14-1-2.どうしても聞きたい事があって
「あ〜……笑い過ぎて苦し〜……」
「俺も……涙出てきたわ……」
「懐かしいね、こういうノリ。小学校の遠足みたいで」
「そうだな」
「なんか、子供に戻っちゃったみたい」
「……」
(あれ?)
なんか、彼の表情が一瞬翳ったような気がして。
「どうしたの?」
「……?いや?」
でも、今目の前にいるのはいつも通りの顔。
(気のせいか……)
歩君、何かとすぐ拗ねるもんだから……すぐこうやって機嫌伺う癖ついちゃったよ。
とりあえず、気を取り直して話を続ける。
「いや〜、しっかし……あれだね〜」
「……」
「こんな思いっきりはしゃぐなんて、何年振りだろうね?」
「……ああ」
ああ、って……会話になってないじゃん。
やっぱり、さっき感じた違和感は正解だったらしい。
「……」
そしてそのまま、拗ね拗ねモード突入。
(あちゃ〜……やっぱり始まった……)
急に黙ってツーンとそっぽを向く、この始まり方はいつも同じ。ワンパターン。
いつも思うけどこれ、なんなん?
女子なの?情緒不安定なの?ほんとなんなん?
「どうしたの?どっか具合悪い?」
「いや」
「なんか嫌な事あった?」
「……」
あったのね、うん。
やっぱり、こういうところ分かりやすくてありがたい。
「ごめん、私変な事言ったかも……」
「別になんでもねぇって」
ご丁寧にありがとう。私の発言が原因って事ね。
(ええっと……なんて言ったっけな……)
頭の中で記憶を遡る。
『笑い過ぎて苦しい』……は流石に違うか。『懐かしいねこういうノリ』もちょっと違う……
『小学校の遠足みたい』『子供に戻っちゃったみたい』、この辺かな?
つまり、昔の話題がNG?いや……彼だって昔話してきた事あったしなぁ。
じゃあ、何だ?『小学校』?あれかな、いじめられてたから?
「……そういや俺らさ、小学生の頃……遠足で動物園行った事あったよな」
「え?ああ、うん」
「あれ何年生の時だったっけ……二年生?」
「あ〜、確かそのくらいじゃないかな?」
また知らない情報がナチュラルに飛び出してくるもんだから、適当に調子を合わせる。
(設定資料にもないような、ゲーム世界の中だけの情報なんて……そんなん知るかっ!)
……あ!自分から言った。小学生の頃って。
『小学校』もなんか大丈夫そう?
え〜、それじゃもう分かんないじゃん。一体どれが地雷ワードだったんだか……
(って、えっ?あれっ?)
え、待って。ちょっと待てよ……今の……
歩君が……あの拗ね拗ねボーイが……今、自分から話しかけてきた……?
「おいおい、そのくらいって……随分曖昧だな」
拗ねてたはずの歩君がこちらを向いている。
しかも、表情まですっかり元に戻って。
(わお、なんということでしょう……)
いつもなら、こちらが機嫌取るまでツーンとしてるはずのあの彼が……勝手に機嫌直してる、だと……!
(あ、まずい!動揺して何言おうとしてたか飛んじゃった!)
「その感じ……まさか静音、覚えてないのか?」
な、ナイスゥ!ナイス解釈ゥ!
そ、そう!そ〜なのよ、忘れちゃったのよ〜オホホホホ!
「だ、だって……忘れちゃったよ、そんな昔なんて。それに……自分が何してるかだって、まだ当時よく分かってなかったくらいだし」
「はははっ、昔はぼーっとしてたもんなお前」
とうとう彼は声を出して笑い出した。
でも、そんな普段通りの様子も……う〜ん、なんか違和感。
「周りがどんなに騒いでても一人だけ別世界。遠足でミュージカル行った時も、あんなでかい音の中で一人だけ爆睡してたもんなお前」
「す〜ぐそういうこと言う!もう!」
「わりぃわりぃ」
(……)
ちょっとふざけたけど、やっぱりなんかいつもと違う。
どこか一定のラインを守ってるというか、模範解答的というか……何かを気にして決められた範囲内で動いてるような変な感じ。
まるでこちらの出方を伺ってるようで……
(でも……まさか歩君がそんな回りくどい事する?)
そんな深く考えてるようには見えないんだけど……
「……で、どんなところだったの?」
「確か公園の隣にあるようなちっちゃいところだった。モルモットとかうさぎとかそういうのしかいなくて……なんかちょっと、がっかりだったよな?」
な?ってまっすぐな瞳で聞かれても……ぶっちゃけ知らないのよ私……
「ソウダネー、ナツカシイネー」
なんだかちょっと調子が狂う。
いつもなら私が気を使ってあれこれ聞くまでムスーってしてるのに。
本来ならこれが普通の会話なんだろうけど……普段がああも変わってるから、逆に違和感しかなくて……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
回想ちょっとストップ。
(違和感……そう、そうだ。思い出した……)
あの気まずい空気を忘れるはずがない。
最初うろ覚えとか言っておきながらここまではっきりと覚えているのは……この違和感のせいであり、そのおかげでもあって。
他三人はサラッと流せるほど普通のデートだったけど、この彼だけちょっと変だったから……はっきり記憶に残っていたのだった。
まぁこうしてのんびり思い返してられるくらいだから、結局違和感だけで何も起きなかったって訳なんだけど。
(なんか変だったんだよ……あの時……)
こうやって思い出してるだけで、なんとなく胸がザワザワする……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……」
「……」
「……ねぇ」
「ん?」
「どうしたの今日……?なんかいつもと違くない?」
「何が?」
彼の方を見ると……至っていつも通りの、ほんのちょっと笑顔の混ざった優しい顔がそこにあって。
「……」
「……」
無言でお互い見つめ合うも、なんか違う。何かが変。
「……」
「……」
「……流石、静音だな。やっぱりバレるか……」
「……?」
「あ〜いや、その……ちょっと前から気になってる事あってさ。なるべく気にしないようにしてたけど、やっぱりどうしても気になって……聞いていい?」
「いいけど……何を?」
「なんていうか……静音さ、友達いるじゃん?」
「え?ああ、まぁ……」
そ、そりゃあこんなでも一応友達おりますけど……
「あ、いや違くて……男友達の事……」
「……?!」
(げげっ!)
「ほら何人かいんじゃん、仲良い奴。そいつらの噂よく聞くからさ、気になって……」
「え……」
う、噂ぁ?!噂流れてるの?!
(え、えええ……やばいやばいやばい……!変なところで火種が……!)
変な汗が背中にじわじわと……あと、手汗やばい。
「……?聞いちゃ駄目か……?」
「い、いや!そ、そそ、そんな事……ない……よ?」
声は震えまくり、瞬きは超高速に。
おそらく目の前の彼にはバレてる……私がこうやって内心すごく動揺してる事。
そして、そうやって動揺するほどの隠し事が何かあるって事も。
「え、えっと……ご、ご質問どうぞ……?」
「おいおい、えらいテンパってるじゃん……まぁいいけどさ」
ドキドキ。ドキドキドキ。