすぐ横スレスレを誰かの腕がギュン!と通っていった。


「ウケるw」

「やべ〜wやべ〜よw」


 さっきの話はまだ続いていたらしい。


(いやむしろ、さらに盛り上がってる……)


 そんなハイテンションで腕振り回した彼らも悪いっちゃ悪いけど、これは私の不注意でもある。


 彼らはもちろん、私まで……お互い話に夢中過ぎて、無意識のうちに随分と至近距離を歩いていたようだ。

 あのまま呑気に歩いてたら、思いっきり肩にアッパー食らっちゃうところだった。危ない危ない。




「いやぁ危なかったぁ。どうもありが……」


 ん?


「とう……」


 んんん?

 待てよ、今……この体制って……


「……」

「……」


 オゥ……ハグですね……




「あ、ありがと」


 返事はやっぱり無い。

 この至近距離だし、多分聞こえてるんだろうけど……頭が混乱してて次の行動を指示できてないようだ。


 パソコンでいうなら、あのクルクル回るやつが出るやつ。処理中です……


 言わずもがな、彼の顔はもちろん真っ赤。それも過去最高クラスの赤だ。

 いや、赤というかもはや肌の色を超えてしまっている。

 なんかもうこのままスパーン!と爆発しそうな、危険な色……


 みんな下がれ!早く!いっちーが爆発する……!

 ほあぁぁぁぁぁ!!!(幻聴)




「あ、えと、なんか……ごめん」

「……」

「いやその、違うの。すぐ離れるつもりだったんだけど……その……」

「……」

「そのほら、びっくりしちゃって動けなくて……」


 言い訳乙。


「い、いいから……その……さっさと離れてくれないか……?」

「そ、そうね……ごめんね」


 バッと効果音がつきそうなほどそそくさと離れ、今度は謎の距離を保って立つ二人。

 人混みの中で変に間を空けるもんだから、不意に他の人が入り込んできて、さらに気まずく。


(む、むむむ……)


「お、俺、ちょっと……トイレ行ってくる……」

「え、あっうん、いってらっしゃい」


 気まず過ぎてトイレに行かれてしまった。ほんとにごめん。


(まぁでも、そのおかげでちょっと気持ちが落ち着いてきたかも……って、あれ?)




 彼がスタスタと向かったその先。

 男と女で左右入り口分かれてるけど、今向かってるそっちは……


 あれ?あれれ〜?この感じ、いや〜な予感がするぞ?

 なんか右に向かってるような気がするぞ?


(いやいやいや!気のせいってか、むしろがっつり向かってるけど!)


 そっち女子トイレ……!お願い、気づいていっちー!




(右は駄目だ!右は駄目だ!右は駄目だ!)


 組み分け帽子かな?


(右は駄目!右は……ああっ!)


 はい、右〜!そっち女子トイレ〜!




 この後どうなったかはお察しの通り。

 ちょうど中から出てきたのが優しいおばちゃんで助かった。


 これがもし同い年とかだったら……うん……



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