11ー2.おまわりさん、また私です
おまわりさん、お久しぶりです!また私です!(ダイナミック自首)
ここで意識をまた目の前に戻すと、唯はにっこりしたまま待っててくれていた。
「……」
「……」
彼の目を一瞬見て会話を続ける意思だけ伝え、無言を返す。
とりあえず今は、お言葉に甘えて黙っておく事にした。
「……で、どう?行く?」
何事もなかったかのように話が進んでいく。
バイク、かぁ。しかも二人乗りなんて、全然初めて。
学生の頃はずっと自転車移動で、社会人になってからは自分の車あるし……バイクは一度も乗った事なかった。
でも、風を切って走るのって楽しそう。
車とはまた違って、気持ちよさそうだし。
(リフレッシュしたら、また気分一新……頑張れそうだしね)
「じゃあ……乗せてもらおうかな」
「もちろん。で、どこ行きたい?」
どうしよう。
パッと思いつかない。
元々インドアで出不精だからなぁ。
友達とどこか遊びに行く時も、いつも行き先に困るんだよなぁ。
どこ行きたい?って聞かれても、毎回言葉に詰まっちゃう……
「え、ええっと……」
なかなか行き先を言い出さない私に、彼は何かを察したようで。
スッと姿を消したかと思ったら、バイクを引きながら駆け寄ってきた。
「ほらほらっ、乗って!」
乗りながら、ペンペンとバイクの後ろを叩く唯。
(ええっと、どうやって乗るんだこれ……)
悩みながら、もそもそと後ろの出っ張りにまたがる。
(乗るところは、多分ここで合ってる……よな?)
「あ……もしかして、乗るの初めて?」
そう言いニヤリと笑う彼は、なんか悪い事企んでそうな顔をしていて。
(むむ。これは、なんかあるぞ……)
「うん。実は初めてでさ……乗るとこ合ってる?」
「合ってる合ってる。けど、ちょっと遠いかな。もうちょっとこう……よいしょっと」
彼の方に引き寄せられる私の体。
彼の背中に覆い被さるようにピトッと密着。
「うん、このくらい。このくらいがちょうどいいよ」
(おおぅ、ご褒美……)
鼻を掠める爽やかないい香り。
なんかの香水かな?柑橘系のさっぱりした匂いだ。
「しっかりくっついててね。ちゃんと体固定しないと振り落とされちゃうよ?」
喋りながら、私の両腕をそれぞれ左右の手で掴みスルスルと自分の方に引き寄せていく。
(えっ、ちょっと、何して……)
「そんで、手は……こうっ!」
ムギュッと強めに彼の腰に押し付けられる私の両手。
「ひゃっ?!」
な、なにすんだいきなり……!
柄にもなく、女子っぽい声出しちゃったじゃんか!
いつものうおぉ!でも、わぁ!でもない、珍しい悲鳴に振り向きながら、また彼はニヤっと笑った。
「ふふっ、驚いた?」
(あっ!まさか、これが目的……!)
なぁ〜にが『ふふっ、驚いた?』じゃ!イケメンスマイルしやがって!
おのれ!貴様ぁ……!
でも許しちゃう!
なんかやられた感あって悔しいけど、顔がいいから……許す!くっそぅ!
「ちゃんと俺の腰、掴んで。しっかり持ってないと落ちるよ?」
「こう?」
「そうそう、ギュッとしっかり……」
ほう。ほうほう。
「しっかり?」
「うん」
ここでふっと間が入る。
何かを待っているかのような、不自然な間が。
(おや?この間は……あれか?あれかな?)
突然のスキンシップタイム到来。
歩君の時以来、久々の。まさかのこのタイミングで。
(スーパーお触りタイムの始まりじゃ〜!)
いえ〜い!ドンドンぱふぱふ〜!
ただのセクハラじゃん、なんて言っちゃいけない……これはスキンシップだから!
そう、これはあくまで彼らとのコミュニケーションの一環……!
でも……『しっかり』って言ったもんね、本人が!
自らしっかり目をご所望で……うふふ、うふふふ……
それじゃ、遠慮なく!いざ!
さわさわさわ……
(うわ!腰ほっそ!よくこの身体支えてられるな!)
初っ端からいきなり腰を触り出す奴。お巡りさん、コイツです。
「……っ!っふふっ!もう、くすぐったいなぁ」
でも、そんな風に変なところ触ってもこのとおり。
ほんのり頬染めつつ、満更でもないようだ。いいぞいいぞ〜。
(次は頭……)
さわさわ、さわさわ……
「ん?どうしたの?」
喜びはしないけど、歩君と違って頭触っても嫌がらないタイプらしい……ほうほう、なるほどな。
(それじゃあ、次は……◯◯◯◯)
ご想像にお任せします。うふふふふ。
さわさわ、さわわわわわ……
「こら!あんまそういうとこ触らないの。もし、その気になったりしたら……そっちだって困るでしょ?」
あ、怒られた。ちょっとやりすぎたかな?
(でも、怒られてもた〜のし〜!)
そう、これこれ!これだよこれ!
乙女ゲームといえば、これだろ!きゃっきゃウフフのスキンシップ!
だけど、こうも定番ネタを出されるとやっぱりゲームのキャラなんだなって感じもして……ちょっと悲しくもあったり。
めんどくさいオタクの心……
「満足した?」
「うん」
ホクホクした気持ちで、満面の笑みを返すオタク。
ニチャァって音が聞こえた?気のせいじゃないかな?
「んじゃ、説明の続きだけど……後ろ乗る時は、基本的には重心を真ん中キープで……」
「こう?」
「そうそう。で、曲がる時は……バイクと一緒に傾くの」
「ふむふむ」
バイクって、要は自転車みたいなもんだもんね。
傾きで曲がるから、重心の位置は大事になってくる。
「そんじゃ、行くよ〜?」
エンジンがかかり、その振動が直に尻にくる。
ドルルルルル……ってやつ。
(あっ!これはもしや……尻がやられるやつ……?!)
尻がピンチに晒されている……!
だが、ここに座布団は無い……!
って事は、つまり……お尻がやられるのを黙って見守るしかないって事か……!
(ぐぬぬ……!)
刻一刻と私のお尻が危機を迎えている間にも、どんどん加速していくバイク。
お尻も気になるけど……加速と共に不安が募っていく。
(わ、わわわわ……)
やばい。今更ながらめっちゃ緊張してきた。
いやこれ……振り落とされたりしない?普通に乗っちゃって平気なの?
私、初めてなんだけど……大丈夫なもんなの?
さっきまであれほど尻が尻が〜って言ってたけど……それよりも、だぞ……
(だ、大丈夫かな……)
不安でいっぱいの私とは反対に、唯はノリノリだ。
「しゅっぱ〜つ!」
「え?ど、どこへ?」
「秘密!」
えっ。どこ……
「ほら、行くよ?」
「お、お願いしま〜す……」
(もうどうにでもなぁれ⭐︎)