12-2.てんやわんやの文化祭
「静音……?」
なかなか答えない私を見つめる歩君。
秋水の前である以上、その表情はあくまでなんともないようなフリをしてるけど……その瞳は微かに揺れていた。
「あ〜、えと……」
「……ははっ、お前が困らせてんじゃん」
クスクスと笑う秋水に、歩君の目がさらにキッと細まっていく。
「はぁ?!お前、何言って……!」
「……おい」
少し離れたところからの、突然の重く鋭い声。
緩み切った空気がみるみる張り詰めていく。
誰かと思う間もなく、目の前に背の高い青年が現れた。
きっちりセットされた青い髪にメガネの、あの彼だ。
その眼光は鋭く、前に二人で勉強した時とはまるで雰囲気が違う。
(……と言っても、あの二人きりの時がイレギュラーだったってだけの事なんだろうけど)
彼の姿を見るなり、目の前の二人はすぐにシャキーンと背筋を伸ばした。
今まで見た事ないくらいの、体育の教科書みたいな綺麗な直立。
「げ、生徒会長……」
「げ、とはなんだ早乙女」
思わず漏れ出た声も、冷たく鋭い一言であっさり凍らされてしまった。
「あっいや、なんでも……ない、です……」
さっきまでの威勢はどこへやら……
「ふっ」
そんな歩君を見て、秋水はわざとらしく鼻で笑った。
ざまぁwとでも言いたげにニヤリとしながら。
しかし、すかさずそれを氷の視線が射抜いていき、一瞬でその表情は凍りついてしまった。
そうしてものの数秒で、焼き鳥屋の前に高校生四人が無言で突っ立っているという……謎の空間が出来上がってしまった。なにこれ。
あれほどメンチ切ってた二人も、いっちーの前ではただの生徒Aと生徒Bに。
あれほどギャーギャー騒いでたのに、今じゃもうすっかり大人しくなって、あたかも優等生のような雰囲気を出していた。
(えええ……めっちゃ猫被るやん……)
怖いもの知らずな雰囲気の二人だけど、どうやら生徒会長サマは怖いらしかった。
でも、生徒会長だからって……注意されて終わりが大半だし、特にそこまで怯えるような要素はないんだけど……なんだろ、雰囲気?声?
「お前ら、そんなに暇なら……外を回って宣伝でもしてきたらどうだ?」
「えっ、俺そんな暇じゃな、」
「喋ってる暇はあるんだろ、早乙女?」
「っ……」
歩君、無事死亡。
「で、でも……田中君の看板が壊れて……」
「お前のは壊れてないだろ?なら、十分宣伝はできるはず……ほら、相方が向こうで待機してるぞ」
「えっ?」
床に座ってサボる気満々だったのに、いつの間にかすっかり真面目な表情になっていた……秋水の相方、田中君。
彼もまた生徒会サマは怖いらしかった。
「……」
流石に秋水も、もう何も言えなくなり……二人とも仲良く死亡。
正論ばかりで返す言葉なんてなかった。
(ご愁傷様……)
「何か弁解はあるか、七崎?」
「私?」
「君はこの場を見ていた……もし俺が間違っているなら教えてほしい。ああ、もちろん公平な視点でな」
その言葉にバッと顔を上げ、こちらを向いて助けを求める歩君。
(あっ、可愛い……)
少し潤んだ瞳と情けなく下がった眉毛が心をくすぐってくる。
なんか反対からも視線感じるなぁ、と思ったら秋水まで。
ブ◯ータス、お前もか……
可愛い。持ち帰りたいくらい可愛い。
可愛過ぎてしんどい。
これじゃあまるで、昔の消費者金融のCMだ。
どうする?アイ◯ル〜。
でも、二人ともサボろうとしてた事に変わりはないので……
「……いや、特に間違いはないよ」
「そうか」
私に庇ってもらえないと知った彼ら二人はしばらくポカンと口を開けていた。
(っていうか……そもそもの話、君達二人がサボろうとしたのが悪いんだってば!)
そして、ぼーっと突っ立ってると思ったら、急にバッとこちらに背中を向けて……
「僕……ちょ、ちょっと宣伝して来る……!」
「え、あ、うん……いってらっしゃ〜い!」
「静音、俺……そろそろ肉のストック切れそうだし、補充してくるわ!確か家庭科室の冷凍庫にあるんだよな?」
「え?そ、そうだけど……でも待ってよ、早乙女君は店番あるでしょ?それに補充なら他の人が……」
「大丈夫大丈夫!」
「大丈夫じゃないでしょ!」
「お昼のラッシュは過ぎたし、お客さんそんなに来ねぇよ!だから……それじゃ!」
「ちょ、ちょっと!待っ……!あ〜……」
(行っちゃった……)
二人ともバタバタと逃げていってしまった。
ほんとに分かりやすいね君達……
「はぁ……大変だな、毎日こんなのの相手して……」
「ありがと〜。あの二人すぐ揉めるんだもん、ほんと大変だよ……」
「お疲れ様の意味も込めて……ねぎま一つ」
「お、まいどあり〜」
「タレで」
「は〜い……注文入りました〜!ねぎま一つ!タレで!」
そう叫ぶ私の声に、店の奥からは〜い!と威勢のいい声が答えてくれた。
やがてジューっという音が聞こえてきて、段々と周囲に肉の良い香りが漂い始める。
(あ〜……良い匂い……)
ここでまた、泡が乗った麦の飲み物が脳裏にチラチラと……じゅるり。
いかんいかん、ちゃんと仕事しなきゃ……
「はい、お待ちど〜さま!」
「ありがとう」
(……って、あれ……?)
彼の手元をよく見ると……限界までパンパンに膨らんだ、可愛らしいパステルピンクのビニール袋があった。
それも、デフォルメされたクマだか猫だかが全面にプリントされた、やたらファンシーな柄の。
「あれ?その袋……どっかで見たような……」
「……っ!」
ぽぽぽと効果音がつきそうなくらい、勢いよく染まっていく頬。
ハの字に下がった眉毛が、怒りではなく羞恥の赤面である事を表していた。
「何か買ったの?可愛いねそれ」
「ち、違っ……!これは、その……!」
「あっ、分かった。これ……中身ドーナッツでしょ?」
「……」
図星なのか、黙り込んでしまった。
思い出したぞこれ……どっかのクラスでドーナッツ屋さんをやってるらしくって……確か、それがこのピンクの袋だ。
それがパンパンになるまで、こんなに買い込んで……まさか、一人でこれ全部食べるつもり……?
え……胃袋わんぱく過ぎない……?
(私だったら二個くらいで胃もたれしそう……)
「ふ〜ん……甘い物好きなんだね」
「ち、違う!こ、これは……無理矢理買わされただけだ!」
「え〜ほんとぉ〜?」
「ほ、本当だ!さっき廊下を歩いていたら、生徒会のメンバーに呼びかけられて……それで、立ち寄ったついでに買って行けって……!だから、別にドーナッツが好きな訳じゃなくて、これは違って……!」
はい、ダウト!
普段静かな人がいっぱい喋る時は大体嘘って、なんかで見たよ私!
私のニヤニヤにさらに顔が茹蛸になっていく。
「……っ!ほ、他の生徒会メンバーにも呼ばれてるから……!そ、それじゃあ!」
(ニチャア……)
私が何か言う間もなく、慌ててどこかへ歩いて行ってしまった……
でも、今日は18禁コーナー無いから安心だね⭐︎(ネタにしていくスタイル)




