13-2.俺にはできない
※二話前と同じ感じの、またちょっと下品(かも?)なシーンがあります。ご注意ください。
※神様視点です。
さて、今度は『姉小路 唯』か。
まずは魔法をかけて、と……
よし、どれどれ……
今回の彼もベッドで横になっていた。
しかし……休んでるのかと思いきや、なんだかしきりにモゾモゾしている……
(っ、はぁ……)
(なんか、体が変だな……今日は酒飲んだ訳じゃないのに)
こらこら。未成年じゃろ、君。
十代もあれば二十代もいる、日中何してるんだか分からないような、そんな不良グループで遊んでいるのは知っていたが……何と言われようが、駄目なものは駄目じゃ。
お酒は二十歳になってから……な?
そうじゃ、後でこっそり冷蔵庫から抜いてジュースにでも変えておいてやろうか。
悪く思うな、お前さんにはまだ早い……
(なんだろ……変な感じ)
(なんでだろ、さっき風呂で◯◯ったばっかりなのに)
おおっと。あやうくスルーしそうじゃった、伏せ字間に合ってよかった……
いや、これは彼の独り言じゃし誰も聴衆はいない。
遠慮はいらんのじゃが……気をつけないと、ちと危険じゃのう。
(これじゃあ、寝れないじゃん……)
部屋に溶けていく熱っぽい吐息に、切なく歪む彼の横顔。
今度もまた部屋のちょうどいいところに立て鏡があるおかげで、思考だけでなくその姿まではっきりと見えている。
紅潮する頬と切ない表情のチグハグさが、なんだかかえって彼を艶っぽく見せていた。
(ついさっきまでは、全然こんなじゃなかったんだけど……変だな……)
おっと、ワシが故意にやったのがバレたか……?
(……まぁ、いいや)
ふぅ、危ない危ない。
まさか神が見てるなんてな。普通は考えつかないじゃろう。
(……)
そしておもむろに側に転がっていたスマホを手に取ると、心の中でも黙り込んでしまった。
その画面は鏡からちょうど見えない位置で、何をそんなに夢中になっているのかはワシには分からぬ。
じゃが……彼の真剣な視線からすると、よっぽど強く夢中にさせるような何かが映っているのじゃろう。
なんじゃろ……またラーメンか?豚骨か?
そんな様子でしばらくその画面を食い入るように見つめていたが……やがて、いそいそと自分の……
(……)
お前もか!!!
またこの展開!またこれか!
叫び過ぎてそろそろ声が掠れてきたぞ、ゲホッゲホッ……
君にも強過ぎたんじゃな、この魔法は……すまんのぅ。
ワシとて人間の全てを知っている訳ではないのじゃよ。
まぁしかし、これはつまり後の三人もおそらくきっと同じ……ふむ、次からはもっとさらに加減して魔法をかけてやる事にしようかのぅ。
さてさて、それでは仕切り直して……
一、二の、それ……!
(……ん?あれ?俺……今何して……?)
ベッドの上にボスっと飛び乗りあぐらをかくと、しばらくそのままぼーっとしてまたスマホを弄り出した。
暇さえあれば見てるタイプじゃろうか、この雰囲気からすると。
といっても、さっきとは目つきが全然違う……おそらく適当にダラダラ見てるといった感じか。
(……)
そうしていると……不意にいきなり人影が頭に浮かんできた。
モヤモヤとしたそれは徐々に形が鮮明になっていき、やがて浴衣を着た若い男女の姿に。
これはおそらく、あの時の……
(……)
苦虫を噛み潰したような顔をしながら……手持ち無沙汰なのか、ひたすらシーツの上を人差し指でなぞる。
しばらく観察していたが、この行為自体には特に意味はなさそうじゃった。ふむ……
(……早乙女は……もう、告ったのかな?)
う〜ん、そう来たか。
まぁ誰が見てもそう思うじゃろうな、あれは。
(幼なじみだもんな、あいつ。最初から静音ちゃんと仲良くて……いつも一緒に帰ってるくらいだもんな……)
時おり早くなったりたまに遅くなったりを繰り返しながら、動き続ける指。
(やっぱり……言ったんだよな、あの感じは。多分……きっと……)
ここまで心の中で呟いたところで指はピタッと止まった。
そして、はぁ〜と大きなため息。
紛らわしい雰囲気じゃったが、奴はまだ告白していない。
これは完全に杞憂というか、悪い妄想なんじゃが……かといってここで口を挟む訳にもいかないからのぅ。
(でも、あの後も静音ちゃんは普段通り……つまり……断られたか、あるいは保留か)
あぐらを解いて、前から倒れ込むようにベッドにダイブ。
そしてうつ伏せのまま手探りで枕を探し、サッと引っ張って顔の下に敷いた。
(だからって……俺には無理だ。そんなのできないって)
ほう、少し流れが変わったな。
(前もそう、その前も、前の前も……いつだってそうだ)
(良い感じの雰囲気にするまでは簡単だ、今まで散々経験したから……)
(そうやって、付き合うまでの経験ばっかり増えていくけど……仲良くなるだけで、いつもそこで終わり)
(そのうち俺じゃない誰かにさっさと告白されて、結局そいつと付き合う事になる……毎回そう……)
(俺と違って、正々堂々と告白できるような『ちゃんとした』奴が選ばれて、俺は……)
(……)
(俺は……)
大の字でうつ伏せだったはずが、気づいたら横を向いて胎児のように体を丸めていて。
暗闇で月光に照らされる彼の細い体はなんだかやけに弱々しく見えた。
(いくらうまく距離縮めたって、告って断られれば全てがパー……どんな努力も水の泡……)
(なのに、それを分かってて告白するなんて……どうしてそんな事ができるんだよ。そんなの無理だ、俺にはできない……)
(いつだって本気で、好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで、本当に好きで……自分の全てになっていって……)
(でも……付き合おうなんて、言えない。だって……言えなくない?)
(だって、だってさ……どんなに確かめたって、本当に好きなのか分からないじゃん。告白してOKなのか、いつまで経っても確信持てない。なら……言えないじゃん、そんな博打)
(こんなに好きでも、向こうが駄目なら一瞬で終わり……残酷だよな。好きになって、夢中になって、自分の全てを捧げても……一瞬で終わる……)
(そんなの、無理だよ)
部屋の電気を消して薄暗い中、彼の姿がうっすらと外の明かりに照らされている。
だが、その表情はよく見えなかった。
(……でも、それでも早乙女は告白したんだよな……結局あんまりいい反応は得られなかったみたいだけど……)
(……)
ふぅ〜と長めに息を吐き出し、ゴロンと寝返りを打つ。
ふとここでスマホがまだ手元に転がっているのを思い出したのか、おもむろにベッドボードから垂れていた白い紐を引っ張り寄せて繋げ、そしてそのまま力なく手を離した。
お、お〜い……スマホ落ちたぞ〜?
今の、ボードの上に乗せておくつもりじゃなかったのか?そんな重いのぶらんぶらんさせてちゃ、紐千切れるぞ〜?
……?
ああ、いや……そうか……今はそれどころじゃない、か……
(だけど、このままじゃ……いつか静音ちゃんも取られる……)
(それは……いや、だな……)
(静音ちゃんの事は好き。可愛くて優しくて、それでいて……なんか不思議な魅力があって……)
また寝返りを打って、はぁ〜と大きくため息をついた。
(きっと……あの子以上の人はきっともう現れない。だから、今度こそ……って思ってはいるんだけど……)
(だけど……何してもまだ反応が微妙だし、いけそうなのか全然分からない)
(はぁ……またこうなるのか……)
(前に好きだった子も、その前も、その前の前も……毎回こうだ)
(俺がこうやってウジウジ悩んでる間に、他の誰かに奪われて……いつもあと少しのところで取られてばっか……)
(馬鹿みたいに悩んで、怯えて、妬んで、心配して……)
(馬鹿『みたい』じゃない……もうこれ、ただの馬鹿じゃん。馬鹿じゃん俺。ほんと、馬鹿……)
ベッドボードからベロンと垂れた紐の先に、スマホが重そうにぶら下がっている。
板に繋がれた細い紐がそのうちプツリと切れてしまいそうに見えて気が気じゃないのじゃが……大丈夫なものなのか、これは?
まぁ、それは置いておいて……
どうやら、自分の思いを伝えて断られる事にひどく怯えているようじゃのぅ。
あまりに怯え過ぎて、見ていてなんだか可哀想になってくるくらいじゃ。
ここは一つ、この人間に魔法をかけてやって、勇気を出させてやろうか。
告白以外は経験豊富というなら、きっとその後の付き合いもうまくいくじゃろう。
……む、待てよ。
しかし、それでは今度は七崎が大変になるな。まずい。
ううむ、やはり……ここはやめておくか。可哀想じゃが、彼のためにもならないしな。
(馬鹿……ほんとに馬鹿だ、俺……)
む、いかんな。よくない考えに囚われておる。
夜はあまり考え事をするべきではない……十分観察できた事だし、この彼もさっさと切り上げるとしようか。
姉小路 唯よ、ご苦労じゃった。
だから、さぁ……もう寝るのじゃ。
もういいのじゃ、休め。今のお前さんはもうなにも考えてはいけない……
一、二の……ほい!
(あ、あれ?……なんか、眠くなっ……て……)
さぁさぁ、力を抜いて……
(……う、う〜ん……)
君も君で、疲れさせてすまなかったのぅ。
さぁ、ゆっくりとおやすみ……
五人の中で一番慣れてるけど、一番臆病。
経験豊富なのに、肝心なところが未経験っていう……ただの私の癖……




