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その差、一回り以上  作者: あさぎ
彼らの胸の奥、しまい込まれた心の声
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13-1ー3.ずっとずっとずっとずっとずっと

※神様視点です。

 


(静音……)


 お、七崎の映像が帰ってきた。

 今度はまともな格好じゃ、よかったよかった。


(俺の事……今、どう思ってるんだろう?)


(もちろん、好き……なんだよな?だよな、そうだよな……?そこは変わってないよな?)


 自分は七崎に好かれているはず、と。ほうほう。


 彼なりに何か確信を持ってそうな口ぶりじゃが、なんだか自信なさそうな様子だのぅ。




(だけど……それなのに神澤の奴、露骨に狙ってやがる……あいつ早くなんとかしないとな……)


(……姉小路も最近なんか怪しいよな。妙に仲良いしさ……って事はそっちも対策考えないと)


(いや、待てよ。そう考えると……あの市ノ川も……なんかあるよな、他の奴といる時と全然態度違ぇもん)


(って事は、三人とも……?)


(はぁ……なんだよもう、どいつもこいつも……敵多過ぎんだろ)


(……)




 少しの沈黙の後、いきなり苛立ちをぶつけるかのようにワシワシワシ!と勢いよく髪を掻き始めた。


 あ〜あ〜、そんなに強く掻いて……あんまりやると禿げるぞ、それ。


 ワシみたく不毛の地になっても知らんぞ〜。

 全滅したら、スカ◯プDでもアート◯イチャーでも太刀打ちできなくなるぞ〜。

 ソースはワシ。か、悲しくなんか……ないぞ……!




 しばらく掻きむしった後やっと手が止まったかと思ったら、今度はぁ〜と大きく長いため息。


(……でも、静音は俺の事好きだって分かってる。俺、ちゃんと分かってるから)


(だから大丈夫……)


(……)


(……大丈夫、だよな……?)


 脳裏に浮かび上がる、七崎と他の男の幻影。


(あんなに他の奴らと仲良くして……まさか、俺以外の奴と……)


(いや、ないない!それはない!だって、静音と俺の仲だし……)


(……)


(だよな……そんな事、ないよな……?)


 ないと言いつつも……不安はどんどん膨らんでいく。




(……でも、静音はあいつらの事全然嫌がらないんだよな。嫌がってるところ見た事ないし)


(あれか、鈍感なのか?あいつらがあんなにわざとらしく近づいてきてるのに……全然気づいてないのか?)


(まさか……)


(……)


(やっぱり、あの中の誰かが好きになった?まさか、そんな……)


(俺じゃなくて、他の奴を……?そんな……嘘だろ?)


 不安、怒り、嫉妬、絶望、混乱……多過ぎる感情がめちゃくちゃに混ざり合い、彼の中で膨張していく。




(っ……くそっ!ちくしょう!)


(なんだよ、なんなんだよもう!なんなんだお前ら!いきなり近づいてきて、静音に馴れ馴れしくしてさ!)


(ふざけんな!俺が一番好きなんだよ!お前らなんかよりもずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと……!)


 はぁ、はぁ、はぁ……と荒くなっていく呼吸。


 さっきまでの暗いオーラとはまるで違う空気を纏いながら、その頬は段々と紅潮していく。


(ずっと昔から一緒にいて!ずっと側で見てるんだよ!お前らなんてどうせ、最近の静音しか見てねぇだろ!)


(俺は知ってる……静音のありとあらゆる全てを!生年月日とか身長体重とかそういうのはもちろん、もっと細かいところまで!)


(笑うと口の右側が左よりちょっとだけ高くなるとか!恥ずかしくなるとすぐ、口に手がいくところとか!走る時若干内股気味になるとことか!酸っぱい食べ物は大体駄目だけど、レモンは食べれるって事とか!何かと真ん中を選びがちって事も!)


(学校から帰る時、俺が一緒に帰ろうって言い出すのを知ってて、いつもわざとゆっくり支度してる事も!)


(俺がいきなりキレても、なんだかんだ許してくれて……でも、本当に駄目な時はちゃんと怒ってくれる事も!)


(小3の頃、一緒に帰ったときに静音が転んで……それを助けたら、俺に『だいすき!』って言ってくれた事もな!)


(みんなみんな、俺だけが知ってる事なんだ……!)


 ぎらぎらと光る、彼の赤い瞳。

 怒りや興奮で目が潤んでいるのか、それとも悲しみの涙なのか……


(静音の事ならなんでも知ってるし、もしまだ知らない事があったらすぐに調べて、脳に刻み込む!彼女の全てを知って、常に脳を静音でいっぱいにしていたい!)


(脳みそで、目で、耳で……体全身で、限界まで静音を感じていたい!)


(もう、好きなんてもんじゃねぇんだよ!俺は全身全霊で静音を愛してるんだ!お前らのなんとなくの好きとは、意味が違う!重さが違う!全っ然次元が違ぇんだよ……!)


(だから、それを……ぽっと出のお前らなんかに取られる訳がねぇんだよ……!)


 愛情と執着心は表裏一体、同じ一つの感情の表と裏。

 その二つを切り離す事なんてできない。


 しかし彼の場合、その執着心の方が極端に強くなり過ぎてしまっているようじゃ……やれやれ。




(だけど……だけど……)


 今度は『七崎の笑顔コレクション上映会』といったところか。

 これまた他の男と一緒の、な。


(だけど……まさか……俺を差し置いて、他の奴の事が……なんて事、ないよな?)


(そんなの、違うよな?なぁ……だよなぁ?)


 ふっと突然弱くなる感情。

 ここまで激情を露わにしていながら、いきなりストンと大人しくなってしまった。




(でも……ほんとか?なんの確証がある?)


(いや、証拠なんてどこにもない……確証なんて、ない……)


(……)


(やっぱり……静音は……他の奴が好き、なのか……?俺じゃなくて……)


(俺、静音が好きなんだよ……ずっとずっと……でも、お前は他の奴の方がいいのか?俺じゃあ、駄目だっていうのか?)


(……俺、何が駄目だった?我儘言い過ぎた?何か嫌われるような事した?)


(なぁ教えてくれよ、静音……駄目ならすぐ直すから……なぁ……)


(俺は駄目なのか……?なぁ……)


 自分が一番だという気持ちと、でも何か駄目なんじゃないかという気持ち。

 感情がごちゃごちゃと絡み合い、入り乱れていく。


(静音……なぁ、静音……)


(いつもニコニコしてて、優しくてさ……俺がいきなり拗ねても許してくれて、むしろ落ち着くまで待っててくれて……)


(俺は……本気で好きなんだよ……)


(静音……ほんとはどうなんだ?俺の事、どう思ってるんだ?)


(なぁ……どうなんだよ……)




 そして最初に戻る、と。

 やれやれ、なんだか一人で忙しい奴じゃのぅ。


 なんだ、ここ最近情緒が不安定だったが……こういう事か。

 七崎が好き過ぎるあまり、彼女の心が他に向くのを過剰に心配して苦しんでいた、と。


 ふむぅ、キャラクター攻略の進捗状況としては悪くないのじゃが……だが、一人の人間としては……このままでは少し可哀想じゃのぅ。


 じゃが、まぁしかし……この悩みは今だけのもの。永遠に続く訳じゃない。


 ハッピーエンドか、はたまたバッドエンドか……今はまだ分からぬが、絶対にいつか解放される。

 それまでの辛抱じゃ、すまんがもう少し頑張っておくれ……




(あ〜!くそ!目が冴えてきた……!)


 おやおや、悩み過ぎて眠れなくなってしまったか。


 そうだな……もう観察は終わった事だし、君はこの辺で解放してやるとしよう。


 苦しませてすまなかったな……一、二、ほれ!


(な、なんだ?!なんか、急に眠気が……き……て……)




 今日は褒美にとっておきの良い夢を用意しておいたぞ。

 苦しい悩みは一旦忘れて、さぁ……


 ゆっくりとおやすみ……



彼の場合、恋愛というより崇拝に近い。



ぼーっと文字打ってたら、(いや、ないない!それはない!だって、静音と俺の……)の最後の部分をうっかり変換間違えるっていう。

自動変換君、君って奴ァ……流石にそれは直球過ぎるぜ……

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