14-2ー3.僕なりのやり方を探すんだ
「あれから僕、考えたんだ。この先どうピアノと向き合っていくか」
「うん」
「で……考えて、やってみた結果がこのザマ。ビリから二番目だ」
「わ〜、大失敗だね」
「うん、超失敗」
「ん?待って……でもどうして?だってほら、常に上位だったはずじゃ……?」
元々それなりに上手い訳でしょ?そんなやり方変えたくらいで変わるもん?
「一番の原因は課題曲を好き勝手アレンジして弾いたから、かな」
「へ〜。コンクールって、曲のアレンジ禁止なんだ?」
「いや、アレンジ自体はOK。だけど……僕の場合、単純にそのための技量が足りてなかった。まだそこまでのレベルじゃなかったのにそんな事やったから、評価は散々……見事に惨敗だった」
あちゃ〜。挑戦するには早すぎたか〜。
「そっか……残念だったね」
「ううん、残念なんかじゃない。いいんだこれで」
「えっ、そう?」
「うん。楽しかったし」
「え〜そういうもん?後悔してないの?だってほら、今回大失敗した訳じゃん?」
「失敗というより、また大きな転機が来たってだけだよ。やるだけやったんだし、むしろ満足してる」
おおぅ!超前向き……!
あの情緒不安定マンはどこへやら。
「すごいね!ポジティブシンキング!」
「ああ……これもまた、君のおかげだ」
う〜ん?どゆこと?
「あれから考え方がまるっきり変わったんだ」
「って言うと?」
「コンクールが終わった後、周りからボロクソ言われたよ。何してんだお前!とか、冷やかしか!とかって……」
「確かにあれはひどかったし、そうやって色々言われても反論はできないけど……でも、だからってそれが全てじゃないんだよな」
「どんなにひどい演奏だったとしても……どんなに低い評価でも……あの時の演奏がまずかったってだけで、僕が演奏した事自体が駄目って訳じゃない」
「家の人達とか君とか、僕のピアノを楽しんでた人がいたって事実は変わらない。全てが全て、何も世界中の全員が僕の演奏を嫌ってる訳じゃないんだ……でしょ?」
えっ、私?!
「お?おっ、おう……せやな……?」
突然振られるとは思ってなくて、思わず素が出ちゃったけど……彼はそんなの気にしてないようだった。
「かつての僕は……人から少し指摘されただけで、まるで僕の存在そのものを批判されてるような気になってた。少しでも不完全だと、駄目人間って言われてる気分になった」
「……」
「ピアノもそうだけど、学校の授業も……僕の運動音痴もそういう風に感じていた」
なるほど、だからあれほど気にしてたのね……
「でも、それは間違いだ。僕の演奏を嫌う人もいるけど、一方で好きだって人もいる……君があの時、僕の演奏が好きって言ってくれたおかげでそれが分かった」
「だから……それならもっと、僕のことを好きになってくれた人を喜ばせたいんだ。それが結局は僕自身の喜びにも繋がるから」
「姉とか両親みたいに実力つけて有名にならなきゃいけない……前はそんな風に思い込んでた。でも、全然追いつけなくて……自分の事が嫌いで嫌いで仕方なかった」
「自分で自分を責めて、追い込んでた。世界中の全ての人が自分を嫌ってるような気がして、どこにも居場所がないような気がして、つらかった……」
「けど、それはもうやめだ。残念だけど……多分、僕は他の家族のレベルには追いつけない。でも、僕は僕で精一杯……自分のやりたいことをやろうと思う」
おおお……!めっちゃ大人!
自分で考えるの、大事。でもそれ以上に、それをさらに行動に移すのは……なかなかできたもんじゃないぞ。
いやぁ、お見事!あっぱれ!
私のあの適当な発言から、まさかこんなに話が広がってくとは思ってなかったよ。
「……まぁでも、」
「でも?」
「めちゃくちゃ怒られたけどね。先生もそうだし、親からも」
「そりゃ〜、そうだろうね」
だって、今まで真面目にきっちりルール通りやってたんだろうから……
変貌っぷりに相当びっくりしただろうし、そらもう激おこだろうよ……
「うん。だけど……僕は変えない。このままいくよ」
「親御さんは?そんなの駄目って言うんじゃない?」
「う〜ん……しばらく揉めたし、今も完全に許してもらえてるって訳じゃないけど……なんか諦めてくれたみたい。まぁ幸い、上に優秀な人がいるからね。もし僕が駄目でも、まだなんとかなるんだろ」
ああ、確か上にお姉さんいるんだもんね。それもこの彼が落ち込んでハイパー自虐モードに入るくらいの、超優秀な。
家の名前というかネームバリュー的なやつは、とりあえずそれで保たれると。
(いまいち凡人にはよく分からない世界だけど……)
「だから……もうしばらくは僕なりのやり方を模索するつもり。遊んでないで、本気でやりたい事を探さないとだ」
「おお、頑張れ!」
「本当はもっと君とこうやって出かけたいけど……今は練習が先、ピアノ部屋で缶詰だ」
「そっか〜」
そっか。真面目だね、秋水は。
やりたい事探しか〜いいねぇ、青春だねぇ。
うんうん、そっかそっか。
そっかそっか。そっ、か……?
(うん?うんん?)
いや!いやいやいや!待て待て!
君、乙女ゲームのキャラでしょ?!恋愛してなんぼのキャラでしょ?!
デートよりピアノ優先とか、それあり?!
イベント大丈夫なの?!いくつか今のでフラグ消滅してない?!
お、お〜い!爺さ〜ん!
今現在進行形でシナリオ崩壊してますけど〜?!お〜いっ!
(歩君の時は私がピンチだった訳だけど……今度これ、神様の方がピンチなんじゃ?!)
お〜いっ!って何度も心の中で呼んだけど、結局返事はなく。
ほっといていいもんなのか不安だけど、とりあえず大丈夫ってことにしとく。
言うだけ言ったからね、私!
「そうやっていつか、僕自身が満足いくレベルまで来たら……」
突然彼は真っ直ぐにこちらを向き直した。
なんだか神妙な顔つきに、私まで緊張してくる。
「そうなったら、真っ先に呼ぶから……来てよね?」
「えっ!ピアノとか、よく分かんないけど……いいの?」
「いいんだ。変わった僕を……まず最初に、他の誰よりも先に見てもらいたいから」
「え……」
「まずは、好きな人を喜ばせたいから……」
「す、好きな人って……!」
デレ期か?!デレ期到来かっ?!
「は?何言ってんの?『演奏』を好きな人だよ」
(デスヨネー)
なんかこんな感じの流れ、前もあったな?
「さっき言ったばっかりじゃん、何勘違いしてんの?」
(おおぅ、鋭い視線が刺さるぜ……!)
いやぁ〜、やっといつもの彼のテンションが戻ってまいりました。
冷え冷えの空気もセットで。
「だって、好きな人なんて言うからてっきり……」
「違うって言ってんだろ!何度も言うな!」
好きな人って私が言うたび、赤くなっていく彼の頬。
それは怒りなのか、それとも……
「えっ、でも好きな人って……」
「うるさい馬鹿っ!」
「ば、馬鹿ぁ?!」
「急に変な事言うから!」
「いやこれ、言い出したのそっちなんじゃ……」
「うるさいっ!」
ええ〜……




