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その差、一回り以上  作者: あさぎ
みんな違って、みんないい(感じにヤバい)
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12-4.明るさの裏に潜む影

突然他人の口元拭いても許されるのは、乙女ゲーム主人公の特権!(なんだそれ)

 


「……あ、」

「むぇ?」


 まだもぐもぐしている彼に喋らなくていいよと手で制して、ティッシュを一枚手に取る。

 そして、顔に向かってその手を伸ばすと……彼の表情がみるみる強張っていく。


 そりゃ、そうだ。食事中なのに急に何するんだろうこの人、といった感じなんだろう。


 でも……このまま放っておく訳にはいかなくて。


「ちょっとごめんね……」


 そう言って、さらに腕を伸ばし……ティッシュで口の左側を軽く拭う。




「……っ?!」


 さっき以上に大きく見開かれた彼の目が、ぐりんと私の方を向いた。

 今日初めてだ、目が合ったのは。


 まん丸の瞳に半開きの口……そんなひどく驚いた顔で、まるで何が起きたか分からないといった感じだったけど……やがて何を思ったか、すぐまた目を逸らされてしまった。


「……」

「……」


 しかし今度は、徐々に彼の顔全体がぶわ〜っとりんごのような赤い色に変わっていく。

 さっきの美味しいって表情の時より圧倒的に早いスピードで肌の赤色がみるみる広がり、気づいた時にはもう茹蛸が完成していた。


 ちょうどうまい具合に、彼の近くに人はいなかった。


 もしいたら顔が真っ赤なのがきっとバレバレだっただろう。

 常に前髪というベールを被っている彼だけど……赤く染まった範囲があまりに広過ぎて、今じゃまるで全然隠しきれてなくて。




 ……ゴクンッ!


 噛んでる途中で無理やり飲み込んだのか、彼の喉が大きく鳴った。

 側にいる私にも聞こえるほど。


「あ、だ、大丈夫?」

「……」

「急にごめんね。タレが口についてたから……」


 白いワイシャツに落ちたら大惨事じゃん、って思って。


 帰るまでまだ時間あるだろうし、一度染み込んじゃったらなかなか取れないじゃん、ああいうのって。


「ち、千世君?」

「あ……あ……」


 漫画なら目にぐるぐる模様が入ってるんじゃないかってくらいの慌てよう。

 しかも、もうすでに彼の顔は赤いというのに、どんどんどんどんさらに赤くなってきていて……なんだか爆発寸前の爆弾のよう。


「お、お〜い、大丈夫……?」

「わ……わわ、わ……」


(ど、どうしよ……)


 え……別になんの思惑も変な下心とかも無しに、彼の服への心配だけで動いたんだけど……今のまずかった感じ?


「千世君……?ええっと……」


 どうすべきか分からず、とりあえず様子を伺おうとちよちゃんの顔をじっと見つめると……すかさず彼の両手が顔面をブロック。

 見ちゃ駄目〜!と声が聞こえてきそうなくらいの素早いガードだった。


 そうして顔を両手で覆い隠した彼は、そのまま無言でじっとしている。顔も弾けそうなくらい真っ赤なままで。


(え、えっと……?恥ずかしい……のかな?これ)







「ち〜い〜ちゃん!」


 不意に背後から声がした。


 ガサガサで嫌みったらしい高めの声。

 忘れるはずもない、気持ち悪いこの声のトーン。


「っ!この声……!」


 私がちよちゃんの方を向くより先に、彼はもう駆け出していた。




(ああ、また……)


 前に会った時も確かこうだった。

 あれからまるで何も変わっていない……今日もそっくりそのままだった。


 ほんの数分すらのんびり食べていられない、そんな学生生活を彼はまだ続けているようだ。

 続けているというか、続いてしまっていると言うべきか……続けたくて続けている訳じゃないのは十分分かっている。


(ちよちゃん……)


 だからって、私が何かできる訳じゃなくて。

 助ける術を持たない私は、ただ見守るしかない。あの時もそう、今もそう。


 まだ食べ終わってすぐだというのに、一息つく暇もなく必死に逃げていく姿。

 どうにも見ていられなくて、私は途中で背中を向けてしまった。


(……)


 背中越しだったけど、遅れてやってきた足音が彼の方を追いかけていくのははっきりと聞こえていた。







「はぁ……」


 これまた久々のもどかしい感じにすっかり気分は落ち込んでしまった。


 店番はもちろんちゃんと続行。

 でも、視線は自然と下ばかりを向いてしまう……


「はぁ……」


 苦しんでるの分かってて、でもなんにもしてあげられない。

 世の中理不尽つらい事いっぱいあるけどさ、こんな酷いことって……ないよ。


 だって、ここはゲームなんだよ?

 シナリオなんていくらだって操作できる……何か救済措置というか、さっきの場面だって何か都合良く回避させる事だってできた訳でしょ?


 いつも散々私の意識操作されてんだしさ、こういう時こそそのシステムの力使うべきだっていうのに。


 ここがゲームの世界じゃなきゃ、きっとここまでつらくなかった。

 これが現実ならまだマシだった。逆にその方が、かえってそういう運命だって諦めがついたから。


 でも、ゲームだからこそ……どうにかできた可能性があった訳で。

 それが僅かなものだったとしてもゼロと一じゃ全然違う。


 もっとうまくやれば、どうにかうまく助けられたんじゃないか……なんて……


「はぁ〜……」




 ちよちゃんのおかげでやっと思い出した。

 歩君とか秋水とかその辺の賑やかな雰囲気のおかげで、うやむやにされてるけど……みんな何かしら問題があるんだった。


 ちよちゃんはその中でも一番分かりやすくって……唯にいっちー、秋水もそれぞれ家がらみの問題がある。

 歩君も最初は大丈夫そうだったけど、なんだか最近様子が変だし……


(どうしたもんか……)



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