10ー5ー1.夏休みデートラッシュ その5
第五週、デートラッシュの最後は花火大会!
お相手はもちろん……約束した歩君と!
でも、そんな楽しいはずのイベントの始まりは、謎の全力疾走からだった……
「はぁっ、はぁ……」
目覚めるなり、なぜか私は駅のホームを走らされていた。
浴衣に草履の格好で、ゼーハー言いながら。
と言ってももちろん……走りたくて走ってる訳じゃない。
まるで操り人形のように、見えない何かに前へ引かれ背中を押され……訳も分からず走らされていたのだった。
さすがシステムの力、相変わらず反則級……
(もう、いっつもこんなんばっか!なんでまた走らなきゃなんないのよ……)
『また』。そう、体育祭の事件のことだ。
あの時はジャージにスニーカーだったからまだ良かった。
でも、今回は違う。少なくとも走る人の格好じゃないし、この状態でまた転んだら、多分大惨事……
なんだよも〜。浴衣で変に足元拘束されてるせいで足が死にそうだし、走り過ぎて脇腹痛いし、さっきから親指の股の部分が擦れて痛いしさ……イベント開始早々ボロボロなんですけど〜?ひどくない?
ぶつくさ心の中で文句言いながら走っていると、改札出たところに見覚えのある赤髪が見えた。
(お、いたいた)
待ってるって事は……あ〜なるほど、デートに遅刻して焦ってる主人公のシーンって事か、今のは。
コ◯ンもびっくりの超推理。
エスパー並みの状況判断力がどんどん洗練されていく……
「はぁ、はぁっ……!お、おまたせっ……!」
「……」
息を切らせて駆け寄るも……歩君、怒りのノー挨拶。
遅刻した私が悪いんだろうけど、これはこれでなかなか悲しいものがある……
「あ、えっと。その……ごめん。もしかして、結構待った?」
「いや……」
溜めるようなその口ぶりからして、どうやら結構な遅刻のようだ。
とはいえ、この遅れはシステムの仕業であって……そう言われても私にはどうしようもないんだけど……でもごめん。
「え、ええっと……」
「……」
こういう時に気の利く話題が出ないのがコミュ障である。
「えと、その……」
聞いてはいるみたいだけど、なんのリアクションもなく。
(な、なんか……なんか言わなきゃ……)
「え、ええっと……その浴衣、似合ってるね」
褒め方雑だなおい!ってツッコミが聞こえた気がした。
ごもっとも、まさにその通りです……
タイミングといい、言い方といい、とりあえず褒めた感すごいけど……でも気持ちはほんとだよ?
藍色で、うっすらストライプ模様が入ってて……いつもより垢抜けた雰囲気で、なかなか似合ってる。
あと喉仏な!そこ大事!
着物系はどれも首元が狭めのVネックみたいな形になるから、縦のラインが強調されて喉仏が綺麗に見えるんだよね……暗い色味のものならなおのこと肌がさらに強調されて、喉仏が綺麗に見えるのだ……!(オタク特有の早口)
え?そう思ってんの私だけ?うそや〜!
褒めても微動だにしないもんだから、余計に空気が張り詰めていく。
結構本気で怒ってる感じ?
「えっと、お……お、怒って、る……?」
顔色を伺いながら、恐る恐る聞いてみる。
「いいや」
「そうは言ったって、なんかあるでしょその顔」
「何も」
むむ……これは聞いても余計に口が固くなるパターン。
(そういや、前もなんかこんな事あったような……)
という事はつまり、この攻略法は……
「あ……もしかして、私の浴衣?」
「なっ?!そ、そんな訳ねぇだろ?!」
まさかの一発大正解。
(わぁ、分かりやす〜い……)
「ふふっ、ありがとう。喜んでもらえてよかった」
「うっさい!」
わざと彼に向かって微笑んでみせると、これまた分かりやすくプイッと顔を逸らした。