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その差、一回り以上  作者: あさぎ
みんな違って、みんないい(感じにヤバい)
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10ー4ー1.夏休みデートラッシュ その4

 


 第四週、いっちーと図書館で勉強デート!


 夏休みの課題がなかなか進まないから図書館で缶詰しようとしたら、たまたま側を通りかかった彼に珍しく誘われたという設定で。


(シナリオ上仕方ないのかもしれないけど、無理矢理接点作りました感がすごい……)


 まぁ何はともあれ、彼と一緒に数学の問題集をやる事になったのだ。




 今回のイベントも、当たり前のように1日の途中からだった。


 日差しの落ち着き具合とか周りの雰囲気からして、おそらく午後……昼過ぎとかその辺りだろう。


 自習コーナーは今日珍しく誰もいなくて、ほぼ貸切状態。

 広い部屋の中、二人っきりで黙々とシャーペンをカリカリ。




 カリカリ……


 カリカリ、カリカリ……


 カリカリカリカリ……




 テンポの良い、いかにも頭良さそうなペンの音が二人分。


 そう、頭良さ『そう』な。


 開いているページがどんどん変わっていく、いっちー。

 それに対して……ずっと同じ文章、同じ図と睨めっこする私。


(ペンの音ってさ、聞いてるだけでなんか賢くなった気がするよね)


 ……なんて、アホな事考え出すレベルには限界が来ていたのだった。

 まだ一問目だけど。


 ほ、ほら……私、文系脳だから……!ほら、ほらね!

 言い訳乙?あっハイ……




 カリカリ、カリカリ……




 ふぅ〜。よし、やっと一問解け……


(あっ駄目だ、検算したら合わない……)


 ……てない。不正解。


 うわ〜。やり直しかぁ。

 今まで書いたの消して、またもう一度最初から計算し直さなきゃ……


 消しゴム、消しゴムっと。




 グシャッ!




(あ……)


 強めに消しゴムをかけたら、紙が思いっきり折れてしまった。

 何度も何度も消しゴムで擦られ、紙がよれてきていたようだ。


 破れてないのはよかったけど、解答欄がシワシワに……


(ほら〜!やっぱもう無理だって!紙だって限界って言ってるじゃん!)


 ふと何気なく机の上を見ると、私が生み出した消しカスが大量に溜まっていた。


(はぁ……久々に頭使って疲れた……そろそろ時間飛んでくれないかなぁ)


 いつも変なタイミングでいきなり飛ぶのに、こういう時に限って飛ばないんだよなぁ。なんだよも〜。


 せめてこれが数学の問題集じゃなきゃ、まだワンチャンあったのになぁ。




「うう〜ん……」


 伸びをするついでに、両腕を万歳したままで思いっきり机に突っ伏す。


「ん?なんだ七崎、もう集中切れたのか?」

「うん。なんか疲れちゃった」

「でもまだ最初のページだろ?」


(およ?怒らないぞ?)


 これは好機とばかりに、わざとらしくむくれてみせる。


「もう疲れたよ〜」

「しかもそれ、よく見たらまだ一問目じゃないか」

「もう、む〜り〜。つ〜か〜れ〜た〜」

「おいおい……」


 怒ってない……だと……?!

 あれほど堅かったいっちーが!あの彼が!


(という事は、待てよ……これはもしかして……)


「七崎、疲れたのは分かったから……ほら、せめて一問くらいは……」

「無理」


 何となく確かめたいのもあり、少し強気に出てみると……


「はぁ……全くお前は……」


 その言葉を最後に、彼は目を伏せ無言になった。

 呆れてものも言えない、といった感じで。




(な、なんと……!)


 お分かりいただけただろうか……?


 某番組のナレーションみたいだけど。

 今のやり取りの中で……彼の異変、お分かりいただけただろうか?


 やる気ない態度の私に対して、ご覧の通り全く怒らなかった。


 呆れてはいるけど、怒ってはいない。

 あれほどルールがどうのとか真面目キャラだったのに、キレてないのだ。




 なんとなくこの辺で薄々気づく人はいるだろうけど……これって、つまり……


(つまり……好感度が上がってきてるって事、だよね……!)


 身も蓋もないメタ発言だけど、ここではそれが現実だから。


 あくまでゲームであるこの世界にとって、システムは絶対的な存在で……目の前の彼も例外ではなく、機械的に仕組まれた通りに動く。


 日が経てば好感度が上がる。好感度が上がれば、セリフや態度が変わる……

 全てはシステム通りに。


(おおぅ……あのいっちーも、とうとう……)


 何が始まったのか、はっきりした呼び名があるわけでもないから表現が難しいけど……乙女ゲームあるあるの、一定以上好感度溜まった時のあの豹変っぷり、アレが始まったのだ。


 冷たくて反応もイマイチだったのが急に手のひら返しして、露骨に好意を示してくる……あの現象が。


 あれほど勉強やる気ないアピールしてても、いい加減にしろ!って怒らないあたり、おそらくそう。




(あれほど堅そうなキャラでも、システムには抗えなかったか……)


 いや、嬉しいけどね!


 彼ルートの攻略が進んだって達成感、嬉しいよそりゃ!

 オタク冥利に尽きるっていうか、やっと心開いてくれたって大興奮ものだよ!


 でもそれは……何のしがらみとか無ければ、の話。


(そう、この先に修羅場が無ければな……!)



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