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その差、一回り以上  作者: あさぎ
みんな違って、みんないい(感じにヤバい)
49/188

10-5-4.らんなうぇ〜い⭐︎

ときめきねぇ!(物語の)盛り上がりねぇ!

(タイトルの割に)そんなに言うほど走ってねぇ!

オラこんな話嫌だ〜。


ふざけ過ぎましたごめんなさい。許してクレメンス……



 どう回避しようか悩んでたら、目の前を歩く歩君の進路が突然変わった。

 なんの前触れもなく、急にぐりんっと斜めに方向転換。


「えっ?!」

「……」


 おや?と思って彼の方を見るも、何も言わない。


「……」

「……」


 そして、無言のまま……まるで磁石の同じ極どうしのように、強く離れるように迂回し出した。


(お、おおお……?)




 何の言葉もなく、顔を見ても無表情で……今どう思ってるのかいまいち読めないけど……

 どうやら歩君としてもあまり会いたくない相手だったようだ。


 なんの説明もないけど、この動きからして多分そういう事なんだろう。


 そりゃそうか。保健室のイベントの時点で、もうすでにお互い犬猿の仲っぽかったもんな。


 主人公を巡って仲悪くなっちゃったのか、それとも元々合わないってだけなのかは分からない。

 けど、そもそも性格的に二人とも我が強いというか……俺様気質みたいなのが結構あるから……う〜ん……

 やっぱり、どっちかっていうと後者かな?


 まぁ、でもラッキー。結果オーライだ。

 どうしようかって一瞬焦ったけど……なんか勝手にうまいこと鉢合わせは回避できてしまった。


(あとは本人に見られてない事を祈る……)




 そうして少し遠回り気味に歩いていって……秋水の姿はもうすっかり見えなくなった頃。

 駅のコンコースを抜けて、ホームに到着。


 あとは電車に乗るだけ、もうこれで安心と気を抜いていると……


「うわぁっ?!……っと、ととと!」


 急に強くガシッと手を引かれ、慌ててバランスを取る。

 疲れた足でなんとか踏ん張って、ギリギリ転ばずに済んだけど……


「な、何?!」

「っ、ごめん……でも急いで!」


 いつもなら振り向いて立ち止まってくれるはずが、今日は違う。

 スピードが少し緩んだだけで、その足は止まらない。


「え、あっ、ちょっと!」

「早く!」


 心配してる雰囲気はあったけど、危うく転びそうになる私を気遣いつつも、なんだか相当焦っている様子。


「何、なんなの?そんな急に……」


 何か起きたんだろうけど……一体何が?

 突然の雰囲気の変化に頭が追いついていかない。


「いいから早く!」

「早くって……ちょ、ちょっと……!」


 彼に手を引かれ、駅のホームをバタバタと進む。


(な、何?一体どうしちゃったの……?)


 今にも走り出しそうな勢いだったけど、人混みがすごいおかげでダッシュはできず。

 駆け足に近いような超ハイペースの早歩きでズンズン進んでいく。


「ね、ねぇ、待って……」

「……」

「ねぇ、そろそろ電車来ちゃうよ?あんまり端っこ行くと……」

「……」

「確か今度の車両って、短い方なんじゃなかったっけ?ほら、10両で……」

「……」

「行き過ぎちゃうって!ねぇ、待ってってば……!」


 いくら話しかけても全く返事がない。

 必死に歩いて歩いて……何かから逃げるのに夢中のようだ。


(でも、もう秋水とは充分離れてる……今度は何?なんなの?)




 そうして慌ただしく進んでいくと……途中でなんだか急に強い視線を背中に感じて、思わず心臓が跳ねる。


(……っ?!)


 普段こんなに驚く事はないのに……今はなんだか野生の勘というか、内にある何かが危険信号を発していた。


 ごくり。


 今までとは違うタイプのドキドキに思わず唾を飲み込む。

 足は止めずに、首だけで恐る恐る振り向くと……


(あ……)


 数分前に私達が通り過ぎたところ……ホームに降りる階段のすぐ側に……ごちゃごちゃとした人混みの中、一際浮いて見える派手な黄色があった。


 ちょっと遠くてはっきり見えないけど……でも、顔の向きこっちっぽいな?


 いや……こっち見てるな?バッチリ見てるな?




 一度あることは二度ある。ピンチの再来だった。


(こ、今度は唯……!)


 反射的に再び前を向いたその瞬間、私を引く彼の手にググッとさらに力が入る。


「……おい静音、何よそ見してんだよ!転ぶぞ?」

「ご、ごめん……」

「ったく……ほら、ちゃんと着いてこいよ!」


 急ぐ理由は相変わらず言おうとしないけど……でも、もう今ので分かった。


 向こうから飛んでくる鋭い視線から察して、なんとか鉢合わせを回避しようとしてくれているらしい。

 お互い同じ人を想ってるという事を、なんとなく悟ったんだろう……だから、取られまいと。


(お、おおぅ……)


 これが世にいう『私のために争わないで〜』か。ヒロインの取り合い合戦。

 厳密にいうと今は歩君が独り占めしてる訳なんだけど。


(歩君……)


 彼の意図が分かった今、独り占めされてるって思うと……なんだか胸が騒がしくなってくる。


 いや、超ありきたりだし……どこの少女漫画だよって感じだけど……けど……

 これでも一応、生物学的には女……そんなコテコテの展開も、ついついときめいてしまう……




(……っと!危ない危ない、またこういう……)


 思わず本気で彼との関係を考え出しちゃうところだった。

 いや〜危ない危ない……


 そんな事言ってる時点で、もう好きになりかけてる?

 いやいやいや、そんなそんな!


 そんなそんな、まさか……


(まさか……)


 いや、ない!ないない!ないないない!


 邪念を振り払うように強く地面を踏んで、前へ進む。



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