14-1-3.心の中でガッツポーズ
「まずは……まぁ、まずって言うのも変だけど……その……姉小路は?」
おお、まずは唯の事から。
(な、なんて言おう……)
「なんか、あいつとバイクでニケツしてたって……ほんと?」
「えっ?!」
誰だ、見てたの!
「コンビニの近くで見かけたって、聞いたんだけど……」
「え、え〜と……」
わ〜お……詰んだ?詰んだかこれ?
証人がいるってのが何より決定的。
二人きりで……しかも、体ぴったり密着してた事まで否定できなくなってしまった。
なんだか、気分はまるで某少年探偵アニメの容疑者。
追い詰められた彼らが変に言い訳がましくなるのも、なんだか今はめっちゃ分かる。分かり過ぎる。
……なんて言ってる場合じゃない。現実逃避してないで、集中集中。
「あいつのバイク、乗ったの?」
バイクじゃない、『あいつのバイク』だ。
あ、やっぱそこ一番気になる?デスヨネー。
穏やかなトーンだけど、そう言う彼の目は全然笑っていない……
(ええ〜い、やけくそじゃい!この際全部白状してやろうじゃないかっ!)
「うん」
二人乗りしましたよ!ええ、しましたとも!
たっぷりお触りしましたとも!
「……っ!」
私の答えを聞くなり、みるみる険しい顔になり……勢いよく彼の口が開いて……
「……」
でも、すぐに閉じた。何も言わずに。
その口は明らかに『お前……!』って形をしていた。だけど、実際に声が出ることはなかった。
(我慢してる?いやいや、そんなまさか)
「……バイクなんて乗った事ないんじゃなかったっけ?乗れた?」
「へっ?」
なんだか急に穏やかさを取り戻し、そう言う彼。
(あ、そっち?)
「ま、まぁ……なんとか……」
「ふ〜ん」
あれ?怒らない?
バイクで二人きりなんて聞いたら、いつもなら速攻で拗ねるのに。
「で、どこ行ったの?」
「……」
「ってか何してたの?」
(アッアッそっち?!そっち切り込んでくる?!)
ちょっと油断したら、これである。
変わらず穏やかな表情のまま、目元だけが少しずつ鋭くなっていく。
「あ、ええと……ちょ、ちょっとコンビニまで乗せてってもらって……」
「……」
やけくそとはいえ、湖でデートしてました!とは流石に言えず。
疑いの眼差しが刺さる刺さる。いてててて。
「ほ、ほんとだよ!あの後ディゴバのチョコプリン買って帰ったの!」
「……」
「お店入ったらなんか期間限定って張り紙がいっぱいあって、それで……」
私の無罪をどうにか主張しようと、コンビニでの私の行動一部始終を説明する。
「……で、チョコプリン売り場行ったら……もう後ラスト一個で……」
説明してる間、私の顔まじまじと見ながらずっと無言で……何やら考え込んでいるようだった。
怒ってる感じはまるでなく、ただ考えてるだけって雰囲気。
怒るでもなく、慌てるでもなく……何をそんなに考えてるんだろう。
「なんなら、そんときのレシート見せようか?確か次回割引クーポンかなんかついてて、まだ捨ててなかったはず……」
「いや、いい」
「へ……?」
「あいつの事はもう分かった、もういい」
(あれ、お咎めなし?)
てっきりこの流れ、怒られるもんだとばかり思ってたから、思わずズコー!ってなりそうに。
いつもならよく喋るのに、あんまりにも静かなもんだから……逆にちょっとだけ怖くなってくる。
「さ、早乙女君……?怒って……る……?」
「いや?」
真顔で短くそう答える歩君。でも、やっぱりいつもの拗ねてる顔ではなくて。
特に怒ってるって訳じゃなさそうだし……本当にただ聞いてるだけ……?
(え……でも、普通怒るよねこういうのって)
むしろ他の乙女ゲームとかなら多分ここで、怒りMAXのイケメンキャラに詰め寄られて『ふざけんな、俺の方が好きなんだよ!』『ドキッ』……みたいな。
変なの。前々からちょっと思ってはいたけど、変なの。
乙女ゲームなら普通こう、がことごとく当てはまらないんだもん。
イベントとか周りの環境はちゃんと乙女ゲームなのに……本人達がイレギュラーばっかりで。
だけど、元々こういうシナリオだったっけ?
いや、本来はもっとこう……むしろありきたりというかコテコテな感じだった気がする。
もっと全員の気持ちが分かりやすくて、主人公の事好きなの丸見えで……こんなモヤモヤする瞬間なんてほとんどなかったはず。
なのに今この世界じゃ、彼らの気持ちがいまいちはっきりしてこない。
本来ならこっちの気持ちガン無視でもっと主張してきたはずなのに……何か違う。
(なんだろう……本人達の意思?やっぱりシステム外の何かが働いているって事……?)
困惑する私そっちのけで、彼の確認作業のような質問は淡々と進んでいく。
「じゃあ次、神澤。あいつとカフェ行ったって、ほんと?」
おっと。
これまた目撃者情報有り……え〜、どこで見られたんだろ?
油断も隙もないな、今後ちょっと気をつけないと。
「えっと、あれは……ちょっと相談受けてて……」
「相談?」
(……っ!)
問い詰めるかのようなトーンに、思わず言おうとしていたセリフが飛んでしまった。
「え、ええっと……」
それでも、彼は変わらず真顔のまま。
(今、どういう気持ち?怒ってないなら……じゃあ、なんだっていうの?)
(ただ確認してるだけ、なんて訳がない。でも……そしたら、これは何のために?)
顔や態度にすぐ出て、あれほど分かりやすい人だったのに……突然、まるですっぽりと仮面をかぶってしまったかのようで。
何も読めなくなってしまった。
「えっと、その……ピアノの事で悩んでるみたいだったから、相談乗ってたの」
「それだけ?他には?」
「え?う〜ん……あんまり覚えてないや。なんか面接みたいで、大変だったなぁ」
「め……面接?あいつと?」
流石の歩君もびっくり。
「うん。だってさ〜神澤君、あんまり喋ってくれなかったんだもん。ほとんど無言で……」
「……ふ〜ん」
彼の口元がちょっとずつ上がっていく。
にっこりというよりちょっと、何か意味深な感じの笑み。
(なんだろう、この表情……なんかどっかで見たことが……あっ!)
一緒にトランプしてて、彼が勝ちを確信した時の顔!あれだ……!
自分の手札はバラせない……けど、良い札が来た時のあの顔!心の中で絶対ガッツポーズしてるであろうあの顔!
「そっか……じゃあ、いいや」
さっきとは打って変わって、なんだか空気がのんびりとした感じに。
何が良かったのか分からないけど……どうにか納得してもらえたみたい。ホッ。
「じゃあ、最後。市ノ川と図書館にいたってのは?」
「あ、あれは……私の勉強見てもらってて……」
「2人きりで?」
「あ、うん」
「気づいたら暗くなっちゃって、焦ったよあれは」
「そんなに遅く……一緒に帰ったのか?」
「ううん。家の方向違うし、バラバラだよ?」
「あ〜、まぁそうか」
『あいつ、そこまで気が利かないもんなぁ』って心の声が聞こえた気がした。
お〜い、いっちー。今の、地味に馬鹿にされてんぞ〜。
「けど、気をつけなよ……女なんだからさ」
そう言うなり、私の方を見ながらニヤリと笑って。
(お?)
さっきまでは何か雰囲気が違う。
「え?いきなり何言って……」
「一応、だけどな」
(あ、この感じ……いつもの……!)
なんだか分からないけど……どうやら普段通りの感じに戻ったらしい。
今ここにいるのは……今までの感情の読めない真顔の歩君じゃなくって、いつもの分かりやすい歩君だった。
「な、何よ!一応って!」
「生物学的には女だろ?一応」
「ちょっと!言い方!」
「……あ、見て!」
「え?何?」
「ほらあそこ、ニホンザル舎だって!」
「だ〜か〜ら〜!家じゃないってば!」
(とりあえずやり過ごせた……?)
いきなり質問されてびっくりしたけど、それをどうこう言われる訳じゃなかった。
なんか拍子抜けというか、変な感じもするけど……
(……)
ふとここで何気なく歩君の方を見ると、まだニヤニヤしている。
でも、至って普段通りの感じ。さっかまでの変な雰囲気はもうなくなっていた。
う〜ん、何だったんだか。よく分からないけど……とりあえず回避できたならいいか。
(……いい、のかな……?)
拗ね拗ねモードになる事で、主人公に迷惑かけてるのは自分でも分かってたんです。
だから、13話の反省会(?)を踏まえて今回はぐっと我慢しました。えらい。
で、他のキャラがあまりにも進展して無さ過ぎなの聞いて……内心ガッツポーズ、と。
……っていうのを、本編内でちゃんとしっかり書ければ本当はいいんですがねぇ……(遠い目)
技術不足で、結局こうやって後書きに書くしかない悲しみ……