14-3ー2.もうこれ芸人目指すしかなくない?
「ところでさ……」
彼の表情が少し硬くなった。
「聞いたんだけど……静音ちゃん、いつも誰かと一緒に帰ってるんだって?」
あっ。
やっぱり来たか、その質問……!
そりゃあ、そろそろ来そうな気はしてたけど……でも、このタイミングでそれ聞いちゃう?
この和気藹々ムードでそれ聞いちゃう?
「そ、そう、だけど……?」
うまく誤魔化しちゃいたいくらいだけど、どこかで誰かに見られてるんだとすると、適当に嘘ついて逃げることもできず……ぐぬぬ。
「それって……早乙女と?」
あっ、勘づいてらっしゃる……!
「あ、うん……」
「ふ〜ん、そうなんだ」
明るいままの声に反して、その顔に深く影がかかっていく。
「……」
「……」
またアイツかって思ってるんだろう。きっと。
花火大会の時も一緒にいるのを見られてる訳だし、おそらく彼の頭の中ではもうほぼ確信に近いところまで来てるはず。
少なくとも良くは思われてない……いや、むしろちょっと敵視されてるような感じまである。
(ただ、それを言うならほんとはその歩君以外にもまだ三人いる訳なんだけど……)
流石にそれは言えないなぁ。
そう考えると、四人の存在に気づいてる歩君って……すごいな。あの花火大会の帰りの逃げっぷり、多分気づいててやってたんだろうし。
攻略キャラの中で彼だけだと思う、全員見えてるの。
すごいっていうか重いっていうか。流石はヘビー級男子だ。
圧倒的サーチ力……どこで知ったのかは怖くて聞けないけど。
「そっか……俺バイトあるからさ、放課後は会えないんだよなぁ」
なんて返事したらいいか分からず……床と睨めっこ。
「……」
「……」
もちろん、床君(?)は何も言ってくれない。
「……」
「……」
ツルツルの床には所々いくつも凹み傷がついていた。
ここ、初めてきたけど……そこそこ年季が入ってそう。
「……まぁ、でもいいや」
急に声がして、ハッと彼の方を見上げる。
そこには相変わらずのふにゃっとした笑顔があった。
「これは……そこまで気が回らなかった俺の負けだな」
「へ?」
負けとは。
「そこは仕方ないから、譲ってあげようかな」
ん、ん〜?なんか急展開だな?
ちょっと待て、君は一体何を譲る気だい?
「え?えっ、え?」
「んふふ〜」
どういう意味?と視線で問いかけるも、ふにゃふにゃと笑うばかりで答えが来ない。
「うん決めた、そうしよう」
「え?何が?何が?」
「んふふふ」
「ちょっ、だから何を……」
「彼も彼で頑張ってるんだし、ご褒美ご褒美⭐︎」
お、おう。
なんか超意味深だけど、今はこれ以上聞けそうになかった。
「相手の出方は分かったから、俺はそこ以外で頑張ろっと⭐︎」
なんか分からないけど、彼なりに今後の方向性が決まったらしい。
よく分からないのが地味に怖い。
「そんじゃっ、休憩できた事だし……次の勝負だ!」
あっ、そっかまだあったっけ。
椅子に座っちゃって気分が完全に帰るモードに……
「次はガーター禁止ね!本気でやってよ!」
「うん、今度こそ!」
狙いを定めて……そぉいっ!
ゴロゴロゴロゴロ〜。
「いけ〜っ!」
ゴロゴロゴロ……すぽん!
「「あっ」」
華麗にガーターにイン。
「うそ〜ん……!」
案の定、横には腹抱えて爆笑する男が……こら、指差すな!
(もうこれ、芸人目指そうかな……)