14-4ー2.大変だ!いっちーは中枢部をやられた!
ほあぁぁぁぁぁ!!!(CV 玄田哲章)
※わざとw多用してます。苦手な方はご注意ください。
「七崎、大丈夫か?」
はぐれたことに彼が気づいたのは、そのだいぶ後だった。
なんならもう、後数分で出口ってところ。
途中でわざわざ振り向いたり、こっちの様子伺ったりしないのがなんとも初々しい。
男子ってこう、目的に向かってストレートに進みがちじゃない?
まぁ、もちろんそうじゃない人だってたくさんいるんだろうけど。
ひたすら目的地に向かって、脇目も振らず最短ルートを真っ直ぐ進む……相手そっちのけで。
初めての恋愛失敗あるあるだと思うんですけど、どうでしょう?特に男子。
「へーきへーき。そんなに背高いんだもん、流石に見失わないよ」
「そうかもしれないけど、でも……」
「慣れてるから大丈夫だって。ほら、だって私いつも通き……」
「そんな慣れるほど混んだ所行かないだろ?通学だって自転車なんだし」
あっぶな!通勤って言いそうになったよ今!
いっちーが被せるようにツッコミ入れてくれたおかげで誤魔化せたけど!危ねぇ!
(自己暗示かけ直さなきゃ……ワタシハジョシコーセー……)
「だから……七崎」
なんだい、急に改まって。
「あの、さ……」
おお、相変わらずまつ毛長〜い。毎度のことながらついつい見ちゃう。
「は、はぐれないように……その……手、繋いでもいいか?」
(お!)
ここでまさかの進展が。
今ので秋水より一歩リードだ、彼はまだ隣にいるだけで繋いだことないから。
「うん」
頬を染めながら恥ずかしそうに目を逸らすのも、なんともまぁ……絵になる。
むしろこの美術館の最高の展示品は彼なのかもしれない。
おずおずと、やや遠慮気味にゆっくり伸びてきた彼の手を握……うわ熱っ!
(ぶふぉっ!笑っちゃ可哀想だけど、でもこれ……ぶふっ!)
赤面見た後の、この灼熱ハンドである。
癖強っ。今までずっと地味だったから、挽回しにきたの?ってくらい今日は個性出してくる。
(いや、まぁ……気を許してくれたってことなのかもしれないけど)
「……」
「……」
そして無言に。うん、知ってた!
ちなみに今、骨ばった指でガシッと力一杯握られてて、地味に結構痛いんだけど……そこもまたご愛嬌ってことで。
でも彼なりに気を遣って、さっきまでより歩くスピード落としてくれてるみたいで、ちょっと嬉しかったり。
(くぅ〜っ!初々しいぜっ!)
慣れてないからこその、なんかズレてる感がなんともたまらない……
そうやって手を繋いでいても、はぐれないってだけですごい人混みなのは変わらず。
私の視界はずっと目の前の人の背中か頭。先なんて見えたもんじゃない。
だから、道案内はいっちーにお任せすることにして、私はひたすら彼の進む方向に合わせて歩いていた。
「これで感想書けとか、ほんと無理なんだけど」
人混みのざわつきの中、誰かの話し声が不意に耳に入ってきた。
誰だろう?……といって見回しても、私の視界は目の前を歩くおじさんの背中しかないんだけども。
「な〜。感想文書けとか、くっそだりぃ」
さっきの声にまた別の声が答える。
高めで軽い声色からして若い男性……中学、いや高校生くらい?
「ほんとほんと。ちょっと寝てたってだけなのに、いちいちうるせぇんだよ」
「眠くなるほど授業がつまんないのがわりぃんだよ」
ふ〜ん、なるほど……誰だか知らないけど、自己紹介ありがとう。
つまり、授業中に寝ててペナルティ食らったのね君達?
(美術館の感想ってことは、寝てたのは美術の授業だなこりゃ)
「……あ、ってかさ〜聞いた?アイツの事」
「あ、あ〜。知ってる知ってるwまじウケんだけどw」
む、こんなところで悪口大会か?悪口イクナイ!
「筋肉痛で学校休みとか……アホ過ぎでしょw」
前言撤回。それはうん、アホだわ。間違いなくアホの子。
誰だか知らないけど……擁護できないわ、ごめん。
「最近なんか、放課後にやってるらしいよ」
「え、何?ビリーズ◯ートキャンプ?」
「ちげぇよw」
(なっつ!)
その単語、聞くの超久しぶり!なっつかし!
噂じゃ、数年前に令和版も出てるらしいね!ビリーおじさんが元気そうで何より!
「あれでしょ!あの……」
「ワン、モア、」
「「セッ!」」(セッ!)
心の中で便乗。分かる、超分かる。
「んっふwウケるw」
「七崎!危な……へぶっ!」
いきなり繋いでいた手を強い力で引っ張られたもんだから、体のバランス崩して思わずいっちーにタックルをかます私。いっちーごめん。
「え、な……んぶふっ?!」
で、そのまま何?って聞こうとして『な』と『に』の間の口の形のまま……今度はふっと突然視界が真っ暗に。
どうやらそのままの勢いで倒れ込んでいって、いっちーの胸元にダイブしてしまったらしい。
あっ、お巡りさん違います。これは不可抗力です。
(ちょっ、なになになに?!突然何……?!)
何事かと思った次の瞬間、
「ビクトリー!!!」
(おわっ?!)
元気な声と共に、肩のすぐ横スレスレを誰かの腕がギュン!と通っていった。
「ウケるw」
「やべ〜wやべ〜よw」
さっきの話はまだ続いていたらしい。
(いやむしろ、さらに盛り上がってる……)
そんなハイテンションで腕振り回した彼らも悪いっちゃ悪いけど、これは私の不注意でもある。
彼らはもちろん、私まで……お互い話に夢中過ぎて、無意識のうちに随分と至近距離を歩いていたようだ。
あのまま呑気に歩いてたら、思いっきり肩にアッパー食らっちゃうところだった。危ない危ない。
「いやぁ危なかったぁ。どうもありが……」
ん?
「とう……」
んんん?
待てよ、今……この体制って……
「……」
「……」
オゥ……ハグですね……
「あ、ありがと」
返事はやっぱり無い。
この至近距離だし、多分聞こえてるんだろうけど……頭が混乱してて次の行動を指示できてないようだ。
パソコンでいうなら、あのクルクル回るやつが出るやつ。処理中です……
言わずもがな、彼の顔はもちろん真っ赤。それも過去最高クラスの赤だ。
いや、赤というかもはや肌の色を超えてしまっている。
なんかもうこのままスパーン!と爆発しそうな、危険な色……
みんな下がれ!早く!いっちーが爆発する……!
ほあぁぁぁぁぁ!!!(幻聴)
「あ、えと、なんか……ごめん」
「……」
「いやその、違うの。すぐ離れるつもりだったんだけど……その……」
「……」
「そのほら、びっくりしちゃって動けなくて……」
言い訳乙。
「い、いいから……その……さっさと離れてくれないか……?」
「そ、そうね……ごめんね」
バッと効果音がつきそうなほどそそくさと離れ、今度は謎の距離を保って立つ二人。
人混みの中で変に間を空けるもんだから、不意に他の人が入り込んできて、さらに気まずく。
(む、むむむ……)
「お、俺、ちょっと……トイレ行ってくる……」
「え、あっうん、いってらっしゃい」
気まず過ぎてトイレに行かれてしまった。ほんとにごめん。
(まぁでも、そのおかげでちょっと気持ちが落ち着いてきたかも……って、あれ?)
彼がスタスタと向かったその先。
男と女で左右入り口分かれてるけど、今向かってるそっちは……
あれ?あれれ〜?この感じ、いや〜な予感がするぞ?
なんか右に向かってるような気がするぞ?
(いやいやいや!気のせいってか、むしろがっつり向かってるけど!)
そっち女子トイレ……!お願い、気づいていっちー!
(右は駄目だ!右は駄目だ!右は駄目だ!)
組み分け帽子かな?
(右は駄目!右は……ああっ!)
はい、右〜!そっち女子トイレ〜!
この後どうなったかはお察しの通り。
ちょうど中から出てきたのが優しいおばちゃんで助かった。
これがもし同い年とかだったら……うん……