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その差、一回り以上  作者: あさぎ
彼らの胸の奥、しまい込まれた心の声
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13-3-2.トカジャナイカラ島

※神様視点です。



(……)


 何を思ったか、ここで突然むくりと起き上がった。


 そしておもむろに立ち上がり、部屋の端まで歩いていくと……立て掛けていた鏡にサッと布をかけた。

 おそらく鏡用のカバーかなにかじゃろうか。


 真っ赤な自分の顔が視界に入るのが恥ずかしかったんじゃろう。多分。




 しかし、参ったな……これで視覚情報が断たれてしまった。

 変わらず部屋の景色は見えるが……肝心の彼の姿が全然分からない。


 仕方ない、ここからは『サウンドオンリー』ってやつか……とほほ。


 心の声だけで、人間の気持ちを汲み取るのはなかなか大変なんじゃよ……今のこの彼みたいに、反対言葉なんてパターンもある訳だしな。


 まぁそれを言うなら、そもそもこれまでがラッキー過ぎたんじゃが……




(……またそのうち、二人で過ごしたいな……)


(前にカフェ行った時だって、ほんとは……すごく楽しかった)


 ふむふむ。


(すぐ目の前にいて……LIMEと違って、話しかけるとすぐ声が返ってきて……)


(二人きりの世界みたいで……幸せな時間だった……)


(いつも大体一人だし、そもそも一人でいるの好き。でも……あいつと一緒にいて、同じ時間を過ごしてるってだけで……こんなにも嬉しいんだ、って……)


 心の中で呟くたびに、言葉の一つ一つに温もりが宿っていく。


 あれほど反対語ばかりで刺々しかった彼の言葉が……今、ほんの少しずつ緩んできている……

 彼にとってはそれほどに大切な、暖かい思い出なんじゃろう。


 側から見たらただの面接だったとしても……


(できればあのまま、もっとずっと喋っていたかったけど……結局言い出せなかった。どうしようか悩んでたらトイレ行っちゃって……言える雰囲気じゃなかったしな)


(……)


(……また、どっか誘いたいけど……どうしようかな。今度は近場じゃなくてもっとこう……遊園地とか、動物園とか……)


 勇気を出して遠出に誘ってみよう、と。

 いいじゃないかいいじゃないか、初々しくて。


 色々と経験してる前二人と違って君は始まったばかり、超のつく初心者。

 何も急ぐことはない。君のペースでゆっくりと……な?


(あるいは……なんだろ、映画とか?プラネタリウム?)


 おお、ロマンチックでいいじゃないか。


(でも待てよ、それって……七崎がすぐ隣に座るって事……?)


 そりゃあ、そうじゃろ。


(と、隣……!)


(隣って……無理だよそんな……!誰だそんな事言い出したの!)


 君じゃよ。


(そ、そんな、そんなの……近過ぎる!却下だ却下!駄目だそんなの!)


 ふふふ。聞いてるこっちまでドキドキしてくるのぅ。




(って……あ〜!だから何考えてんだよ僕は!)


(あ〜!も〜!そもそもあいつの事なんか気にしてないし!どうでもいいし!)


(今度だって……また会いたそうにしてたから、相手してやるだけだから!)


(べ、べべ、別に、その……す、)


(す、すす、す……)


 酢?


(す、す、す、すす、す……好き……トカジャナイカラッ!)


 トカジャナイカラ。どこかの地名かのぅ?

 トカジャナイカラ島、トカジャナイカラ山脈、世界遺産トカジャナイカラ遺跡……


 ……と、冗談はこの辺にして。

 最後の方があまりに早口過ぎて、一瞬何言ってるか分からなかったんじゃが……今のは『好きとかじゃないから』かね?


(だから、別にあいつの事なんてす、すす、す……!)


(あ〜もう!もういい、そんな事は別に良くって!ともかく……!違うから!絶対違うから!)


 好きと言うのも一苦労。

 見てる側としては、なんとももどかしいのぅ。




(……)


(でもやっぱり……なんか、遠出はまだ早いような気がする……)


(七崎だってあの感じ、そこまでまだ仲良くなれてないし……今はまだそういう段階じゃない……)


(でも、じゃあどこに……?)


(……公園とか?今は……コスモスの時期か)


(あいつ、花好きだっけ?行ったら……喜ぶかな……?)


 そっけない彼の口調にほんのりと笑みが滲む。

 嬉しそうな様子になんだかワシまでつられて笑顔になってしまった。


(……っ!)


 しかし、喜ぶという言葉でいつか見た七崎の笑顔を思い出し、自爆。

 落ち着いてきていた顔の色も、今の一瞬でまた元通りに。


 君もなかなか忙しい奴じゃのぅ。早乙女といい勝負かもしれん。




(……って、だから!もう!)


(なんだよもう!明日はコンクールだから寝不足なんかしてらんないのに!)


(朝だって早いんだし、さっさと寝なきゃいけないって時に限って……くそ!)


 おっと!早く寝ないとまずいのか君は!

 そりゃいかん、申し訳ない事をした……今すぐ解放してやろう、すまんすまん。




 一、二の、ほいっ!


「……ん?なんだ?なんか、いきなり眠く……なっ……」


 すまんのぅ。ほれ、休め休め。

 お詫びとして、心が静まるような穏やかな夢を用意しておいたぞ。


 興奮するような事は一旦忘れて、頭をすっきりさせるのじゃ。

 体の緊張を抜いて……リラックスリラックス。


 よしよし。しっかり寝て、明日頑張るのじゃよ……



言葉はアレだけど根はめちゃくちゃ素直……っていう、これまた私の性癖……

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