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その差、一回り以上  作者: あさぎ
みんな違って、みんないい(感じにヤバい)
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10-5-3.夢が暗示するその意味は

 


 まだしゅんとしたままの歩君と、川沿いの細い畦道をゆっくり歩く。


 いつもの下校とほとんど同じシチュエーションだし、見慣れてるはずなのに……なんだかやっぱり変な感じ。


「……」

「……」


 沈黙が破られるのは、それからしばらく経った頃……もうだいぶ駅の方まで歩いてきてしまった頃だった。


 歩き始めは花火の会場を離れるのが早い方で、周りは人がまばらだったけど……今じゃもう追いつかれて完全に人混みの中。




「なぁ、あのさ……」

「ん〜?」

「今日は……ごめんな、静音」


 嫌な予感。背中に変な汗がじんわりと……


(ま、まさか、まさかな……この空気感……この後告白とか、ないよね……?)


「……静音?」

「へ?あ、ごめんごめん……でも、どうしたの急に?」

「いや……今日の俺、変だったよなって」

「へ?そう?」


 いきなり拗ねたと思ったら急に赤面し出す……変といえば変だけど、でも君の場合これが普通じゃない?

 割といつも情緒不安定……ゲフンゲフン、ちょっとメンタルがフラフラしがちなだけで。


 強いて言うなら、今のしおしお状態がちょっと珍しいってくらいで。


「ああ……確か今、浴衣で緊張してたんだっけ?」

「いやそれもそうだけど……」

「だけど?」

「その、なんか……最近、たまに不安になるんだ」

「不安?なんの?」

「……よく分かんない」


 変に間を置いた言い方に違和感を感じて。

 彼の目を見ると、案の定ふいっと視線を逸らされてしまった。


 ()()()()()って訳じゃなさそう。

 でも言いたくない……私にはそう見えた。


(まぁ、だからってそれを無理やり聞き出そうとかそんなつもりは全然ないんだけど……)


「……ふ〜ん、そうなんだ」

「その、だから……余裕なくてさ」

「余裕って、なんの?」

「……そ、それは……」


 気恥ずかしいのかなんなのか、黙って頭をワシャワシャ掻きながら明後日の方を向いていたけど……しばらくしたら手を止めて、また話し始めた。


「……なんかさ、ここんとこ変な夢見んだよ」


 ほうほう。


「その……なんていうか、こう……盗られそうになる夢なんだ」

「盗られるって……スリって事?」


 財布盗まれたとかそういうの?

 そりゃ〜盗まれるよ……だって君、いつもケツポケからはみ出してるんだもん……(また言う)


「あ〜いや、なんていうか……俺の大事なものが盗まれそうになるんだ」

「大事なもの……家の鍵とか?」

「あ〜……ものっていうか、人みたいな……」

「ものみたいな、人……?」

「あ〜いや、そうじゃなくて……!あ〜もう!その、なんだ……人だよ人!」

「大切な人って事?」

「な……なんだっていいだろっ!」


 逆ギレはいつも突然やってくる……いやもう慣れたけどさ。


「ええ……でも、言い出したのそっちじゃん……」

「うっさい!」


 えええ……理不尽……


(あ。でもこの感じ……ちょっと元気になってきた?)


 なんか少しずつ声が強くなってきている気がする。


 つらかった出来事を吐き出して、少し気が紛れてきたのかもしれない。

 まだ肝心の本題には触れてないし、聞いてるこっちとしては何が何だか分かんないけど……

 とりあえずそこは良かった……かな?




 それはさておき……


(しっかし……う〜ん……なんかぼんやりしてるけど、大切な人がいなくなる夢って事ね?)


 夢占いは詳しくないけど、なんとなくあんまり良い意味じゃなさそう。


「なんか嫌な夢だね。なんだろ……もしかして、なんか悩んでる?例えば人間関係とか……」

「いや、俺そういうの気にしてないし」


 デスヨネー。


 そういう事で悩むタイプじゃないしな。

 クラスで浮いてるって訳でもなさそうだし。


「じゃあ、バイトの悩みとか?」

「コンビニだぞ?ただ淡々とマニュアル通り動いてるだけなのに、何を悩むんだよ」


 ふむふむ、これは順風満帆って事だな。


 先輩に嫌な事されて……とか、やばい客がいて……とか、そういう悩みがすぐ出てこないって事はなかなか良い職場なんだろう。

 うんうん、いい事だ。


「将来の事とか?」

「ううん、全然」

「おいっ!」


 キリッ!って効果音が聞こえそうなくらいの、見事な言い切りっぷりだけど……全然て!おい!


 悩め!流石にちょっとは悩め、現役高校生!


「え〜、悩むも何もなくない?とりあえずなんか適当に大学行けばいいんでしょ?」


 雑ぅ!


「適当ったって……そもそも何系よ?文系?理系?何に進みたいのよ?」

「分かんね」

「ちょっと!」


 赤点マンは伊達じゃない。


 ……っていやいや、笑い話じゃないよそれ!

 今高校二年生、もう文理でクラス別れててもおかしくない時期だってのに……流石にそれはまずいって!


 心の中の教育ママが火を吐き始めた……いや、教育ママじゃなくたって焦るよこれ。


「いや、そこは真面目に頑張ろ……?」

「真面目だよ、今も十分」

「そうじゃなくって」

「だから、これでも真剣に……」




 途中まで言いかけて、突然歩君が横を向いた。

 顔を逸らしたとかじゃなくて、何かを見つけたような動き。


(ん?)


 彼の視線の先を追うと……


「あ、しゅ……じゃなかった、神澤君だ!」


 結構離れてるけど……ダラダラと駅へ向かって歩くモブキャラ達の中に紛れて、一際目立つ緑色のくせっ毛髪……どう見ても彼だった。


(へ〜、花火大会来てたんだ。なんか意外……)




 ……って、珍しがってる場合じゃない!

 またかち合っちゃったよ、二人!


(えっこれじゃあ、またあの時みたいになっちゃうじゃん……ど、どうしよう……!)



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