10-5-4.らんなうぇ〜い⭐︎
ときめきねぇ!(物語の)盛り上がりねぇ!
(タイトルの割に)そんなに言うほど走ってねぇ!
オラこんな話嫌だ〜。
ふざけ過ぎましたごめんなさい。許してクレメンス……
どう回避しようか悩んでたら、目の前を歩く歩君の進路が突然変わった。
なんの前触れもなく、急にぐりんっと斜めに方向転換。
「えっ?!」
「……」
おや?と思って彼の方を見るも、何も言わない。
「……」
「……」
そして、無言のまま……まるで磁石の同じ極どうしのように、強く離れるように迂回し出した。
(お、おおお……?)
何の言葉もなく、顔を見ても無表情で……今どう思ってるのかいまいち読めないけど……
どうやら歩君としてもあまり会いたくない相手だったようだ。
なんの説明もないけど、この動きからして多分そういう事なんだろう。
そりゃそうか。保健室のイベントの時点で、もうすでにお互い犬猿の仲っぽかったもんな。
主人公を巡って仲悪くなっちゃったのか、それとも元々合わないってだけなのかは分からない。
けど、そもそも性格的に二人とも我が強いというか……俺様気質みたいなのが結構あるから……う〜ん……
やっぱり、どっちかっていうと後者かな?
まぁ、でもラッキー。結果オーライだ。
どうしようかって一瞬焦ったけど……なんか勝手にうまいこと鉢合わせは回避できてしまった。
(あとは本人に見られてない事を祈る……)
そうして少し遠回り気味に歩いていって……秋水の姿はもうすっかり見えなくなった頃。
駅のコンコースを抜けて、ホームに到着。
あとは電車に乗るだけ、もうこれで安心と気を抜いていると……
「うわぁっ?!……っと、ととと!」
急に強くガシッと手を引かれ、慌ててバランスを取る。
疲れた足でなんとか踏ん張って、ギリギリ転ばずに済んだけど……
「な、何?!」
「っ、ごめん……でも急いで!」
いつもなら振り向いて立ち止まってくれるはずが、今日は違う。
スピードが少し緩んだだけで、その足は止まらない。
「え、あっ、ちょっと!」
「早く!」
心配してる雰囲気はあったけど、危うく転びそうになる私を気遣いつつも、なんだか相当焦っている様子。
「何、なんなの?そんな急に……」
何か起きたんだろうけど……一体何が?
突然の雰囲気の変化に頭が追いついていかない。
「いいから早く!」
「早くって……ちょ、ちょっと……!」
彼に手を引かれ、駅のホームをバタバタと進む。
(な、何?一体どうしちゃったの……?)
今にも走り出しそうな勢いだったけど、人混みがすごいおかげでダッシュはできず。
駆け足に近いような超ハイペースの早歩きでズンズン進んでいく。
「ね、ねぇ、待って……」
「……」
「ねぇ、そろそろ電車来ちゃうよ?あんまり端っこ行くと……」
「……」
「確か今度の車両って、短い方なんじゃなかったっけ?ほら、10両で……」
「……」
「行き過ぎちゃうって!ねぇ、待ってってば……!」
いくら話しかけても全く返事がない。
必死に歩いて歩いて……何かから逃げるのに夢中のようだ。
(でも、もう秋水とは充分離れてる……今度は何?なんなの?)
そうして慌ただしく進んでいくと……途中でなんだか急に強い視線を背中に感じて、思わず心臓が跳ねる。
(……っ?!)
普段こんなに驚く事はないのに……今はなんだか野生の勘というか、内にある何かが危険信号を発していた。
ごくり。
今までとは違うタイプのドキドキに思わず唾を飲み込む。
足は止めずに、首だけで恐る恐る振り向くと……
(あ……)
数分前に私達が通り過ぎたところ……ホームに降りる階段のすぐ側に……ごちゃごちゃとした人混みの中、一際浮いて見える派手な黄色があった。
ちょっと遠くてはっきり見えないけど……でも、顔の向きこっちっぽいな?
いや……こっち見てるな?バッチリ見てるな?
一度あることは二度ある。ピンチの再来だった。
(こ、今度は唯……!)
反射的に再び前を向いたその瞬間、私を引く彼の手にググッとさらに力が入る。
「……おい静音、何よそ見してんだよ!転ぶぞ?」
「ご、ごめん……」
「ったく……ほら、ちゃんと着いてこいよ!」
急ぐ理由は相変わらず言おうとしないけど……でも、もう今ので分かった。
向こうから飛んでくる鋭い視線から察して、なんとか鉢合わせを回避しようとしてくれているらしい。
お互い同じ人を想ってるという事を、なんとなく悟ったんだろう……だから、取られまいと。
(お、おおぅ……)
これが世にいう『私のために争わないで〜』か。ヒロインの取り合い合戦。
厳密にいうと今は歩君が独り占めしてる訳なんだけど。
(歩君……)
彼の意図が分かった今、独り占めされてるって思うと……なんだか胸が騒がしくなってくる。
いや、超ありきたりだし……どこの少女漫画だよって感じだけど……けど……
これでも一応、生物学的には女……そんなコテコテの展開も、ついついときめいてしまう……
(……っと!危ない危ない、またこういう……)
思わず本気で彼との関係を考え出しちゃうところだった。
いや〜危ない危ない……
そんな事言ってる時点で、もう好きになりかけてる?
いやいやいや、そんなそんな!
そんなそんな、まさか……
(まさか……)
いや、ない!ないない!ないないない!
邪念を振り払うように強く地面を踏んで、前へ進む。
 




