13-4-1.不穏な空気漂う夜
※神様視点です。
次は……『市ノ川 聖』。
『ひじり』でも『さとし』でもなくって、彼の場合は『せい』と読む……なかなか珍しい名前じゃのぅ。
三兄弟の末っ子で……ちなみに歳の近い方、二番目の兄の名は『皇』。これまたなんだかすごい名前……
しかし一番最初の子、長男の名前は『晴樹』。
一人だけ漢字二文字で、どこか堅い印象の弟達とは明らかに雰囲気が違う……別に腹違いの子とかそういう訳ではないようなんじゃが……なんじゃろ、なんとなく気が変わったとかかのぅ。
まぁそんな雑談はさておき……まずは魔法をかけて、と……
さてさて……彼の場合はどうじゃろか?
ふむぅ、今までと違って和風の部屋じゃな。
畳に、押し入れに、襖があって……
おや?鏡がない。となると、また本人の姿は無しか。
サウンドオンリー再び、か……ラッキーな事はそうそう続かんもんじゃのぅ。
「聖」
閉じた襖の向こうから、しわがれた男の声が聞こえた。
そのたった一言で、もうすでに気難しそうな性格が滲み出ている。
向こうにいるのは少なくとも、穏やかな老爺などではない……
「なんだお前、まだ起きていたのか」
こちらの返事を待たずして、すぐに部屋に入ってきた声の主。
和服姿の年老いた男性……その顔にいくつも刻まれた深い皺や、血管がやたら目立つヒョロヒョロの腕からして、相当の高齢だろう。
7、80代……いや、もっとかもしれんな。
皺まみれの顔に骨と皮ばかりの痩せ細った体、それだけ見ると弱々しいが……その眼光だけは鋭く、見る者を圧倒させる何かがあった。
誰じゃろうか?父親?
しかし、それにしては歳を取り過ぎている……となると、祖父か?
「聖、こんな遅くまで何をしていた?またスマホなんて弄って……」
鋭い視線がこちらを真っ直ぐ見つめてくる。
本人としてはただ見ているだけのつもりなんじゃろが……なんだか睨まれているみたいで、居心地悪いのぅ。
「いえ、ちょっと……調べ物を……」
直で初めて聞いた、彼の生の声。
今まで聞いたどの声とも違う、ひどく緊張した硬い声だった。
「調べ物?」
「はい」
「それなら日中に調べれば良いだろう。なにも夜にやる必要はない……違うか?」
イエスかはいで答えろとでも言いたげな強い視線に、流石の彼も何も言えないようでじっと黙っている。
「さっさとそれをしまえ」
言われるがまま、机の引き出しを開けて隙間にスマホを滑り込ませる。
おや?他の奴みたいに細い紐に繋げなくて良いのか?
君が良いなら良いんじゃが……
「わざわざそんな小さな画面を凝視するなんて……目が悪くなる元だ。明るい時間に書物でじっくり探せば良いだろう。何も今やることではない」
ここまで一気に捲し立てるように喋ったかと思ったら、言葉の最後にふうっと大きく息を吐き今度はへの字口に。
なんだか不満そうな顔のまま、黙り込んでしまった。
話している間ずっとこちらの顔を凝視していた祖父の視線も、今はぼ〜っと部屋のどこかを向いている。
これは……あれか、言いたい事言って満足したって事じゃろうか。
(はぁ、またか……)
おお、彼の心の声がようやく聞けた。
なかなか不穏な空気じゃったから、この後もずっと黙りっぱなしになるんじゃないかと心配したわい。
一呼吸置いたおかげで、少し余裕が出てきたらしい。
(めんどくさいけど仕方ない、ここは大人しくしておこう……)
「……申し訳ありませんでした」
えらい。大人じゃのぅ。
今は何を言っても火に油、ここは静かに引き下がるが吉……
「うむ」
よろしいと言いたげにこちらをギロリと一瞬睨みして、すぐにまたどこかに視線を逸らした。
自分の発言以外興味ないんじゃろうな、この感じは。
そして、二人向き合ったまま沈黙。
「……」
「……」
何か言う訳でもなく、ただ黙って突っ立ったまま時間が過ぎていく。
「……」
「……」
体はしっかりと互いの方に向いているというのに、いくら経ってもその視線は全く合いそうにない。
(なんだよ……早く寝てほしいならさっさと立ち去ればいいのに。まったく、この人は……)
そりゃ文句も言いたくなるわな。
孫の事を心配してるのかもしれないが、こんな態度じゃなぁ。
「……」
「……」




