13-3-1.別にどうでもいいし
※神様視点です。
よし、次は『神澤 秋水』。
まずは……今までの反省を踏まえてちょっと弱めに魔法かけて……
さて、かなり手加減したつもりじゃが……どうじゃろか?
おお、今度もこれまたいいところに鏡が……おかげで姿が良〜く見えるわい。
ナイス配置。といっても偶然の産物じゃろうが。
それで、その彼はというと……一人用にしてはやけに大きいベッドの上で、右端の方にちんまりと寝ていた。
肌触りの良さそうな純白のシーツに包まり、中央に背中を向け横を向いて。
彼が小柄なのもあって、左側は完全に余ってしまっていた。
隣にもう一人……いや、小さな子供ならもう二人くらい寝れるかもしれない。
なんじゃ、せっかく広いんだから真ん中で寝ればいいのに、わざわざこんな身を縮めて……面白い奴じゃのぅ。
(……)
観察を始めて早々、早速浮かび上がってきたのは七崎の制服姿。
前二人は浴衣じゃったが……この彼にとっては、校内でのイメージが強いようじゃな。
無事、変な行動に走ることもなく回想が始まった……うむ、良いスタートだ。
よしよし。では、ちょいとばかり君の思考を見せてもらうとしよう……
(七崎……)
(今頃……もう寝てるかな?)
(……)
(……)
(……って!何考えてんだ僕は!)
誰も見てないというのに、頬がカーッと赤く染まっていく。
いや、厳密に言うとワシがこうしてじっくり見てる訳なんじゃが……流石に人間の彼には見えとらんじゃろ。
(ち、違う!違う違う!今のは違うから!)
(べ、別にあいつのことなんて……気にしてないし!あんな奴、どうでもいいし!いきなり絆創膏押し付けてくる変な奴なんだから!)
(体育祭の時だって……勝手に僕の話聞き出して、しかもなんか最後に変な事言って!)
おお、そういやそうじゃった。
あの発言のおかげで、本格的にスタートしたんじゃったな……君の恋は。
(あ〜!くそ!思い出したくなかったのに!色々思い出してきちゃったじゃん!)
彼の頬がほんのり桃色に染まっていく。
(目の前通ったってなんとも思わないし!話しかけられたって、嬉しくともなんともない!)
(一緒にいて楽しいなんて思ったことないし、笑顔見てドキッとしたこともない!)
(だから!あいつなんて正直興味ないんだよ、僕は!)
(あ〜も〜!思い出して損した気分だ!なんだよ、なんなんだよ……無駄な時間使わせやがって!七崎のやつ!)
(ふんっ!)
ええと……
な、なんだか……威勢が良いというか、なんというか……なかなかの変わり者じゃのぅ。
どうでもいいとか、嬉しくないとか、散々な言い方しておきながらもなんだか嬉しそう……これが七崎の言う、ツンデレとかいうやつなんじゃろうか?
どうしてわざわざそんな否定形ばかりなのか、ワシにはさっぱり分からんが……とりあえず彼の発言は反対語として聞いていれば良さそうじゃな?
(絆創膏貼られた時……急に近づかれてドキドキしてたとか、そんなのないし!)
これを反対言葉に……つまり、ドキドキしてたんじゃな、うん。
(もうあんなのとっくに忘れたし!)
そう言う割には、君の記憶は随分はっきりしているようじゃが。
(あの時、ふわってなんか良い匂いがして……って違う違う!そんなの思ってないし!)
匂いが鼻を掠めたんじゃな。それもなかなか良い匂いだったんじゃな。
忘れたどころかバッチリ覚えてるじゃないか。
(でもその時……コイツ女なんだな、って思うようになって……それで……僕は……)
(……)
で、それで余計にドキドキして意識するようになった……と。
途中で言葉が止まってしまったが、まぁおそらくそんな感じの内容じゃろう。
(……って!だから違う!そんなんじゃない!)
(匂い嗅ぐとかそんなの変態じゃないか!違う、絶対違うから!)
大丈夫、変態ではないぞ!むしろそれこそ青春!至って健全じゃ!
ワシが保証するぞっ⭐︎
……って、そうか。
いくらワシがキメッキメの良い笑顔でダブルピースしてても、君には見えないんじゃった。
「あっつ……」
頬に両手を添えて、ぽつりと一言。
ふと気づけば、耳まで真っ赤っか。ほんのり桃色どころかはっきりと赤くなっていた。
窓から涼しい秋の風が入ってきてて、部屋の中はむしろ少し肌寒いくらいなんじゃがなぁ。
 




