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その差、一回り以上  作者: あさぎ
みんな違って、みんないい(感じにヤバい)
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12-3.串の1番下って食べづらいよね

 


 そうして、いっちーの姿が完全に見えなくなった頃。


「……あ、あの……」

「うひゃあ?!」


 店の陰からいきなりぬっと何者かが現れて、思わず悲鳴を上げてしまった。


「えっ、だ、誰……?」




 振り向くとそこには、暗〜いオーラをまとった猫背気味の男子生徒が一人。


「……!千世君!」


 もっさりとした重い前髪のおかげですぐに分かった。

 あれから何ヶ月か経ったけど、その辺全く変わってないようで。


「あの……モモ、一つ……」

「タレと塩、どっちがいい?」

「た、タレで……」


 タレ大人気。


 そう言う私も、実はタレ派だったりする。

 甘じょっぱくて美味しいよね。


「は〜い。ちょっと待っててね」




「……」

「……」


 そして、すぐ沈黙。


 ここまで全然彼のイベントなかったから、もうほとんど初めましてに近くて。

 それでその上に、お互いあんまり喋るの得意じゃないから……


(なんていうか……すごく気まずい……)


「……」

「……」


 かと言って、無言なのも落ち着かないし。


「あ、あのさ……」

「……」


 やっぱりほら、人と話すときは目を合わせて……でしょ?

 だから、ついつい分厚い前髪の向こうの紫色の瞳を見ちゃうんだけど……

 前髪越しだっていうのに、なぜか彼が必死で目を逸らすもんだから、なんだか余計に喋りづらい……


「あ〜えっと……」

「……」

「な、なんか……久しぶりだね」

「そ、そうですね……」

「ね〜」

「……」

「……」


 はい、会話終了。


 コミュ障乙!

 わ〜ん私の馬鹿!話の振り方下手くそかよぉ!


 ただでさえ会話下手くそなのに加えて、視線を逸らされ続けてるもんだから……もうやめて!私の精神力はとっくにゼロよ!


 最初からこっち見てないならまだ良い……いや、良くはないけど!

 でも、目が合いそうで合わない……合うはずの視線を咄嗟に逸らされるのは、それ以上になかなかつらいものがある。

 というかつらい。助けて。


(別に嫌われてるって訳じゃないんだろうけどさ……ううう……)




「……あの、」


 ここでようやく口を開いた、ちよちゃん。


「……?」

「こ、こうして会うのは……本当に久しぶりですね……」

「ね〜。ほんと久々〜」


 ……ん?『会うのは』?


 文章としては変じゃないけど、でも……なんか変。

 今の、『話すのは』じゃなくて?あれ?




 不意に彼の口から小さくあ、と漏れた。

 私の表情の微妙な変化に気づいたらしい。


 あんな前髪長くして、見えてるんだか見えてないんだか……なんて思っていたけど、思っていたよりしっかり観察されていたようだ。


 そして、すぐに何かを察したらしく彼は説明を付け加えてくれた。


「あ、えと……分かりづらかったらすみません。その、いつもはLIMEだからって言いたくて……」

「あ〜そういう事か。そうだよね、学年違うからなかなか会えな……」


 ……うん?『いつもはLIME』?

 LIMEをちよちゃんとやり取りしてる?誰が?


 ……私が?


(???)


 それも『いつも』……?しかも……私が?


(うん?ん?んんん?)


 え……そんなの知らないよ、私……

 イベントばっかりで、私ほとんどスマホ見てすらいないのに?


 身に覚えがなさ過ぎる。なんだそれ。


(これ、まさか……)


 嫌な予感がする。


 ま〜たなんか、私の知らないうちに勝手に話が進んでるとか……まさかそういうやつじゃないよね……?違うよね……?


(いやまさか、そんなまさかね……)


 流石に違うよね?……だよね?ね?


 違うよ……ね?なんて念じながら、急いでスマホを制服のポケットから取り出し、LIMEを見てみると……




 うわ、めっちゃやりとりしてる〜!!!

 しかもほぼ毎日!!!


 毎日って!!!本物の私と違って、随分とマメだなおい!!!


『ス◯バの新作が出たよ〜!なんとかかんとかレモンだって!』

『学校の近くに新しくカフェができたんだって!めっちゃ気になる〜!』


 な、なんだこれ〜???!!!

 ス◯バの新作?新しいカフェ?

 知らんがな!!!


 全部自分から送った事になってるけど、全く知らないよ私!

 私じゃないよこれ打ったの!


(え……えええ……)


 うわ出た、こういうの。本人そっちのけで勝手に話進んでるやつ……

 まぁ確かに交換したら普通、こうやって連絡取り合うようになる訳だけどさ……本人気づいてないのは駄目だって。


(でも……という事は、つまり……)


 これが、彼だけだったらまだよかった。でもそんなはずはなく……


(うわ……歩君に、秋水まで……)


 他の二人もしっかりとトーク履歴が残っていた。

 なんという無慈悲。


 それも、指で一度や二度スライドしたくらいじゃ全部読みきれないほどの、凄まじい会話量(情報量)……


(うわぁ……うわぁ……)


 さーっと血の気が引いていく。

 これまたいつものように記憶ごと綺麗に飛ばされてるようだった。


(かといって、知らないじゃ済まされないんでしょこれ……)


 後でなんかの拍子に不意打ちで聞かれるやつでしょこれ?


 これ、まさか全部頭に入れとけって事……?

 今起きてる事以外に、見てないところまで全部把握しろと……?


 いや、できるけどさ。

 やろうと思えばできるけど……いや、これ……やるの?本気で?ガチで?


(ああ、目の前が真っ白に……)




「……せん……ん輩!先輩!」

「……」

「せ、先輩!大丈夫ですか?!」


 先輩大丈夫じゃないです。


 って、正直に答えたいところだけど……これ以上心配させたくないしやめとく。


「ううん、大丈夫大丈夫。ちょっと眩暈がしただけ……」

「でも……」

「ありがとう、でもほんとに大丈夫だから」




「七崎さ〜ん、できたよ!モモのタレ!」


 クラスメイトの声でようやくハッと我に帰った。


「あ、ああ……ごめんごめん。ありがとう」


 意識飛ばしてる場合じゃない、そういや仕事中なんだっけ私。考え込むのは一旦やめやめ。


 湯気ホカホカの串を受けとり、お客さんであるちよちゃんにパス。


「おまちど〜さま!はい!」

「わぁ、ありがとうございます!」

「さぁさぁ、どうぞ召し上がれ〜」


 少し躊躇った後、最初の一口をおずおずと小さめにぱくり。


「……!お、美味しい……!」


 彼の瞳は興奮気味にやや大きく見開き、頬もほんのり桃色に。

 食レポのどんなセリフよりもよく伝わり、そして一瞬ですぐに分かる、美味しそうな顔だった。


「でしょ?でしょでしょ〜?」


 実際に焼いたのは別の人だし、そもそも肉仕入れたのもまた別の人なんだけど……でも、こうやって純粋に喜んでもらえると、なんだか自分が褒められてるみたいでちょっと嬉しい。


「……はむっ」


 ここで勢いづいたのか、今度は二個まとめて大きく口いっぱいに頬張ってもぐもぐ。


 彼の見た目とかからして小動物みたいにちまちま食べるのかと思いきや、思いっきりほっぺた膨らませてガツガツ食べるタイプらしい。

 なんか意外かも。


 ガブリ。もぐもぐ……


 限界まで膨らんでいく柔らかそうなほっぺたはなんだか頬袋みたいで、気分はまるでハムスターの観察だ。


 ガジッ。もぐもぐもぐもぐ……


 まとめて食べるおかげで、あっという間にラスト一個に。

 残るは串の1番下、あの絶妙に食べずらいやつ。


 それを、横からガブッと咥えて串の上まで引っ張り上げ……そしてもぐもぐ。


 う〜ん、ワイルド。

 大人しい見た目だけど結構ガッツリいくのね、君。



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