10ー5-2.たまにはしおらしく?
ヒューと鳴る度にどよめきが起きて。
そして、少し間を置いてドドーン!と空に大きな花が咲く。
(うわ〜……!)
花火大会なんて、もう何年振りだろう。
昔はこうやってワイワイしてるの楽しかったけど、人混み疲れるからって行かなくなって……
(人混みはやっぱりすごいけど……でも、たまには来てみるもんだなぁ)
人がすごいからって敬遠してたけど、それをはるかに上回るものが現地にはある……
興奮と感動と……あとワクワク感?
(やっぱり生で見る打ち上げ花火って、いいなぁ)
最後の一発を見終わり余韻に浸っていると、ふと横から視線を感じて。
(ん?)
振り向くと、なんだか泣きそうな顔の彼がいた。
「えっ、え……どど、どうしたの?何か……!」
「いや、何も」
いや、そんなうるうるした目でそう言われても!ってか、急にどうした!
振り向いた時、間違って別人の方向いちゃったかと思っちゃったくらいよ!
「え?え……なんだろ、なんか悲しいことでも思い出しちゃった?」
「……」
いつもの元気な彼とは打って変わって、なんとも言えない寂しげな空気。
しょげたまま何も言わない彼をじっと見ていたら、なんだか胸の奥がくすぐったくなってきて、思わず視線を逸らしてしまった。
変な感じだ。いつもなら『可愛い〜っ!』って心の中で大騒ぎするのに、なんだか今は無性にむず痒い。
彼の心の中に何かある気がして、なんだかふざけられなかった。
「……」
「……」
「静音……」
「うん」
「あの、さ……」
「……」
「この後……どうする?」
「うぇっ?!」
予想外の言葉に思わず変な声が出てしまった。
(えっ……こんだけ溜めといて、それだけ?)
しかも、ただの予定確認かい。なんだそりゃ。
なんか真面目な事言うのかと思いきや、これである。
「ええっと……う〜ん、どうしよっか」
今、私の心の中では天使と悪魔が戦っている。
『こんなに大人しいなんて珍しい……せっかくだから、ちょっとからかってみたら?面白そうじゃん?』
『駄目よ静音、悪魔の言う事なんて聞いちゃ駄目!今はそれどころじゃないわ!彼はきっと何かつらい事があって……!』
『んなもん知らん!あたしゃ、あの歩君が弱音吐くとこが見たいんだよ!』
『流されちゃ駄目!今の彼は傷ついている……そこをちょっかい出すなんてとんでもない、優しくしてあげないと!』
『強気男子の情けない顔からしか得られない栄養がある!』
『そんな……駄目よ!』
『天使だって!そうは言っても、見たいんだろ……歩君の弱気フェイスが!』
『うっ……そ、それは……!み、見たい、かも……!』
おい、天使!あっさり負けんな!
ここは何があったのか聞いてあげるのがきっと正解……でも、せっかくしおしおしてる彼がここにいるんだしね。
イジって下さいと言わんばかりの。
外はもう暗いとはいえ、今日は花火見ただけでまだ他に何もしてない。
これで、じゃあ帰ろっか☆なんて普通は言わないだろうけど……あえてここは聞いてみる。ワクワク。
「じゃあさ、歩君はどうしたい?」
「俺……?」
お、動揺してる動揺してる。
「え、いや……別に。どっちでもいいけど」
言葉だけ見るとキツいけど、弱々しい声色に感情ダダ漏れだ。
なんなら、帰りたくないって顔に書いてあるのが見えるくらい。
いやぁ、大変美味しゅうございます。
これでしか、得られない栄養がある……うふふふふ。
(ふ〜ん、そうかぁ……)
だけど、そう素直に言われると虐めたくなるのが人の性。
なんだかさらにイタズラ心が沸いてきたというか、もっとからかいたくなってきちゃって。
(悪いおばさんでごめんねっ!)
「そっか。じゃあ……暑いし、今日はもう帰ろっか」
「えっ」
一瞬でまん丸になった彼の瞳。
もはやそこには可愛いしかなかった。
「え?だって、行きたいとこないんでしょ?」
「まぁ、うん……」
「だから……帰、」
「……待って」
私の言葉を強く遮る彼の声。
外は暗かったけど、彼の表情が切なく歪んでいく様子はなぜだかはっきり見えた。
「も、もう少し……まだ、遊べるだろ……?」
より一層潤んでいく瞳がじっと私を見つめている。
(あれ?あれれ……?)
あれれ?思ったのと違うぞ?
ここは逆ギレして、うるせぇ!バーカバーカ!とか言われると思っていたから……いや、むしろその言葉を引き出したくてわざと挑発したようなもんだから……完全に不意打ちだった。
「え、えっと……つまり……?」
普段なら一回で済むはずの会話なんだろうけど。
なんだか理解が追いつかなくて、思わず聞き返してしまった。
「だ、だから!その……まだ……帰りたくないなって……!」
ヤケクソのような荒っぽい言い方に、この顔の赤らめ具合。可愛いとしか言えない。
(ひ〜!可愛い……!)
どうしたどうした、急に。
いつもと違った角度で可愛さアピールかい?
そっけなくなったと思ったら、今度はしおらしくなって。
そして、さらに突然デレる……そんな風に緩急つけて、さらに私を沼に引き摺り込むつもりかい?
「え、ええっと……じゃあ適当にこの辺歩こうか。たまには散歩も良いよね」
返事はなかったけど……そのまま歩き出したって事は、答えはおそらくイエスなんだろう。