14-2ー1.咲いたコスモス、コスモス咲いた
サイン、コサイン、Vサイーン⭐︎
歩君とのイベント以外は割とぼんやりしている。
いや、全然何もなかった訳じゃないけど……あの気まづいというか緊迫した空気と比べると、そんな大したことなかったというか。
ええっと……
ラッシュ2日目は、誰だったっけ……秋水、だったかな?
えっと……確か、近所の公園でコスモスが見頃だって事で見に行ったんだった。
(そうだ、そうそう……あれは……)
ピンクにオレンジ、そして黄色……色とりどりのコスモスが辺り一面に咲き乱れていて。
花びらがひらひら舞う中を、二人でのんびり散歩してたんだった……いつもとはちょっと違う雰囲気で内心ちょっとドキドキしながら。
といっても、肝心の彼は案の定ずっと無言。
歩いてるおかげであの面接よりは全然マシだけど、やっぱりなんかちょっと気まずい……
「……」
「……」
今日も彼は、前回同様適当なシャツにジャケット。
これが彼の基本スタイルらしい……システムのせいなのか本人の好みなのかは不明。
(でも、前回夏なのにそのジャケット着てたところからすると……やっぱりシステム?他の服設定されてないのかな?)
そう思うと、ちょっとかわいそうな気も。
なんか適当に半袖Tシャツプレゼントしたら着てくれるかな?
夏はもう終わっちゃったから、来年用で……
なんて、そんな事を考えていたら……不意に隣を歩く彼の足がピタッと止まった。
「……?」
振り向くと、そこにはいつもの不機嫌フェイス。
む、これは……
疲れた?飽きた?それとも、なんか嫌な事思い出した?
「あ、えっと……何かあった?」
「……あのさ」
「うん」
「……君に、言わなきゃいけない事があって」
お、おう。急やな。
「言わなきゃいけない事?」
「うん。実は先週、ピアノの全国コンクールがあってさ……」
コンクール、と言ってもこの世界には二種類しかない。地方コンクールと全国コンクールだ。
現実なら、もっと他にも市のコンクールとかそういった細かい区分があるんだろうけど……やっぱりここはゲーム、その辺はかなりざっくりしていた。
(こっちとしては分かりやすくてありがたいけど!)
「あっ、話したい事ってもしかして……!」
優勝かっ?!優勝なのかっ?!
わざわざこんなもったいぶって言うくらいだし!
顔を輝かせて食い気味に聞く私に、彼はふっと顔を背ける。
(優勝……じゃない……?)
「……」
「あ、あ〜……」
黙ったまま強張っていく彼の表情を見て、ふといつぞやのスーパー自虐モードを思い出した。
そうだったそうだった……思い出した、あの時『ピアノ上手く弾くなんて、誰でもできますしおすし(超意訳)』なんっつって、いじけちゃったんだった。
(あっ……て事はこの話題、地雷……)
選択肢によっては、彼のコンプレックスを刺激しかねない……
あと逆に、この前みたいにうっかり間違ってアクセル全開になる可能性も……
(あっしまった。これ、地味にめんどいや〜つ……)
「あ〜……でもほら!次も同じ人が優勝するとは限らないし!もしかしたら、今回がまぐれかもしれないしさ!ね!ね!」
神澤君なら大丈夫!また次頑張れば、きっと今度は優勝だよ!
なんて、続けて言おうとしたら。
「……無理だよ。僕はもう、落ちた……もはや上位の奴らには追いつけない」
えっ。
「落ちた?追いつけない?え、なん、ど、どういう事?」
「落ちるとこまで落ちた。もうここまで下がったら、戻るのは不可能だ」
「えっ……今回の順位、そんな下なの?」
「下から二番目」
「……え」
(な、なんだって〜?!)
なんてこった!天変地異の前触れか〜?!
槍でも降るんか〜?!
だってほら君、ゲームの方じゃコンクール行くたびに優勝してたじゃないか?!
いやむしろ、コンクール優勝っていうイベントかってくらいだったジャマイカ?!
(えっこれ……)
なんかこの感じ、覚えてるぞ。いや〜な予感。
これまさか……テストの時みたく、私のせいだったり……しない?しないよね?
(いやいや、そんなまさか……)
「……なんか、僕……最近ピアノが楽しくて仕方なくて」
「へ?」
彼は話を続ける。
「ええっと、その……なんていうか……指に合わせて、音が出るのが楽しくて」
「え?ええと……?」
説明してくれたはいいけど……なるほど分からん。
「ねぇ、立ち話得意でしょ?」
「へっ?」
「いつも帰る時、教室残ってるし……いいよね?」
「帰る時……?立ち話……?」
「……」
「……へ……あ、ああ、そういうこと?!」
そうだった。君、たまにこうやって『秋水語』話すんだったね。
話すと長くなるけど、いいよね?って事?
一瞬何言ってんのか分かんなかったけど……多分こういう意味だろう。久々の翻訳。
「あ、うん別に全然いいけど……」
別に全然大丈夫だけど……なるべく日本語でお願いしま〜す……
「こうなったのは……君があの時、僕の事を褒めてくれたおかげなんだ」
「ええっ?!」
やっぱり私のせいじゃないですか〜やだ〜!
「ありがとう。あの時、僕の演奏を『見てて楽しい』って言ってくれた事……本当に、感謝してる」
そう言って、私に向かって深々と頭を下げる秋水。
(えっ……)
信じられない光景だ。
あの常に上から目線な秋水が、まさか……人に頭を下げるなんて。
ん?ん〜?これ幻?いや、夢かな?
どっか頭でも打ったかな?
(あっ分かった!この後『ドッキリ大成功』の看板持ってスタッフ出てくるんだろ!私知ってるぞ!)
なんて、ふざけて今そう言ったけど……
でも実際、本当にこれは彼のそっくりさんが私を驚かせようと演じてるだけ……そう考えた方がしっくりくるってくらい、信じがたい光景だった。




