14-4ー1.背が高い人って目印にされがち
ラッシュの最後はいっちーと美術館に行った。
一番デートらしいデートだった……んだけど、他が癖強過ぎてデート四連チャンの中で一番インパクト薄いっていう……
いっちーごめん。
きっと彼なりに色々考えてくれたんだろうけど、もう早速記憶が消えかけてる。ほんとごめん。
いや、彼にしてはインパクトある方だったんだけど……ごめん、やっぱ思い出せねぇ!
どんなの見たっけ?ってか何したっけ?う〜ん……?
なんかいっちーの手が超高温だったってことと、彼が爆発しそうになったことしか覚えてない。どんなだよ。
(なんだっけな……え〜っと……)
広い美術館の中を二人で色々と見て回ったんだけど、静かな館内じゃ全然お喋りできなかったから……デートらしい事が始まったのは、そのしばらく後……全て見終わって、カフェで休憩していた時だった。
「いやぁ、良かった〜」
「ああ、なかなか悪くなかったな」
ゲーム内だし、なんの画家だか分からないような適当な絵が展示されてたけど、その雰囲気が良くて……デートばっかりで疲れてた私にはちょうど良い休憩タイムだった。
いつもと違って余裕たっぷりだったけど……時間がカットされてないあたり、一応これでもイベントではあるらしかった。
(ここんとこずっとバタバタだったから、このタイミングで休めるのはありがたい……)
私が楽しんでるか気になるのか、たまに横目でチラチラ見てくるいっちーもまた可愛かったし。
「……?なんだ?」
「ううん、なんでもない」
ほら、またこっち向いた。私の視線に気づいて。
ちょうど今視線に気づいた風を出してるけど……振り向くタイミングが偶然にしては早いのが、またなんとも可愛い。
「……ん?」
ほら、また。
「ふふっ、なぁに?」
「何って、今……」
「え?店員さんがコーヒー淹れてるの見てただけだけど……?」
お互い対面で座ってるんだけど……私の席からだと、ちょうどいっちーの肩越しに店員さんとか厨房が見えていて。
「っ……!そ、そうか……」
(お〜い、誤魔化しきれてないぞ〜!)
にやけそうな口元をどうにか押さえコーヒーを啜ると、彼もまたほぼ同時にカップに口をつける。
お、もしかしてこれミラーリング?だとしたら尚更可愛い。
「……!やっぱり今、こっち見ただろう?」
「うん、見てる」
「えっ……!」
ほ〜。人の顔ってさ、赤くなる時真ん中からなんだな。
真ん中からぽぽぽ〜っといってある程度で顔の方は止まって、今度はちょっと遅れてじわじわと耳が染まっていく……なるほど。
「なるほど、なるほどな」
「なっ、ななな、なんっ、なんの事だ?!」
肌が白いから余計にはっきりと見えるのよね。
透明感のある肌ってやつ?うらやまし〜。
「あっごめんごめん、面白いからつい……」
「なっ?!今の、からかったのか?!」
聞き覚えのある展開。
唯の癖(?)が、とうとう私にもうつってしまったようだ。
(でも確かに、やってみると面白いかも)
「そういやさ、市ノ川君って……絵、好きなの?」
「ん?」
「いや、美術館に行こうって誘ってくれたから……てっきり好きなのかと思って」
「まぁ、嫌いでは無いが……」
「好きでもない、と」
「七崎は?」
「私はまぁまぁ好きだよ」
「まぁまぁ、か」
「うん」
絵画は見るのも描くのもまぁまぁ好き。
すごい好き!って言うほどじゃないけど、こういう美術館行ったりするのは割と好きな方。
「あれ……おかしいな。確か絵を描くのが趣味って言ってたはずじゃ……?」
「え、言ったっけそんな事」
「……?ほら、前に漫画とかのキャラクターを描くのが好きとか言ってたじゃないか。忘れたのか?」
知らんがな!!!
おいシステムぅ!ま〜た勝手に話進めて!
絵(二次創作)を描くのが趣味。まぁそれはあながち嘘って訳でもないけど……
(でも、いつ言ったんだそんなこと!)
「ワー、オボエテテクレタンダーウレシー。アリガトー」
「ん?混んできた……そろそろ、飲みおわったし出るか」
「そうだね、撤収しようか」
美術館の中にあるカフェだったから、店の外は大行列だった。
列がうねうねと何重にも折れ曲がって最後尾がはるか彼方に。
私といっちーは少し早めに来たからまだ空いてたけど……ちょっとでもタイミング遅れてたら、危うくこの地獄に巻き込まれるところだった。
そろそろおやつどきだし、歩き疲れてちょっと休憩……なんて、考える事はみんな同じらしい。デスヨネー。
(にしても!すごい人だかりだな、こりゃ……!)
行列もすごいけど、店の前もすごかった。人、人、そして人……なんじゃこりゃ。
人混みをかき分けてどうにか進んでいく。
(う、いっちーが思ったより早い……!)
足長いから、短足の私とはまるで一歩の長さが全然違って……歩けど歩けど、差が広がっていくばかり。
(ま、待って〜……!)
肝心の彼はというと、真っ直ぐ前を向いてスタスタ歩いていくばかり。
緊張してるってのと女慣れしていないのとで、あれよあれよという間に置いてけぼりに。
(ええっと……あれ、いっちーどこ行った?)
キョロキョロ。キョロキョロキョロ。
(……あ、いたわ)
探すまでもなくあっさり発見。背の高さがこんなところで大活躍(?)。
大勢いる中で彼だけ頭一個分ぴょこんと出てて、超分かりやすい。
追いつくのは諦めて、目印に向かって自分なりのペースで追いかけることにした。
どうせいつか追いつくだろうし。
「ママ〜!どこ〜っ!」
「もう、勝手に行って!しょうがないわね!背の高い人いるでしょ、そこ来て!」
「あ、もしもし〜?俺〜?今カフェの前。え、どこって……ほら、でかい奴立ってんじゃん?うん、その近く」
「もしもし、今どこ?えっ近くにいる?ほんと?あ〜、じゃあとりあえずあのでかい人んとこ集まろっか。うん、オッケー」
(め、目印にされてる……!)