13ー1-1.神様って意外と忙しいのじゃよ
※神様視点です。
は、は……は〜くしょん!
な、なんだ?急にくしゃみが……っ、ぶぇっくしっ!
なんじゃなんじゃ、誰かワシの噂でもしておるのか……?
まぁ、誰かと言ったって……噂しそうな輩なんて一人しかおらぬがな。
『な』から始まって、『ね』で終わる……な?分かるじゃろ?
む、今ので思い出したぞ。
そういえば、あれから彼女の様子をこっそり見守っていたのじゃが……なんやかんやうまくやってるみたいじゃのぅ。
最初はどうなる事かと思ったが……いらぬ心配だったわい。
ちゃんと、ワシの言いつけもしっかり守っているようだしな。うむ、よしよし……
じゃが……問題は他の五人だ。
他の世界の者が接触してきた事によって、少しずつ影響が出ている……五人それぞれに少しずつ自我が出てきてしまっているのじゃ。
彼らの感情がシステムの枠を超えてしまっている。
もっと分かりやすく言うなら、システムとして機械的に動くはずの心に命が宿ってしまったのじゃ。
彼らが頭の中で勝手に考えてる分には全く問題ないのじゃが……それを実際に行動に移してしまった場合、かなり厄介じゃ。
場合によっては七崎の任務に支障が出て、ワシが直接介入しないといけなくなるかもしれんのぅ。
よその世界の人間を連れてくるからには、こうなる事は分かっておったが……しかし、ワシでもどうもできん。
システムとしての感情ならいくらでも制御できるが、生きた心までは流石にワシとて操れぬ。
今のところまだ大した影響はないが、おそらくいつかはワシの力でも制御しきれなくなるじゃろう。
こうなる前にさっさと『迷い人』を探し出し、七崎と一緒に帰らせる予定だったのじゃが……
『迷い人』は未だ心を閉ざしたままじゃし、七崎も七崎で日々のイベントをこなすので精一杯……
ううむ、まいったな……もっと簡単に済ませるつもりが、ワシの読みが甘かったか……
ふむ……
……
むぅ……いかんな、考えていたらなんだか段々心配になってきたぞ……!
今すぐ計画を一から練り直したいくらいじゃが……しかし、他にもやる事が山ほどあるからのぅ。
何をって、ほら……
七崎の行動をサポートしてやったり、時間の流れや人々の運命を管理したり、ワシに祈りを捧げる者の望みを叶えてやったり、人の心に入り込む悪魔を追い払ったり……
同僚(神)の愚痴を聞いたり、部下(天使)達を指導したり……
毎朝ゴミ出しに行ったり、カミさんの機嫌取ったり、孫の面倒見たり……とかな。
ん?まさか疑っておるのか?
ほんとじゃって!ほんとほんと!ほんとに忙しいの、ワシ!信じて!
特に最後の方いらない?いや、最後こそ一番大変なところじゃろうが!
おかげで毎日ヘトヘトじゃよ、ほんとに!
おほん!と、ともかく……そんなこんなで、もう常に忙しくてたまらんのじゃ。
だから、あまり彼らに構ってばかりもいられんのじゃが……
しかし……ここは少しだけ、彼らの様子を覗いてみるか。
彼らの思考を少し覗けば、なんとなく先が読めるじゃろう。
どこか危ないようなら先手を打っておこう。そうしよう。
しかも、ちょうどいい事に今は夜。
五人とも布団に入ったばかり……まさにチャンスじゃ。
彼らがうとうとしてる間が一番侵入しやすい。
だから、今が彼らの思考を覗く絶好のタイミング……
さて、誰からにしようかのぅ。
そうじゃな……ここは一番単純そうな男、『早乙女 歩』から始めるとするか。
七崎だって分かりやすいと言ってたしな、まずは彼からいこう。
ふむ、どれどれ……
(あ〜、なんか腹減ってきたな……ラーメン食いてぇ……)
(やめとこ、夜中だし)
(背中かい〜)ポリポリ
(そういや、明日の一限国語じゃん。う〜わ、だっる……)
(ラーメン……いやでも、キッチン行くのめんどくせぇしなぁ)
色々と思考が入り乱れてはいるが、今の彼の脳内には湯気ほかほかのラーメンがど〜んと居座り続けている。
食べて欲しそうにどんぶりをこちらに傾けながら、スープに浮く油をギラギラと輝かせて……
やや!これは……!豚骨、それもかなりコッテリ系じゃな?
いかにも体に悪そうで、でもとても魅力的な……そんな悪魔の食べ物……
分厚く肉肉しいチャーシューに、綺麗なオレンジ色でとろっとろの味玉、そして主役級名脇役のネギ達……お、美味しそう……じゅるり。
……はっ!いかんいかん、つられるところじゃったわい。
違う、そうじゃない。
ワシが聞きたいのは七崎と君の関係であって、君の腹事情じゃない。違うのじゃ。
(でもやっぱ腹減ったな……確かキッチンとこにカップ麺の在庫あったはず……)
(あ〜でもな〜、どうすっかな〜)
ラーメンは強かった。
彼の脳内に居座ったきり、全く出て行こうとしない。
それどころかむしろ、彼の『ラーメン食べたい欲』は時間と共に段々と強くなってきている。
参ったな……こうなったら仕方ない、ここは奥の手だ。
少し刺激を与えて、強制的に恋愛気分にさせてやろう。
何をするつもりなのかって?
い、いや、それは……その……まぁ、あれだ……ちょっとした魔法をかけて、彼らの脳の信号やらホルモンやら……そういったアレを……ちょいと弄ってやるだけさ。
なぁに、大した事じゃない。痛くも痒くもない、ほんの少し気分が高揚するだけじゃ……大丈夫大丈夫。
しかも、これは使ってる間その者の脳と強い繋がりができるという効果もあってな。
見えている周りの景色も少しだけ共有することができるという、特殊な魔法なのじゃ。
まぁ、目で見た映像が脳を通してワシにも見えてくるってだけの話じゃがな。
あと音も同じ理由で、聞こえるには聞こえる。
まぁ周囲の全体像が見えていない分、視覚と違ってこっちは聞こえたとしても何が何だか……じゃが。
これを今使えば……考えている内容の他に、その時の彼らの雰囲気まで分かるって訳じゃ。
な?なかなか面白い魔法じゃろ?
といっても、決して難しいもんじゃないぞ。こんなの、鍛錬すれば誰でもできる……もちろん君にも。
そうじゃな……いくら魔法の才能がなくても、300年くらい練習すればできるようになるじゃろ。
おおそうじゃ、せっかくだし今日からやってみるかね?……え、無理?
む!いかん、話が逸れてしまった……喋り始めるとついつい夢中になってしまうな。いかんのぅ。
では、さっさと始めるとするか……
目標を定めて……一、二の、三!ほいっ!
よし、うまく魔法がかかった!
さて……どうじゃろか……?
 




