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その差、一回り以上  作者: あさぎ
みんな違って、みんないい(感じにヤバい)
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10ー4ー2.厳しい躾のその末路

 


 まだ目の前の彼は物憂げに目を伏せていた。


(おお、まつ毛なが〜い……)


 目を伏せた事でより強調されて見える長いまつ毛に、少しだけドキリ。


 他の攻略キャラとは違う、大人びた彼の雰囲気と相まってなんだかちょっと色っぽく見えて。


(ほ〜。こうして見ると結構美人さんなんだなぁ)


「……」

「……」


 呆れて言葉が出ない、いっちー。

 そして、それをいい事にじーっと彼を観察する私。


 ここは図書館だし元々静かな場所だけど、ペンも会話も止まった自習室はさらに静かだった。




「……仕方ない、俺がやろう」

「へっ?」


 いきなり謎の発言。

 会話の再開は突然だった。


(えっ?俺がやるって……何を?)


「それ、貸してくれないか」

「え?ああ……はい」


 言われるがまま、問題集を手渡す。


「俺が代わりにやってやる」

「えっ、でもこれって後で先生に提出するでしょ?」

「まぁな」

「バレない?」

「先生の性格的に、答えさえ合ってれば筆跡のことは何も言ってこないはずだ」


 え、ほんと?!宿題やっといてくれんの?!まじ?!


「ところで、他は大丈夫なのか?自由研究とか……」

「え?なんかあったっけ?」


 えっ!数学だけじゃない、だと……!


 色々時間が飛ばされてるおかげで、浦島太郎だよ。ほんとに。


「忘れてたって感じだな」

「あはは。もうすっかり頭から抜けてたわ……」

「で、どうする?それも代わりにやってやろうか?」


 わ〜お。

 あのいっちーですらこれとか……システムの強制(矯正?)力、強すぎる。


「え、いいの?」

「ああ」

「ありがと〜」


(やった〜!ここは彼に甘えて任せちゃお〜!)


 いえ〜い!これでデートイベントに全力投球できるぜ〜!


 あ、こらそこ!とんだクソ野郎だなとか言わない!

 私、野郎じゃないからね!(ズレる論点)




「そうだな、その代わり……」


 お?なんだい?条件交渉かい?


「少し、俺の話を聞いてもらってもいいか?」

「え?いいよ」


 お安いご用だ!

 ってかそれでいいの?対価安過ぎん?







「そうだな……こう改まって話そうとすると……なんか緊張するな」


 お、おう……私も緊張してきたぞ。


「では、俺の身の上話をさせてもらおう。俺は市ノ川家の三男で……上に兄が二人いる」


 ほうほう。


「父親は町医者で市ノ川クリニックの院長、一番上の兄も一昨年からそこで研修中。もう一人の兄も医学部で勉強してる……」


 みんなお医者さんか。なんかすごい家だな?


「へ〜、すごいじゃん!あ、って事は……市ノ川君もいずれは……?」

「ああ。そのつもりだ」


 もう少し喋りたそうだったので、ペースは彼に任せて相槌を控える。




「母親も看護師として同じ病院で働いていて、普段いない両親の代わりに俺や兄を育ててくれたのは……父方の祖父母だった」


 机の上で組んだ自分の手をじっと見ながら、淡々と話を続けていく。


「一番上の兄は……なかなかの問題児だった。大人になった今はそうでもないが……孫だからと甘やかされて育ったがためにだいぶ我儘に育ってしまって、後々矯正が大変だったそうだ」


「そのことを反省してか、下二人……特に三男の俺の時はかなり躾が厳しかった。マナーや作法はもちろん、趣味まで制限されて……友達とどこか遊びに行く事すらなかなか許してもらえなかった」


「高校生になった今は、祖父母も年取ったせいかそこまでの苛烈さはなくなって……だいぶ自由にさせてもらってるけどな」


「俺は、その事をどうこう言うつもりはない。むしろ、しっかりと躾けてもらった事には感謝してる。でも……」


 ふとここで彼は顔を上げた。


「……」

「……」


 言葉はなく、ただ揺れる青い瞳がじっと私を見つめてきた。


(大丈夫大丈夫、続けて……)


 言おうか躊躇っているであろう彼に軽く微笑み、続きを促す。




「……その、なんていうか……たまにふと寂しい気持ちになるんだ。俺の本音を、俺自身を誰かに受け止めてもらいたくなるんだ……」


「小さい子供が自分の成果物や発見を見て欲しくて母親にしつこく話しかける……そんな光景、よく見かけるだろう?」


 ああ……ママ見て!ってやつね。あれね。


「君もおそらくそういう時期があったんだろうし、もちろん俺にもあった。だけど違うのは……俺の場合、見て欲しくても聞いて欲しくても、相手が誰もいなかったって事……」


「両親はほとんど家にいない、祖父母は説教ばかり、上の兄からは『躾』に巻き込まれるのが嫌だからと避けられていて、下の兄は俺と同じく自分の事で手一杯、むしろ彼も彼で聞いて欲しいくらいだったんだろう」


「だから、今でも親子のそういった会話を見かけると……なんだか苦しくなって、見ていられなくなるんだ……」


 そこまで言って彼の言葉は一旦切れた。


「……」

「……」


 ふと窓の外を見ると、日が傾き始めていた。

 彼の話に夢中になってて気づかなかったけど、ペンを置いてからだいぶ時間が経ってしまったようで。



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