13-4-2.市ノ川家の人間たるもの……
※神様視点です。
まだ立ち去らないという事は、何か言いたい事があるのかも知れん。
「……」
「……」
わざと間を置いて、何やら含みを持たせるような態度。察してくれと言わんばかりの。
(はぁ……まだ何かあるっていうのか……)
しっかし、なんだか……祖父と孫の会話にしては冷たいのぅ。いくら気難しい性格とはいえ、相手は可愛い可愛い孫じゃろうが。
これじゃ、王様と家来だ。
体の心配してるんだとしても……それにしても、もう少しこう……言葉選びというか、なんというか……
「聖」
視界がビクッと大きく揺れた。
殺気のような鋭い視線に、目に見えない強い圧力。
名前を呼ぶだけでこの威圧感……とてもじゃないが、血の繋がった家族とは思えん。
「……っ、はい」
「分かっているな?お前は市ノ川家の男だ……」
「……」
「兄二人はもちろん、お前もそう……いずれは医師となり、やがて多くの命を預かる事になる者……そんな、健康を指導する側となるはずのお前が夜更かししているだなんて、話にならん」
「はい、申し訳ありません」
(どっかの医者は診察や施術の合間に毎日プカプカプカプカ……ひどいヘビースモーカーだったらしいな。当時あまりにタバコ臭過ぎて、患者からも時々苦情が来てたようだが……)
(退職した今だって、たまに死ぬんじゃないかってくらいの咳してるじゃないか。そんな奴の方が『健康的』とでも?)
「こんな遅くまでダラダラと……気が弛んどる。良いか?何度も言うが、お前は市ノ川家の人間……いつどこでも模範的な人間として振る舞わねばならんのだ」
「はい」
(な〜にが模範的な人間だ。実際医者として働き出したら、忙し過ぎてそれどころじゃないってのに)
(まぁ、あんたは開業したての頃しか見てないからな。開業してたまたま運良く軌道に乗って、さぁこれから忙しくなるって時に親父に継がせて引退……大した経験も知識もないままご隠居様だ)
う〜む、なんだか空気がピリピリしておる……
彼も彼で従う素振りは見せつつも、内心色々と言いたい事がありそうな……お互い敵対心バリバリじゃのぅ。
「……それと、前から言ってるだろう。スマホは電磁波が出るからほどほどにしろと」
「はい。使わない時は机にしまっておきます」
「間違っても胸ポケットには入れるなよ」
「はい」
(まだあんな迷信信じてるのか……こんなのが昔は医者だったとか、冗談だろ)
「ふん、分かったらとっとと寝ろ。寝不足でヘマをして、家名に泥を塗る事のないように」
(家名に泥……兄貴の事か?とんだブーメラン発言だな)
「もう一度念を押しておく……いいか、市ノ川家の人間は常に完璧であらねばならん。よいな?」
(もう十分聞き飽きた……なんなら耳にタコができそうなくらいだ)
なんのリアクションも無かったのが気に食わなかったのか、くわっと顔を怒り一色にして彼に詰め寄る。
「聖!」
「は、はい……!」
「分かったか!よいな!」
「はい!」
「なら良い……私はもう疲れた!寝る!」
「へ……」
いきなり大声出して疲れたんじゃろうか……随分と気分屋な爺さんじゃのぅ。
突然過ぎる睡眠宣告(?)に、彼もタジタジじゃ……
「え?え、あ……おやすみなさ、」
おやすみなさいを言い終わるより先に、パタン!と襖が閉まる音がした。
「い……」
そして威嚇のような大きな咳払いをして、徐々に離れていく足音。
(……)
「うっ、ゲホッゴホッ!ガハッガハッ!……はぁ、はぁっ、はぁ……」
(ま〜た死にそうな咳してら)
彼の言う通りかなりの愛煙家なんじゃろう、肺が相当やられてそうだ。
「ゲホッゲホッゲホッ!ううっ、ガハッガハッ……!」
そして、咳き込む声が段々と小さくなっていき……ようやく静かになった。
(はぁ……疲れた)
やれやれ、なんだか大変じゃのぅ。
(いつもならこの時間はもうとっくに寝てるはずなのに、まさか起きてたなんて。誤算だった……今度からは早めに電気消しておこう)
(まったく……ほんと、めんどくさい爺さんだ。一人でこれだもんな……昔は婆さんも元気で、向こうのほうが口が達者だったから、二人がかりの時はもっとひどかったけど……一人で十分過ぎるくらいだ)
(はぁ……)
(まぁでも、もう少しだ。高校卒業したらここを出て一人暮らしだ……だから、あともう少しの辛抱……)
(……)
ようやくここで、ぼんやりと人影が浮かび上がってきた。
じわじわと少しずつはっきりとしてきたそれは……やがて七崎の姿に。
ああよかった……さっきので魔法が解けてしまったかと思ったが、今もしっかりちゃんと効いているみたいじゃ。
ふむふむ。では……落ち着いたところで、ぼちぼち観察を始めさせてもらうとしようかのぅ。
独白が出るまでの前振り、長々とすいません。
こういうめんどくさい感じのジジィもまた大好きなんです。ここもどうしても入れたかったシーン。




