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その差、一回り以上  作者: あさぎ
みんな違って、みんないい(感じにヤバい)
55/179

11ー4.とある家出少年の話

 


「……真面目な話、していい?」

「えっ?」


 あまりな唐突すぎる切り出しに驚いて彼の顔を見ると……ふわふわしたあの彼とは別人のような、真顔の青年がそこにいた。


 突然の真剣な眼差しに思わずドキッと心臓が跳ねる。


「駄目?」

「あ、いや……全然大丈夫だよ」


 本当はもっと良い言い方が他にあるような気がする。

 もっとリラックスして話してもらえるような、うまいセリフが。


 でも、私にはこれが精一杯だった。コミュ障でほんとごめん……




「……あのさ」

「うん」

「俺、学校の近くで一人暮らししてんだ」

「え、まじ?」


 えっ?!高校生で一人暮らし?!な、なんだって〜?!


(え?え?え?今サラッと言ったけどすごくない?)


 いや、そりゃあ……日本全国探し回れば、他にもそういう人いなくはないんだろうけど……だとしても、まだ十代で……すごいぞ。


「俺、親が嫌いでさ。高校入学してすぐ、家出したんだ」

「ええっ?!家出って……ご飯は?ってか、住む場所は?」

「最初は一人暮らしなんて全然考えてなかったから……とりあえず色んな()()の家泊まりまくって、なんとかしてた」

「友達の家?」

「うん。一人暮らししてる奴とか結構多いからさ」


(え……それ、きっと悪い友達だよね?)


 彼自身の設定とか話のニュアンス的に、多分そう。

 一人暮らしの高校生がそんな大勢いるとは思えないし……多分年齢はもっと上か、下手したら大人。


 つまり、夜遊びとかする方の……なんていうんだろ、不良というか……テレビとかに取り上げられそうな、いかにもって感じの……そういう()()


(わ〜お……)


 そういや唯って、そもそも不良っていうキャラ設定なんだっけ。すっかり忘れてた……

 なんとなくアホの子っぽいからって色々フィルターかかりまくってたけど、なかなか悪い子なんだった。


 なんかちょっと、話の雰囲気変わってきたぞ……


「そしたら姉ちゃんに捕まって、こっぴどく叱られて……んで、気づいたらなんかアパートとか勝手に契約されてたって感じ」


 姉ちゃん強い。流石っす。


「家賃とかは俺のバイト代だけじゃキツいから、実家持ちなんだけど……今思えば、あの時姉ちゃんなんて説得したんだろうな」


 姉ちゃん流石っす(2回目)。


「お姉さんって、確か10歳上だっけ?」


 唯は17歳だから、27歳。


(ほうほう……私より少し下って感じか)


「うん。高校卒業してすぐに結婚して、子供二人いて……さらに今もう一人妊娠中」


(えっ)


 姉ちゃん(略)。




「……って、姉ちゃんの話はいいんだよ。俺が話したいのはそれじゃなくて……」


 もうすでに充分すごい話をしてる気がするけど、まだ他にあるらしい。


「実は俺ん家、鰻屋なんだ」

「えっほんと?どの辺?もしかしたら食べに行った事あるかも」

「いや、無いな。隣の県だし、行くとしてもここから遠いから……」

「そっか〜残念……あっ!でも、じゃあいつもやってるバイトってもしかして……」

「違うよ。実家じゃバイトなんてしたこともないし、手伝ったこともない」


 ここまで至って普通の会話のはずなんだけど……なんだか彼は暗い表情のまま。


 何か悩みがありそうな雰囲気はしてるけど……


(『一人暮らし』『家が鰻屋』。う〜ん、まだ話が見えてこない……)




「……手伝いなんてしたくもない。あの顔見るだけで吐き気がする」


 およ?空気変わったぞ?


「アイツら、ほんと自分達の事しか考えてないんだ。物心ついた頃から継げ継げって、もうほんっとしつこくてさ……でも俺の話には聞く耳持たない、ガン無視だ。こっちはやりたくね〜って言ってんのにさぁ」


 アイツら、って……ご両親の事かな?文脈的に。


「それでも、何もなけりゃ大人しく継いだかもしれないよ?でも中学の頃、試しにやってみろって言われて手伝った時にさ……やり方違ぇだの下手くそだの、散々ボロクソ言われて……もう二度とやりたくねぇ」


 お、おおぅ……なかなか色々あったのね……

 勝手な推測だけど、彼の両親は結構な職人気質のようだ。


(なんだろ……寿司屋の大将みたいな?)


 直接見た訳じゃないけど……叱咤激励とかいって、弟子とかに罵声飛ばしちゃうタイプなのかもなぁ。なんかそんな気がしてきた。


「そっか……それで家出したんだ」

「そう」

「……大変だったね」

「ありがとう」




 そう言うなり、ベンチから立ち上がる唯。


「……さてとっ!ふぅ〜喋った喋った!愚痴聞いてもらってスッキリだ〜!よし、じゃあそろそろ帰ろっか!」


 でも、言葉とは裏腹に彼の表情はまだどこか暗いままだった。



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